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魔導研究所

「電気って何ですか?」


 宰相執務室で魔道研究所の報告を受けている最中のことだった。


「どこでそれを聞いた?」


「リスター王子です。よく分からないが面白そうだと言っておられましたよ。私にも教えて下さいな。」


 彼女はジークリンデ、通称リンデ。元はマギーの教え子でノイエブルク王立図書館の司書代理をしていた。魔法の素質が高く好奇心が旺盛なので、魔道研究所で好きなようにやらせている。


「しまったな。口止めしておけばよかった。まさか魔道研究所にまで顔を出しているとはね。」


「前から来ておられましたよ。宰相様こそ、所長のくせに顔を出さな過ぎです。たまには来て研究を手伝って下さい。」


「ごほん!宰相様は多忙ですのでまたの機会にお願いします。」


「ドゥーマンのけちっ。少しぐらいいいじゃない。」


「駄目です。ノイエブルクからかなりの受注願いが来ていて裁可待ちの案件が多いのです。そちらにも関係あることなのですよ。」


 そう言いながら書類の束から何枚かを取り出して俺に渡してきた。


「何々、温度調節装置だけが欲しい・・・だと・・。なんだこれ?」


「先日の実演会の話が知れ渡り、部屋の温度を快適に調節できるとその装置の話だけが一人歩きしたようです。いくら出してもいいから貴族や大商人の屋敷に取り付けて欲しいとのことです。」


「そうか、そう言われると便利だな。なぜ今まで気付かなかったのだろう。」


 最近に確立した技術が代理魔法石。給水ポンプなどに使っている宝玉のことで、その名の通り魔力さえ放出すれば代わりに魔法を発動してくれる便利な代物だ。本当は勇者の剣や豪炎の剣みたいに自動で魔法力を貯めて発動できるようにしたかったのだが、そこまでの物は作れなかったのだ。


「確かに便利ですね。商品化していいですか?」


「う~ん、どうだろう。一部の人が快適になるより他にやるべきことがあると思う。例えば食糧の保存に使ったりできるのではないだろうか。」


「へえ~、まだ所長の頭の中からアイデアが出てきそうですね。ドゥーマン、やっぱり所長をお借りしていいですか?」


 ドゥーマンが困った顔で俺を見ている。ドゥーマンには悪いが今の会話で幾つかの可能性を思いついたので、すぐにでも魔道研究所に行きたいと思っている。


「分かりました。昼からなら結構です。そのかわり午前中にこれだけは処理してもらいます。」


「まあそれでいい。リンデ、そう言うことだから今は戻ってくれ。あっ、それと実演会で使った魔法具のコストを計算しておいてくれ。まだその気はないがいずれ販売することになるかもしれない。」


「分かりました、所長。ではお待ちしてます。」


 リンデが執務室を飛び出していった。その足取りは羽が生えたように軽い。


「はあ、困ったことです。魔道研究所の採算が取れていなければ、こんな話聞くことはないのですが。」


「まあ、そう言うなよ。さっき思いついたことがうまく行けばもっと大きな商売になるぞ。」


「そうですか、では期待しましょう。それで今回の受注はどうされますか?」


「今回は見送る。まだ単体で販売できる物じゃない。部屋につけるのなら小型化しなくてはいけないし、さらに安全を考慮しなくてはいけない。」


「ではこれらは却下とします。」

 

 ドゥーマンの手にあった数枚と俺に渡された数枚の書類に二人のサインをして裁可済みの箱に入れられた。


「では次の・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 それから昼まで何時になく濃い内容の仕事ができた。やはり目的は別とは言えやる気があると違うらしい。


 ---------------------------------


 魔道研究所、主に魔法技術を研究する場所で選りすぐられた数人で運営されている。所長は俺が宰相と兼任している。


「まずは電気について説明すればよかったのかな?」


「ええ、そうです。」


「詳しいことはわからないが、目に見える形はないが確かに存在する極小の粒子のことらしい。電撃や雷の発光や音もその一端にすぎない。」


「ん~、マナみたいな物ですか?」


「うん、まあそう言われるとそうだな。それで電気によって作動する道具がいくつかあるらしい。例えば明かり、ランプみたいな物だが燃料は必要としない。」


「それってLuxあかりじゃ駄目なんですか?」


「・・・駄目じゃないね。魔法代理石にLuxを仕込めば同じ効果を得られるか。」


「はい、一つ頂きました。すぐにでも商品化に向けて研究します。他にはないですか?」


「そうだな、物を回転させることができるのだがそれを使うと洗濯ができる。こう水を入れた容器の下に回転羽をつけると渦ができる。この中に洗濯物を入れると手でするよりは楽に洗濯できるんだ。」


「それポンプと同じ装置でいいですよね。一度作ってみます。」


「ああ、やってみてくれ。そうなると馬がなくても動く車もなんとかなるか。こんな感じね。」


 これは本物みたいな絵で見たものだ。馬につないでいない馬車みたいな物が走っていた。部屋の一面の黒板に簡単な車の絵図を書く。


「なかなか面白いですね。それも試作してみましょう。実際どの程度の物が運べるか、作ってみないとわかりませんね。」


「他には・・・さっき言った食糧保存装置も問題なくできるか。冷蔵庫と言うらしい。」


「冷蔵庫?」


「ああ、その名の通り箱の一番上に氷を配置してその冷気で食べ物を保存する。Sagitta Glacies(氷の矢)で氷を作ればそれで済むな。」


 リンデが黒板に簡単な絵を描く。取り出すことは考えていないがいずれ気付くであろう。


「こんな感じですね。これも作ってみます。」


「ああ、これは最優先で作ってくれ。食料を無駄にすることが少なくなるはずだ。」


「分かりました。じゃあ逆に炎の魔法でお湯を作りましょうか。今までの薪を使った風呂より簡単になりますよ。」


「なるほど燃料が要らない分結果的には安価で提供できるな。よしこれも優先して進めてくれ。」


「冷蔵庫、風呂、洗濯機、明かり、車の順で宜しいですか?」


「車はまだ要らない。まずこっちの4つから手をつけてくれ。」


「「「はいっ!」」」


 黒板に書いた文字のうち、冷蔵庫、風呂、洗濯機、明かりに大きく○をつけ、車に×を書く。リンデや他の所員達が相談して担当を決めている。後は彼等に任せておけば形になるだろう。俺は研究所を出て宰相執務質に戻ることにした。


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