連合王国
「ガイラ、痛いのじゃあ!」
初めて登城して三日、その間は再度の招きを無視していた。しかし毎朝宿屋の前に迎えに来る上等な馬車に根負けして、改めて登城することになった。そのガイラに対して発せられた言葉がこれである。
「いったい何なんだよ、わざわざ俺を呼び出すことか?」
「むう、全てお主のせいじゃ、なんとかせよ。」
「はあ、まだまだ鍛え足りないようですな、姫様。」
「分かっておる。じゃがこの痛みでは鍛え続けることはできん。どうすればいいのじゃ!?」
大声を出す度、全身至る所に痛みが走る。ガイラの強さの秘密を聞きたがったアン王女に教えた答えが毎日の鍛錬、その始めの一歩が正拳突き百本であった。
「侍従か、侍医に治癒の魔法を使える者はいないのか?パルマなんとか、それで治るはずだ。」
「なんじゃ、そんなのでいいのか。アーサー、頼む。」
すぐ傍に控えていたアーサーがアン王女に駆け寄り、魔法の詠唱を始める。アン王女の差し出した腕に触れるか触れないかギリギリの場所でアーサーの手が薄く光った。
「おっ、おお、痛みが取れていく。こっちもじゃ!」
もう一方の腕も差し出されたアーサーが再び魔法を使うと、痛みが取れたらしくアン王女がガイラに向かって笑みを浮かべた。
「ガイラ、まさかこんな方法で治るとは思わなんだ。お主は強いだけでなく物知りじゃのう。」
「ん、まあな。昔、ダチに教えてもらったんだ。何でも筋肉痛ってのは筋肉組織が断裂しているんだとよ。だから治癒能力を高める魔法が効くそうだ。全部、受け売りだがね。」
「ほう、その友達とは誰じゃ。わらわに紹介してもらえぬか?」
「無理だな。もう5年も会っていないし、多分忙しいだろうと思う。俺と違ってな。」
アン王女はどこか遠くを見るガイラの目が寂しそうに見えて、これ以上この話題を続けることができなかった。
「そうじゃ、お主の言う通り鍛錬していたのじゃが、これは何時まで続ければいいのじゃ?」
「まあ一日10セットしても筋肉痛にならなくなる・・・までだな。」
「むう、ではいつになるかは分からんではないか?なんか、こう簡単に強くなる方法はないのか?」
「ない。日々の積み重ねの先にしか強さはない。だが、第三王女ともあろう姫様がなんで強くなろうとするんだ?」
「強くなりたいのに理由はない、他は知らんが俺はそうだった。じゃろ?」
前に話したガイラの口調を真似てアン王女が言い返した。
「確かにそうだな、俺に他人の事を言える筋合いはない。その覚悟が本当ならまず今言ったことができる様になるんだな。そうしたら次を教えてやる。」
「よし、その言葉忘れるなよ。わらわとお主の約束じゃ。」
「分かった。俺は約束は違えん。」
そう言ったガイラに微笑むとアン王女はガイラに教えられた鍛錬を始めた。
----------------------------------
「なあ、アーサー、俺はこの国のことは詳しくないが、なんで近衛騎士と騎士がある。それに格が上のはずの近衛騎士に禄な奴がいないのはいったいどういうことだ?」
アン王女の鍛錬を眺めているガイラは傍にいる騎士アーサーに問う。アーサーは口を噤んでその問いには答えない。
「なんだ、だんまりかよ。よっぽど都合が悪い質問だったようだな。なら質問を変えよう、リスター王子が次の大王になるのは簡単じゃないみたいだな。何か問題でもあるのか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「なんだ、この質問にも答えられないのか。」
「その質問には私が答えましょう。」
突然、後ろから声が聞こえた。振り向くまでもなくそれはリスター王子の声である。
「アーサーはいい部下のようだな。忠義があって口が堅い。」
「ええ、とても助かっていますよ。それに私の剣の師でもあります。」
「ほう、なるほど何となく分かってきたぞ。騎士をまとめるのが近衛騎士で、その近衛騎士に必ずしも強さは必要ない。そういうことだな。」
「その通りです。慧眼、お見それしました。では少し歴史の話をさせてもらいましょう。かつてこの大陸には群雄が割拠していました。その中でも大きな勢力を持っていたのが我がマクダネル家、ロッキード家、そしてフェアチャイルド家の三王家でした。さらに、その三王家が連合して今の連合王国となりました。ここまではお分かりですか?」
リスターは説明が長くなってきたのを一度区切った。
「ああ、だが面倒な話だな。もっとこう分かり易い逸話はないのか?」
「残念ながら・・・そこで、三王家の内どこが一番かと言う問題が生まれました。」
「当然の話だな。もし俺がその三王家の者でも納得いかないだろう。」
「やはりそう思いますか、私も同感です。そこで戦争に変わる首位の決定方法が編み出されました。」
「もしかして、あの虎とか言わないだろうな?」
「正解です。各王家の代表が魔物相手に力を誇示します。その内容で連合王国の大王を決める、それがこの国の伝統となりました。」
聞くべきじゃなかった。ガイラはそう思ったがすでに遅かった。




