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王の決定

「宰相様、お呼びと聞きましたが何・・でした・・・か?」


 謁見の間に入ってきたファイエルクリンゲは、円卓を囲む面々に白い目で見られて立ち尽くした。

どうやら誰も用件を伝えてなかったらしい。


「ふむ、思ったより元気でなによりだ。これなら国に帰しても問題なさそうですね。」


「えっ、ええ、おかげさまで・・・。」


 ここにはかつての主ラルス16世、王女ローゼマリー、直接の面識はないが先の近衛騎士隊長アイゼンマウアーもいる。雲の上の存在でしかない人物に呑まれたのか、ファイエルクリンゲらしくない態度になってしまっている。


「そう緊張しなくていい。今日お呼びしたのは頼みたいことがあったのだが、聞いて貰えるだろうか?」


「あ、ええ、私にできることなら。」


「それはよかった。ではまず聞くが今朝の騒動のことは知っているか?」


「今朝の騒動ですか?先生やみんなが何か騒いでいましたが、特には何も聞いていません。何があったのですか?」


「そうか。ならまずこれを見てくれ。」


 手にしていた立札の写しを渡す。神妙な顔をして受け取ったファイエルクリンゲが紙に視線を落とした。


「これは・・・・。」


 ファイエルクリンゲの視線が手元の紙とこちらを往復する。手にしている紙がカサカサと音を立てていた。


「誰がこんなことを?」


「現時点では不明だ。まあそれはいい。頼みたいことと言うのは、そこにある幾つかの罪状についてです。」


「はあ・・・でもこれなら宰相様や陛下の方がよくご存じでしょうに?」


 それは言わない約束だ。公式には俺はノイエブルクの歴史に存在していない。それに当事者の証言など誰も聞いてはくれない。この男はまだまだその辺りが分かっていないらしい。


「はて何のことやら・・・それにこれは第三者の証言でないと意味がないのです。是非ともノイエブルクの公式の見解をお聞かせ頂きたい。シュタウフェン公にそう伝えて頂けませんか?」


「なるほど・・・分かりました。必ずシュタウフェン公にお伝えします。」


「ではお願いします。それと貴方にお教えした解毒の魔法、あれは然るべき相手になら伝授しても結構です。」


「然るべき相手とは?」


「意味が分からなければドナスピア殿と相談して下さい。彼なら意味が分かるはずです。ただしもう一つの魔法は駄目です。口述で詠唱することも遠慮して下さい。もし漏れることがあったらどうなるか理解できますよね?」


 こいつは事を簡単に考えるきらいがある。そう釘を刺しておいた。


「もっ、勿論です。決して信を破るようなことは致しません。」


「結構、その言葉を信じましょう。ではシュタウフェン公によろしくお伝え下さい。」


「はっ、では失礼します。」


 ファイエルクリンゲは数回向きを変えて頭を下げると慌てて謁見の間を出て行った。姿が見えなくなてから円卓に失笑が沸き起こった。


「シュタウフェン公も随分と面白い者を手に入れたようじゃのう。かつての誰かさんを見ておるようじゃ。」


「いや、これはお恥ずかしい。当時のことを思い出すと赤面ものです。」


「うむ、慇懃無礼なところはそっくりじゃな。まあ、それぐらいでなくては魑魅魍魎が跋扈する世界を渡ることなどできぬよ。その点ではあの者にその資格に十分ある。そうではないか?」


「どうでしょう?私に答えることはできません。」


「ふぬ、やはりそなたはそう答えるか。あの頃と同じだのう・・・おお、失礼。年寄りの思い出話をしてよい場所ではなかったな。過去のことより現在、現在より未来のことを考えるべきじゃ。」


 ラルス16世の顔に昔の眼光が宿った。それは一瞬だけで再び温和な老人の顔に戻る。


「そのとおりです。では未来について相談しましょう。これからどう対応について意見のある方は?」


「これからの対応なんて考えるまでもないでしょ。兵を動員して不穏な動きに備える、それ以外に何があって?」


 ほんの少しの躊躇いもなくマギーが言ってのけた。同調するようにゲオルグとクロウが頷く。そこでアイゼンマウアーの手が挙がった。


「私はその意見には反対です。現実問題、闇雲に兵を動員出来る程余裕はありません。さらに例えできたとしても本来護るべき対象が手薄になりかねません。あるいは、それこそがこの立札の狙いではないかと。」


「ん~、その可能性も否定できないわね。でも、だからと言って何もしないわけには行かないわよ。」


「勿論何もしないでいるつもりはありません。私とて許せないことはあります。ですが敵がいるとして、それが誰か、何を目的としているか、それが分からないでは対処のしようがありません。今は静観して敵を見極める、これまでの宰相殿の対応を是とします。」


 アイゼンマウアーは一気にそれだけ言うと椅子に深く座り直した。


「なんか騒いでいるのは私だけみたいなんですけど、アレフ、貴方はどうなの?あんなことを書かれて腹が立たないのっ?」


「勿論怒っていますよ。でもそれは僕だけならともかく、僕が大事にしている人達を誹謗中傷したことをです。」


「相変わらず優等生な答えね。でも上に立つ者には自らの名誉を守る義務がある。それは下についた者の名誉を守ることになるはずよ。」


「ええ、分かります。だから一つ決めました。僕と僕を支持してくれる者達の名誉の為に戦うと。もしこの文章を記した者が現れたら僕自身が対峙すると。剣でも、魔法でも、論説でも・・・。」


 アレフは椅子から立ち上がると力強くそう発言した。その右手は隣に座るローゼマリー王妃の左手と繋がっている。発言の内容にも関わらず、王妃の表情に不安は見られない。それと反対に円卓を囲む者達の顔色が変わった。



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