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実演会

 その場での説明に簡単に済ませ、翌日以降に実地でのデモンストレーションを約束した。一度に全員を集めることは無理だが何回かに分けてデモンストレーションを行なう。


 翌日、例の三人と二名の商人の都合がついたので、我が国が所有するノイブルクから最も時間的距離が近い荘園に案内する。時間的距離としたのは船を使って早く着くからである。ノイエブルク南西の山の中に位置するこの荘園は少々高い場所にある為、水の確保に苦労する。井戸はあるのだが組み上げるのに時間がかかり、労働力のほとんどがそれに取られる為農奴の減った貴族が安く手放したのだ。


「これはひどいな。従来通りこの荘園を運営しようと思ったら100人以上の農奴・・・労働力が必要だな。」


 ゴルトベルクは途中、農奴と言いかけて労働力と言い換えた。こちらに気を使っているようだ。


「農奴でも構いません。ゴルトベルク殿のところの農奴は虐げられていないと聞いています。報告書の書かれていることが本当なら、我が国の労働条件とあまり変わらないでしょう。」


「いや、これは驚いた。そこまで調べてあるとはお恥ずかしい限りです。」


「いえ、恥ずかしいことなど何もありません。政治的な構想力、行政的処理能力、組織管理能力の全てを兼ね揃えているとあります。その一端が荘園の運営に現れていますね。世が世なら国務大臣になっていてもおかしくないでしょう。」


「私が国務大臣ですか?いや、失礼しました。そこまで評価されているとは心してかからねばなりますまい。」


 ゴルトベルクからさっきまでのおどけた感じが消え、びしっと直立した。


「後ろのお二方のことも報告を受けています。できれば我が国に来て欲しいと画策したのですが、全く隙がありませんでした。まあ無理をすればできたかもしれませんが、その結果抜け殻のようになったご両者では意味がありません。」


「お久しぶりです、ケルテン殿。こうして面と向かって会うのは5年ぶりです。メイヤー男爵です。何度か一緒に仕事をしました。覚えていらっしゃいますか?」


 メイヤー男爵・・・ああ、買取センターにいた文官、それが城勤めをやめて自領の運営をしていたのか。


「これは大変失礼しました。言われるまで気づきませんでした。」


「なるほど、では知己故に当家に工作に来なかったわけではないのですね。しかし私どものところにあなたの魔の手が伸びなかったのはなぜでしょう。後学までに聞いて宜しいですか?」


「構いませんよ。さっきも言ったように隙がなかったからです。他の貴族の様に古美術品や装飾品で興味を引くことは不可能と判断しました。それにある程度の食料供給源は残しておかないと、ノイエブルクの民が困ると思いましてね。」


「確かに、古美術品や装飾品は食べることはできません。我々の理念とは欠け離れた物です。どうも宰相殿には我々の目的が判っているかのようです。」


「目的ですか・・・私の憶測ですが平民や奴隷の自立、身分制度からの脱却でしょうか?我が国の理念に近いものを感じました。違いますか?」


「ええ、その通りです。先の大戦は世界の仕組みを変えるきっかけになりました。如何に貴族が下の者達に支えられてきたか、いろいろなものを失って始めて理解できたのです。それで私とリントナーで貴族の称号を捨てました。一度はあなた達に付いていくことも考えましたが、やはりこの国を捨てることはできませんでした。今、その判断が間違っていなかったと確信しました。」


「結構です。まあ後ろの商人の方々は何か別の思惑があると思いますが、それでも構いません。では我が国の技術の一端をお見せしましょう。」


 荘園の一番の問題である水、それを解決する装置を見せる為に井戸に案内する。今回のデモンストレーションには連合王国のリスター王子もついて来ている。ローザラインで見たことはあるが詳しく聞いてみたかったらしい。


「この井戸に取り付けてあるのが水を自動で組み上げる装置です。」


 指を差した装置からは井戸の底にパイプが伸びている。その反対側からは同じくパイプが伸びているが、今は作動していない為水は出ていない。


「動いていないようですね。通常は手動で吸い上げたり、直接バケツなどで水を汲み上げますが、これはどう使うのでしょう。」


「こうします。」


 装置の中央にある宝玉に手を当てる。体から放出した魔力によって装置が動きだす。吸い上げられた水が畑の畝に伸びたパイプの穴から噴出した。


「「「「おおっ!」」」」


 その場にいた全ての者が驚きで声を上げる。井戸を覗き込む者、噴き出す水を見に行く者、装置を観察する者がいる。


「宰相殿、これは如何なる技術ですか?昨日の話では昔からある技術を使ったと言っていましたがこんな物は見たことありません。誰にでもできることなのでしょうか?」


「当然です。とある魔法の効果を応用しただけですよ。」


「とある魔法とはなんでしょう。小火炎ですか?電撃ですか?」


「いや、どちらでもありません。遺失魔法の一つで旋風の魔法です。」


「うむ、ではその魔法を教えて頂けるのですか?遺失魔法となると修得が難しいと思うのですが。」


 遺失魔法と聞いてゴルトベルクの顔が曇った。


「それほど難しくはありませんよ。治癒の魔法が使える人なら簡単に使えるようになるでしょう。ですがその魔法を教える気はありません。」


「なんと、ではどうするのです。」


「ここに手を当てて、小火炎の倍の魔力を放出して下さい。それだけで作動します。」


 今は停止している装置の宝玉を指差して誰かに試すよう促す。魔法の心得があるらしいメイヤーが手を当てた。再び動き出す給水装置に動かした本人が驚いている。


「これはすごい。魔法を使える者なら誰でもこの装置を動かすことができるのですね。」


「そうです。一回魔力を供給すると約10分動作します。手で水をやるよりは効率がいいでしょう。」


「本当にこれを貸して頂けるのですか?いくらか払わないといけないとおもいますが。」


「そうですね。当方の荘園になら無償で、それ以外はどうしましょうか?まだ考えていません。」


 また一同が驚いた顔をしている。


「これはまた驚きです。こんなことをして貴国になんの得があるのでしょう。」


「安定した食糧の確保です。年間の契約料の他に、収穫した作物の4割を当方に売却することを確約してくれれば結構です。後は国に税として払うも良し、金に変えるも良し、どうぞお好きにして下さい。」


「これは魅力的なお話です。その契約料もさほど高額ではありませんから、借りなくては損と言わざると得ません。ですが、もう一つ心配なことがあります。もし故障したと時はどうするのでしょう。」


「ノイエブルクに代理店を置きます。そこに連絡してもらえればすぐに修理できる者を派遣しましょう。一つ注意しておきます。ここを見て下さい。」


 装置の一部を外して中を見せる。所々に赤い紙が張られており、それを剥がさないと内部を見れないようにしてあるのだ。


「この赤い紙は絶対に剥がさないで下さい。もしこちらの者が点検した時に剥がれているのを発見したら、一枚に付き10万ゴールドの罰金を頂きます。」


「なるほど、厳重機密事項ですからもっともな話です。気をつけるとしましょう。」


「では次に行きましょう。次は温冷室です。限度はありますが季節に関係なく、様々な植物を育てることができます。」


 全体をガラスで覆った建物に皆を案内する。ガラスで覆っただけの建物なら珍しくはあるが誰にでも作ることは可能である。しかし温度の調整機能は俺の魔道研究所の作った魔法石でしかできない。


「おおっ!暑い。まるで夏のようだ。」


「そうですね。今は30℃に設定してありますから暑く感じるでしょう。その気になれば0℃に設定することもできます。先ほどと同じくこちらの宝玉にMPを放出するだけです。赤い方で温度を上げ、青い方で下げます。そして透明な宝玉で風を送ります。細かく調整するには慣れが必要ですが、使い方によっては夏に冬の作物を、冬に夏の作物を作ることも可能です。」


 俺の説明にゴルトベルクが何か思いついたのか、あらぬ方向を見ている。おそらく儲ける方法を思いついたに違いない。


「まだありますが今日はこの辺にしましょう。他には土地にあった農作物、様々な知識を提供することができます。皆さん、どの荘園をどうするか、運営計画を提出して下さい。その計画を参考にしてお貸しする荘園を決めさせて頂きましょう。」


 そう話を纏めた俺に更なる質問をする者、飛ぶように帰っていく者と様々である。試されているのはこちらだけでは無い。こちらも向こうを試している。流石にここに来た者達はそれが分かっているようだった。


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「宰相殿、赤い宝玉は火の魔法、青い宝玉は氷の魔法ですか?」


 客人が帰った荘園でリスター王子が聞いてきた。


「そうですよ。その魔法で水の温度を調整します。後はそこから暖かいか冷たい風を送るわけです。そんなに難しい構造にはなっていませんよ。」


「なるほど、攻撃魔法をそう利用しましたか。いろいろ考えるものですね。」


「まあね、攻撃魔法とは言っても敵を倒す必要はないのです。できるだけ有効に使ってやろうと無い知恵を捻絞っています。」


「知恵がないですか。宰相殿にないのなら誰にもないも同然でしょうに。」


「そんなことはないですよ。私が持っているのは知識、実際に使うのが知恵です。常識にとらわれない発想力が必要になります。魔道研究所の職員にいろいろと考えてもらってますよ。」


「そうですか、なら私も何か考えてみますか。炎、氷、風と使っていましたね。電撃は何か使い道はないのですか?」


「電撃ですか?あれは難しいですね。純粋な力のようなものらしいのですが現時点ではちょっと使い道が分かりません。いくつかの文献に電気なる記述がありましたがどう使っていいやら。」


「電気?やはり宰相殿の言われることはよく分かりません。その文献とやらはどこで手に入れた物ですか?」


「ノイエラントです。はるか昔大魔王が現れたことはご存じでしょうが、その大魔王が世界の壁を超えて様々なものを招き入れたのです。人、物、文化、技術など世界どころか歴史を超えてきたとしか考えられないものもありました。」


 これは公表していないことである。これらの文献は断片的にしか理解できないが、それでも我が国の発展に役立っていた。


「興味深い話ですね。いずれ見せて頂いてよろしいですか?」


「う~ん、まあ考えておくよ。」


「やはり極秘ですか?」


 考え込んだ俺の顔を覗き込む様にリスター王子が問いかけてきた。


「まあそんなところです。また明日もありますから、今日は帰りましょう。」


「そうしましょう。明日のお客様も興味を示してくれると嬉しいですね。」


 感想を聞いていると、いつの間にかリスター王子がローザラインの人間になってしまったように感じる。悪いことではないが次の大王になる話はどうするつもりだろうか?少し気になった。

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