決闘の連戦②
「ちっ、またかよ。」
仮初めの休憩後からの二連戦は、主に闘技場の自由開放軍側で戦っていた。新しく始まった戦いも相手はまた始まりと共に後ろに下がる。躊躇いなくアレフが距離を詰めた。
「くそっ、何で奴等に付き合う。素直で真面目なのはいいが、ここまで来ると馬鹿正直としか言い様がないぞ。」
「副隊長、声が大きいです。一般兵士の耳にでも入ったら大変なことになりますよ。」
反対側で見ているゲオルグが腹立ち紛れに大きな声で悪態をついた。文句の相手は敵ではなくアレフ、近くにいた近衛騎士の一人が聞き咎めた。慌ててゲオルグは周りをキョロキョロと見回してから大きなため息をついた。
「誰も気付いていないみたいだな。」
「気をつけて下さいよ。ここはいつもの訓練所ではありません。」
「すまん、つい興奮して口に出た。しかし、せっかく相手が距離を取ってくれるんだ。魔法でも撃ち込んでやればいいと思うんだが、お前はどう思う?」
「駄目ですね。魔法を使うにも限度があります。ここぞという時以外は使うべきではありません。あれっ、陛下から何か指示があるみたいですよ。」
そう言われてゲオルグはアレフの方を見た。剣を持った腕が天を示している。次に前方に向かって半円を描き、さらに幾つかの動きを見せた。
「弓用意、狙いと発射タイミングは各自の判断に任せる・・・か。決闘中だぞ、いったいどうするつもりだ?」
「分かりません。もしや相手に何らかの違反行為があるのかもしれません。注意して見ましょう。」
ゲオルグは弓を構えなおすと、何一つ見落とすまいと目を凝らして決闘の行く末を見守ることにした。
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決闘の順番待ちをしている者の中に違和感があることにアレフは気付いていた。貴族らしき男が人垣の最前列に陣取り、床几にて踏ん反りかえっている。ここ二人の対戦相手はその男に指名されて進み出ていた。本人に戦う意思があるのかは分からない。ただその男に指名されて出てきた相手は勝つことではなく、疲労させることを目的に戦っているような気がする。もしかすると疲労のピークに登場するつもりか、アレフはその男を嫌な奴だと決めつけた。
またその男に指名された者が進み出てきた。むき出しの場所が全くない重装甲、おそらく一度倒れたら自力では起き上がれないだろう。だが今装備している片手剣ではほとんどダメージを与えることはできないだろうことは分かった。
立会人の掛け声に従って剣を会わせる。相手の剣はこちらより長い両手剣、その剣先が合うと先の者と同じく後退し始めた。アレフはその後を追った。
(いっそのこと魔法を使うか。電撃の魔法で一撃、そのまま押せば倒れる。いや、この人を倒したとしても次の相手が出てくるだけ、ならば・・・。)
アレフは歩きながら天に剣を掲げて秘密の合図を送った。
(伝わったかな?うまく行けば一度に数人消せるんだけど・・・。)
「貴様、どこを見ているっ!」
アレフの視線が外れた瞬間、大剣が上から振り下ろされた。愚弄されたと思ったのか、声に怒りが篭っている。アレフはなんとかその一撃を盾で受け止めた。
「ぐうっ!」
想像以上の衝撃が左腕を襲う。思わずうめき声が上がった。
「そらっ、そらっ、そらっ、そらっ!いつまでも受け流していられると思うなよっ!
アレフのうめき声に気をよくした相手は連続して大剣を叩きつけてきた。一撃毎に少しずつ下がって盾で受け流す。延々と続く攻撃、観衆は固唾を飲んで見守るしかない。やがて疲れのせいか、大剣の回転が遅くなってきた。
「そこですっ!」
冷静にタイミングを見計らっていたアレフは、引き戻される大剣に合わせて前に進み出た。大剣はまだ振り上げきっていない。それでも強引に腕を戻してアレフの剣を受け止める。鍔迫り合いの状態で互いに力が込められ戦闘が膠着した。
「こうなったら10万ゴールドは貰ったも同然だな。」
「何故?」
「馬鹿なことを。連戦で疲れているお前に本来の速さはない。力も上背も俺の方が上、この体勢になって俺が負ける道理はない。」
「なるほど・・・。」
アレフはこうしている間にも少しずつ体勢をずらしている。伸し掛ってくる圧力から逃れようと腕を、足を動かすがそうはさせてくれない。いつの間にかアレフと相手の位置が反転している。アレフに掛かる圧力がさらに高まる。その圧力に抗することができず、徐々に人垣の方へと押しやられた。
「これ以上の後退は認めん。」
床几に踏ん反りかえっていた男が立ち上がって剣を抜き、アレフの背に突きつける。他の者もそれに倣って剣を抜き、アレフに向かって構えた。




