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連合王国からの使者

「・・・・・と、まあ、今回の航海で手に入れた情報はこんなもんです。」


 長い長いドラーフゲンガーの報告が終わった。そうか、あのガイラに安息の地ができたのか。それはよかった。


「ご苦労だったね。まさかそんなことになっていたとは・・いずれこちらから働きかける必要があると思ってたが手間が省けてよかった。それで転移石は設置してきたかな?」


「それはまだです。その件は船長が宰相として直接交渉して下さい。」


「もしかして俺が連合王国まで行かないといけないのか?そんな時間はないぞ。」


「その必要はないですよ。ぜひにと言われるのでリスター王子とその他何名かを乗せて来ました。あとで面会してくださいよ。」


「なるほど、その他数人と言うのが気になるが、まあいい。」


「まあ、期待しておいて下さい。それと航海の途中で空にでっかいドラゴンが飛んでいたのを見ましたがあれは何ですか?襲われたらどうにもなりませんよ。」


「ああ、それは魔王こと竜の神だ。襲ってくることはないから、今度見たら手でも振ってやれ。」


 ドラーフゲンガーが唾をごくりと飲み込む音が聞こえた。表向き、魔王は討伐されたことになっている。魔王の城に行った4名と数少ない者しか講和のことを教えていない。当然ノイエブルクも公開していない。


「・・・ええ、まあ、船長がそう言われるのならそうします。では、あとのことはお願いします。」


 納得いかない顔をしたまま席を立ったドラーフゲンガーが部屋を出て行った。


 ----------------------

「此度は迷惑と存じましたが厚かましく同乗させて頂きました。私は連合王国は大王ウィルフレッド五世が息子リスターです。世界に名を馳せるアウフヴァッサー宰相殿にお会いできて光栄です。」


 目の前の貴公子然とした男が丁寧に挨拶してきた。俺より少し年は上、王子と言う割には威張ったところがない。


「これは丁寧な挨拶恐れ入ります。宰相とは名うっていますが要するに雑用係にすぎません。次期連合王国の大王をお招きできるような場所ではありませんが、おくつろぎ下さいませ。」


 俺の社交辞令にリスター王子の顔が曇る。あれ!挨拶を間違えたか?


「訳あってまだ王位継承権を得ていませんが、今回は大王の名代として参りました。より良き国交の樹立が出来る様望んでいます。」


「こちらこそよろしくお願いします。我が国としても友好国は必要ですのでお断りする理由はありません。細かいことは後で文官に詰めさせますが、とりあえず互いの国の行き来に制限を加えないことと、公式な交易許可を頂ければ結構です。」


「正式な・・・ですか?」


「ええ、正式な交易です。現実にはエグザイルを介して連合王国産の家具等を購入させて頂いていましたが、手数料で高くついて困りました。こちらの特産品もいくつか買って頂いているはずです。」


「なるほど、噂には聞いていましたが面白いお方だ。わざわざ言わなくても良いことを口にする。なかなかできることではありませんね。」


 さっきまで緊張していたリスター王子がその言葉に笑顔を見せた。冗談を冗談と理解できる人らしい。


「噂ですか。噂の源はノイエブルク、エグザイル、それともガイラですか?」


「そのどれもです。悪意のある者、評価する者などいろいろありますが、ガイラ殿の言われた通りのお方です。」


「ガイラですか。どうせ禄でもないことを吹聴していたのでしょう。」


「ええ、その通りです。頼りにはなるが油断のできない、人を援助しつつ反面足元を掬う方法を考えている。そんなところでしょうか?」


 ガイラの野郎、人のいないところで好き勝手言いやがって。あの一匹狼が誰かに人物論を語れる様になったのは誰のおかげだろうか、興味がある。


「まあ間違ってはいない、そういうことにしておきましょう。ではそちらからの要求はありますか?できることなら譲歩致しますよ。」


「こちらからの要求はとりあえず二つ、メタルマ産の優れた武具を購入させて頂く事と、ここに連れてきた鍛冶職人ガイアをそのメタルマで働かせてもらうことです。」


 リスター王子の後ろに控えていた壮健な男が軽く頭を下げた。なるほど早急に打ち鋼の剣が必要で、さらに恒久的に作れる技術を欲したか。


「私の一存では決めることができませんが、私から口添えさせて頂きます。」


「他に誰かの許可が必要なのですか?もしかすると国王アレフ一世陛下の許可が必要になるほどの機密ですか?」


「違います。陛下はそこまで貴国を敵視していませんし、それにそこまでの技術ではありません。」


「そこまでの技術でないと言い切れるとは大した自信です。では誰の許可が必要なのでしょうか?その方にできるだけの便宜をはかることもできますが・・・。」


「それは止めておいた方がいいでしょう。逆に機嫌を損ねることになりかねません。その技術の持ち主は頑固な職人で弟子でも客でも気に入らない者を追い出すんです。紹介はできますが、あとのことは責任持てません。」


「それで構いません。後はこちらの責任で弟子入りなり、武具の購入をさせて頂きます。」


「では一つだけ御教授させて頂きましょう。その男の名はリヒャルト、力量の無い者には幾ら金を積まれようが武具を売らない、そう公言している男です。」


 俺の冗談交じりの忠告に王子の表情が緩んだ。反面、後ろにいるガイアと言う男の表情は一際硬くなった。


「忠告ありがとうございます。参考になりました。」


「では今日のところはこの辺で終わりにしましょう。他に会わないといけない方がいる様です。」


「存じています。ロッキード家とフェアチャイルド家の者ですね。同船していましたので分かっています。私から何か言うことはありませんが、お気をつけを。」


 なにか含むところのある言葉を残してリスター王子は立ち去った。


 -----------------------------------


 結論、残りの二王家の遣わした者は禄でもない奴等だった。名家の出自を誇り、かれらと付き合うと如何にこの先栄達できるか、たくさんの言葉を並べた。さらに現大王ウィルフレッド五世の悪口だの、いずれ没落するであろうマクダネル家に加担してもいいことはないだの、言い放題だった。彼等との懇談には特に内容がなかったので適当に聞き流すことにした。


 彼等との懇談も終わり、現れたのは笑顔の裏に何かを隠した男。でっぷりとした体型に人を値踏みするような眼つき、おそらく連合王国の商人であろう。


「世界に名を馳せる辣腕宰相殿に面会できるとは、商人オルト、光栄の極みです。」


「商人の美辞麗句などいらない。何か欲しい物があるのならはっきり言ってくれ。つまらない話は聞き飽きた。」


「これは手厳しい。つまらない話とは王家の方々の話でしたか?」


「余計なことは言わない方がいい。俺が口を滑らすとあんたの商売に差し支えが出るかもしれない。」


「おっと、これは口が滑りました。黙っていてもらえると幸いです。」


「詰まらない告げ口をする気はない。で、用件はなんだ?今のところ付き合いはないはずだ。」


「ここまで率直だと逆に気持ちがいいですな。では、この国で作られたという無限鋲なる物を購入させて頂きたい。1万ゴールド出してもいいと思っています。」


 無限鋲?ああ、ガイラにやったあれか。


「無限鋲か、悪いがあれは出来損ないだ。売り物になるとは思っていない。」


「なぜですか?袋に入れた物が無限に出てくるアイテムと踏みましたが?」


「ふう、確かにそう見えるだろうね。でも実際は違う、登録した物が一定時間で戻るだけだ。転移の魔法を応用した物だが、かなり面倒な魔術儀式が必要な割には使えない代物にしかならなかった。」


「そうですか?私にはあれでも使い方次第では大儲けできると思いましたが?」


 まだ食いついてくる。なんとなく考えていることは分かるがこれを売る気はない。


「ふん、それは作る大変さを知らない者にしか言えない言葉だ。まず第一に大きさ、手のひらに乗る大きさが限度だ。次に材質、魔術儀式に馴染みやすいミスリルのみで他の物では不可能だった。そして最後に、壊れた物は帰ってこない。本当は矢やクォレルが無限に使える様にしたかったのだが、その三つの理由で没となった。理解できたかい?」


 俺の言ったことに一つ嘘がある。ミスリルでなくてはいけないことはない。その気になればなんにでも魔術儀式はできるが、悪用されることが怖い。


「なるほど、今回は引き下がりましょう。ですが宰相閣下が独自の研究機関を持っていて、面白い物がいくつかあると判断しました。もし世界に販売する場合には我がオルト商会をご利用下さいませ。ご期待に添える結果が得られると重います。」


「なんだ、始めから断られることを見越しての交渉か。もしかすると無限鋲のことも当てずっぽうか?」


「おそらくそうだとは思っていましたが、確証はありませんでした。現状、世界には新しい技術が溢れていますが辿ると行き着く先は一つです。」


「すごいな。もうそこまで分かっているのか。結構巧妙に隠していたつもりなんだがな。」


「そうですね、閣下が懇意にされている商人は一つや二つではありません。その一つに我がオルト商会を加えて頂ければ幸いです。」


「分かった。今、一つの大商売の案件がある。できるだけ多くの者に顔が利き、信用のある者が相応しいと思っていたところだ。人選に難儀していたのだが、候補に入れることもやぶさかでない。」


 目の前の男は金の匂いには敏感そうだが、まだ人柄までは分からない。これからやろうとしている鍵の規格統一には誠実な人材が必要だ。もしこの男が賄賂などを渡してくるようなら、この話はなかったことにしよう。

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