対陣
「お頭、お頭、お頭、来ましたぜっ!」
ローザランから北に50km、小丘の中腹に設置されたテントに一人の男が駆け込んでくる。テントの奥の床几に座っていた大将が立ち上がった。
「奴はっ、奴はどうしたっ?奴は来ているのだろうな!?」
「いる、軍の先頭で白馬に乗っている。どうする?すぐにでも襲うか?」
「いや、それは止めておく。せっかく作った陣を無駄にすることはない。」
血気盛んな部下を押し留めた。テントの外に張った陣は如何なる敵にも対応できる自信がある。騎兵や兵士の侵入を防ぐ馬防柵、弓手を伏せてある空堀、元から連れている100人の兵と集まってきた義勇兵百数十人を有効に使うことができるはずだ。
「だけどよお、お頭、あっちはこっちの半分もいないみたいだぜ。全員で攻めちまえばいいじゃないか。」
「お頭は止せ。いつまでも海賊気分では困る。私のことは大将と呼べと言ったはずだ。」
「済まねえ、慣れていないんでつい・・・。」
大将に叱責された部下がテントの入口から外を見る。今の会話に気付いた者はいないようだった。
「それで敵の数は?」
「遠目でしか確認していないが、騎兵が10~20、その後ろに歩兵が50より多め、さらに馬車が8台ほどをつれている。」
「思ったより少ないな。その程度しか動員できないのか、こちらを舐めているのか、どちらにしても後悔させてやる。それとメタルマに伝令を出せ。例の計画を実行させる。」
「了解、じゃあそう命令してくる。」
そう言い残すと男はテントから出て行った。残されたのは大将と他数名、しばしの沈黙をシザーズが破った。
「で、どうする?このまま黙って見ているのか?陣を張られては面倒なことになるぞ。」
「いや、それでいい。しばらくは対陣したままで時間を稼ぐ。例の計画が成功したら奴等は撤退せざるを得なくなるはずだ。」
「なるほど、撤退する敵を後方から襲う・・・か。だがそううまく行くかな?」
シザーズは馬鹿にした口調で話す。大将の反応を面白がっているようにも見えた。
「そうなるようにするのだ。その為にはお前達に尽力して貰わねばならない。まず適当に挑発して一騎打ちに持ち込め。おそらく挑戦を断ることはあるまい。捨て駒に何人使おうと構わぬ。疲れが溜まってきた頃にお前達が当たれ。それで勝てば良し、勝てぬでも時間を稼ぐことができればよい。」
「ハンツ、俺達も舐められたものだな。そこまでして尚勝てないと言われているぞ。」
「ふっ、傭兵とはそんなものだ。文句があるなら実績を上げてから言え。」
「分かった、わかった。なら行くとするか。」
シザーズがハンツを連れてテントから出ようとする。外から馬蹄の音が近づいてくる音が聞こえた。
「私はローザライン共和王国国王アレフ=ローザラインである。敵将よ、姿を現せっ!そちらの挑戦を受けここに参上したっ!」
よく通る張りのある声が聞こえた。テントの中から外を覗き見る。馬に乗ったローザライン国王と数人の騎士達の姿が見えた。
「大将、どうやら向こうから来たようだぜ。どうする?」
「名指しでの指名だぞ。出なくて格好がつくものかっ!お前達も来い。」
大将はテントから出て側近の数名と傭兵、義勇兵の中の腕利きの数人を連れて歩く。百を超える衆人の監視する中で対峙することになった。




