試しの儀式
連合王国の城の謁見の間はなぜかむき出しの土の上であった。王座があり立派な口ひげを蓄えた壮年の男が座り、二人の若い女が両隣に座っている。守護すべく居並ぶ豪奢な鎧を着た近衛騎士がなぜか三つのグル-プに分かれていて、さらにその後ろに並ぶ騎士達がこの国を武断的に見せていた。
(ほう、俺がぶっ飛ばした連中は近衛の方だったか。しかしまあ、ここから見る限り録な奴がいないな。それより下にいる騎士の方が腕が立ちそうだ。もしかすると手合わせが期待できるか?)
宿屋で武装したままの謁見が許されたガイラは、迎え入れられた謁見の間を遠慮なく一望する。大王の表情は分からないが、両脇にならぶ女の一人は興味無さそうに、もう一人は目を輝かせて入ってきたガイラを見ていた。並ぶ近衛騎士達の目は一様に厳しく、明らかに敵視している。
(しかしまあ、謁見の間にしてはおかしな場所だ。横に見えるのは鉄格子か。いったい何をさせるつもりだ。)
ガイラは先を歩くリスターの後ろを付いて行く。中央に進み出る僅かな間にここが敵地であることを確認し、いかに戦うか図っていた。
「陛下の御所望に応えまして鉄拳こと、ガイラ=ガラ=ライガ殿をお連れしました。」
「うむ、ご苦労であった。ガイラ殿と言ったな、よくぞ我が招聘に応えてくれた。余が連合王国大王ウィルフレッド5世である。」
厳つい外見とは異なり、温厚そうな声が謁見の間に響いた。ただしガイラを品定めする目は厳しい。
「ガイラだ。ここでは鉄拳の二つ名で通っている。」
ぶっきらぼうにそう答えたガイラを咎める様に、並んできた近衛騎士達が睨みつける。ガイラはその視線を突っ立ったまま、涼しい顔で受け流していた。
「よい、余が所望したのだ。そなた達、非礼はならぬぞ。」
「すまんな。俺は上品に語る言葉を持たない。この拳で語るのを常としている。」
「ほう、それが余の近衛騎士を打ち倒した拳か。なるほど、飾りとは言え近衛騎士5人では敵わぬのも頷けるな。のう、スチュワート卿よ。」
何か含むところがあるのか毒のある言葉が、並ぶ近衛騎士の一団の一つの先頭に立つ最も多くの勲章をつけた近衛騎士にかけられた。
「これは御無体な。陛下、近衛騎士は強ければよいと言うものではありません。力と権力の象徴として、畏怖と威厳を兼ねるべきと考えます。」
「はっ!威厳ね。何の力もない老婆に示すのが威厳とは知らなかったな。」
「陛下との会話に割り込むとは、無礼なっ!」
「ああ、これは失礼した。独り言のつもりだったのだが聞こえたか。悪い悪い。」
「貴様、そんな大声の独り言があるかっ!」
人を小馬鹿にしたようなガイラの言葉に憤慨した騎士が腰の剣に手をかけた。
「止めよっ!先ほども言ったが非礼があってはならぬ。だがその者の言うことにも一理ある。そなた等には心当たりがあるのではないか?」
「いえ、そのような仰られ様、我等不本意でございます。」
「ほう、余が何も調べさせておらぬと・・・では然るべく処理させよう。それで構わぬだろうか、鉄拳ガイラよ。」
「ああ、俺はそれで構わない。無抵抗の老婆を恫喝した近衛騎士とやらに、どんな処理がさせるか興味がある。」
にやりと笑ったガイラと国王の視線が絡みつく。これからされるだろう処分に近衛騎士達の顔色が変わった。
「そうか、ではそうするとしよう。ところで鉄拳と二つ名ががあるそうだが、その力を余に見せてはもらえぬだろうか。褒美は思うが侭じゃ。」
「構わんが、そこに並ぶ近衛騎士が相手か?悪いが昨日今日とで大体の実力は分かっている。たとえ10人が相手でも勝負にならんぞ。」
「なっ!陛下、ここまで馬鹿にされては我等の面子が立ちません。ぜひ我等に名誉挽回の機会を与えたまえ。」
血気走った近衛騎士達が王の前に跪く。彼等を見下ろしたウィルフレッド5世は冷たく言い放った。
「そなた等は飾りだ、余計なことはせんでよい。それに我が国の試しは古来より決まっておる。捕らえておいた魔物と相対する、そうであろう。」
「うぐぅ、御意にございます。しかし今捕らえてある魔物は4体あります。どれを出しましょうや?」
魔物と闘う。それを聞いたガイラは心が躍るのを感じた。この辺りに生息する魔物だとしたら拍子抜けではあるが、そうでないことを節に望む。
「一番強い魔物だ。一番強い魔物を出してくれ。」
ガイラは叫んだ。適当な魔物で茶を濁されては堪らない。俺は今闘いに餓えているんだ。その思いが口から飛び出した。
「貴公、慢心してはならぬ。一番弱い魔物でも我等数人で対するのだ。貴公一人で何ができよう。相手は魔物なのだ、もしそなたが死すことになろうがすぐに止めることは出来ぬのだぞ。」
近衛騎士ではなく、下に並ぶ騎士が忠告する。その声にガイラを見くびる感情は感じない。心底心配しているのがガイラには分かったが、今はその配慮が余計なものに感じられた。
「ガイラよ、危険を避けるのは恥ではない。そなたが望むのならまた機会は与える。まずはこちらが用意する魔物と戦うがよい。」
「危険?危険が怖くてやってられるか。構わないから一番強いのを出しな。それが今の俺の一番の望みだ。」
「陛下っ!いけません。もしこの者が敗れたならば、血に酔ったその魔物を抑えることに我等は死力を尽くさねばなりません。あの魔物を捕らえるのに多くの犠牲を払ったこと、お忘れですか!」
先ほど忠告した騎士が必死の形相で王の前に出る。
「ああ、面倒だ。どけよ、そこを空けてくれ。」
苛立ったガイラは立ち並ぶ騎士を掻き分け、鉄格子に向かって立った。肩幅より少し広く脚を広げ、全身に力を込めた。
「はあああああああああああ・・・・・・・・・・・・てりゃああああああああっ!!!」
大きく吸った息を吐き出し、気合と共に力を解き放つ。その気合に並ぶ近衛騎士の半分ほどが腰を抜かし座り込み、残った半分は反射的に腰の剣に手を伸ばした。王座の主は驚愕を隠してガイラの姿を見ている。両脇にいた女の内一人は失神しており、もう一人は目を丸くしていた。
「陛下っ!大変です。檻の中の魔物が隅で小さくなっています。これでは出すことはできません。」
「なんじゃと、では試しはできぬと言うか。」
「いえ、一匹だけ檻の中で暴れています。先ほど言っておられたあの魔物です。」
「ちょうどいいじゃねえか。出せよ、そいつを。そいつも俺も闘いを望んでいる。」
「うむ、分かった。だが命の保証はできぬぞ。」
「承知。命の保証がある闘いなど意味がない。」
「その意気や良し。では皆の者、試しの準備を致せ。」
ウィルフレッド5世の命令に騎士達が両脇に並び、手にしていた武器を構えて中央に向かって立った。中央に立つガイラは鉄格子を睨み、出てくる魔物を待つ。そこからゆっくりと出てきたのは体長4mを超える虎、その口に生えた長く鋭い牙がその存在を誇っていた。




