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差配

 結局、メタルマの珍事とノイエブルクからの押しかけ弟子、それらを解決するのに丸々2日かかった。宰相職の空白を埋める為、書類に目を通している。


「宰相殿、どうかされましたか?」


 いない間に処理された案件の中に幾つか気になるものがある。思い内にあれば色は外に現れる。ドゥーマンから声がかけられた。


「少々気になる差配があってね・・・。」


 書面から目を放さずに答えを返す。今は全体に目を通すことを優先しようとあえて後回しにしようと思ったのだ。


「それはこれらのことですか?」


 自分の席から立ち上がったドゥーマンがそう言いながら机の上の書類の幾つかを選別した。それらは俺の思惑と一致していた。


「そのとおりだ。どうやら認識はしていたみたいだな。」


「当然です。宰相殿なら絶対にしない人選です。やはりいけなかったでしょうか?」


「いや、咎める気はないが、誰の人選かが気になった。」


 俺が人に仕事を任せる時は可能な限り優れた者を選ぶ。それが最も効率的だと信じているのだが、ここにある書類の人選はそうではない。三番手から五番手ぐらいで、まだ任せるには時期尚早と評価していた人選だった。


「陛下による人選です。」


「そうか、なら意義を唱えるわけにはいかないな。だけど何を意図しての人選だ?ただ漠然と決めたわけではないだろう?」


「勿論です。私が推挙した者の意見だけでなく、その下にいる者の話を熱心に聞いてからの人選です。しかも上の者に十分な助力を命じていましたので、予想以上の結果になりました。」


 やる気はあるが機会の与えられない者の力を引き出した。何でもできるが一番手にはなれないアレフらしい話だ。


「どうやら権威主義に陥っていたようだな。これからはなるべく仕事を割り振るか。」


「そうですね。私もそれでいいと思います。」

 

 俺の言葉にドゥーマンが同意の意思を示した。それほどまでに提出された書類はよくできている。いや、それどころか斬新な切り口も見えていた。


「では早速これらを陛下に提出しておくように。多分結果を心待ちにしていると思う。」


「承知しました。」


 書類に宰相の決済印を押してからドゥーマンに渡した。さらに他の者の手を介してアレフの下へと届けられた。


 ---------------------------


 夕方になり終業の時間が近づいていた。そこに一人が飛び込んできた。


「宰相様、こんな時間に申し訳ありませんが診療所に来て貰えませんか?」


 血相を変えて入ってきた者は王立診療所の職員、名をアポテイカと言う。主に薬剤の開発を担当している。


「時間のことはいい。それより何があった?」


「さきほど急患が運び込まれてきました。今まで対処したことのない症状で、付き添いの者によると飛竜にやられたとのことです。」


「飛竜?この大陸に生息していると言う報告は受けていないぞ。どこに現れた?」


 もしこの近くに出現したのなら、他に被害がでない内に退治しなくてはならない案件でもある。


「いえ、この大陸ではありません。ノイエラントから来た患者です。」


「ノイエラントか、それはよかった。」


「よくありません。こうしている間にも患者は苦しんでいるのですよっ!」


 思わず口にした言葉は不謹慎だったと見えて、すぐに怒りの言葉が返ってきた。


「済まない、つい本音が出た。それで患者はどうだ?どんな症状が出ている?」


「まず喉が腫れ上がって自力での呼吸ができません。なんとか気道を確保して息ができるようにしましたが、原因の腫れが治ったわけではありません。さらに全身のあちこちにも腫れが出てきています。おそらく毒によるものと思われますが、解毒の魔法で処置してよろしいものでしょうか?」


「飛竜の毒か、急いで処置する必要がある。とりあえず診療所に急ごう。話は歩きながらでもできる。」


 急いで執務室から出ると廊下を早足で歩く。当然のように護衛の兵士が前後を囲んで歩きだした。


「全身に腫れが出ているとなると何処か噛まれているはず、外傷はあるか?」


「首筋に噛まれた跡がありました。」


「跡か・・・それはまずかったな。」


「まずいですか?あの傷跡だと止血しなければ死んでましたよ。」


「まあ首筋では仕方がないな。ちなみに噛まれてすぐなら毒消し草で傷口を押えることである程度毒を消すことができた。塞いだ今は魔法を使う以外に方法はない。」


「なるほどそんな方法があるのか、勉強になります。それで飛竜の毒はどんなもので?」


 アポテイカから次の質問が返ってきた。この者も魔導研究所の連中と同じで興味のあることになると我を忘れる。


「飛竜の毒は蛇と同じく牙にある。ただ蛇と異なるのは揮発性が高く、空気と反応して発火することにある。息と一緒に吐き出してブレスの形で使うこともできる。喉が腫れ上がっているのはそれを吸い込んだせいだな。」


「では全身の腫れは?」


「噛まれた傷から入って、血によって全身に回ったのだろう。血と混じると発熱して内側から身体を灼く面倒な毒だ。」

 

「それだけ分かれば十分、これで解毒の魔法による処置ができます。」


 アポテイカの険しかった顔が少し和らいだ。


「毒だけならね・・・。」


「まだ何かありますか?」


「例の土毒、あれの可能性もある。出血と毒で弱った身体では対抗できない。」


「そうだった。確かにその通りです。」


 土毒、昔ガイラが苦しんだ毒をそう仮称した。あの時と違ってここローザラインには解毒の魔法を使える者は俺一人じゃない。同じ症状で苦しむ者は診療所で数人体制にて看護することで治すことができるようになっていた。もっともそれでも2週間は安静にしていないといけない病であって、診療所での

研究対象の一つになっていた。


 診療所は一般の者も利用できるように城下町の中にある。城を出てそこまで行く道のりが長く感じられる。建物にたどり着いて扉を開けるとそこには横になったファイエルクリンゲと、真っ青な顔でそれをみているドナスピアがいた。


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