魔法講座②
『私は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ。』と板書してある。その一つ一つの単語を指し示し、たっぷり時間をかけてその意味を説明した。昔マギー相手に同じような講義をしたのがなんとも懐かしく思えた。
「となっています。質問はありますか?」
ここまで説明して疑問があるか聞いてみた。皆、手元の紙に書き写すことに必死だ。書き写し終わったドナスピアが手を上げた。
「どうぞ。」
「はっ!そこに記されている単語が2と言うことは分かりました。では他の魔法の詠唱文からも、他の数値を見出すことができると考えてよろしいでしょうか?」
「その通り。ですので、あとは自分で解き明かして下さい。」
「教えてくれないっすか?もががっ!」
詰まらなさそうな顔で聞いていたファイエルクリンゲが口を挟む。隣のドナスピアが慌ててその口を塞いだ。
「駄目です。これは真なる言語、解明するのに数年の年月とノイエラント中の遺跡の調査を必要としました。」
「真なる言語ですか・・・。」
「そう、神に直接問いかけ、世の理に働きかけることのできる言語、だからこれ以上は教えない。こうしてヒントを教えただけでも感謝してもらいたいぐらいだ。」
俺の答えに納得と失望の混じったような雰囲気が室内に漂った。
「じゃあ意味ないじゃないですか。」
「クリンゲ、お前いい加減にしろよっ!」
「騙されたと思って学習しておけ、損はないはずだ。あれ?誰か来たのかな?」
扉のガラスに人影が見える。軽いノックの後に扉が開いて、見たことのあるような若い男が入ってくる。堂々としたその姿に皆怪訝そうな顔をしていた。
『ほう、真なる言語か。』
その男の口から流暢な真なる言語が飛び出た。真なる言語が理解できて見覚えがあるとなると・・・。
『もしかしてLoad of Dragonですか?』
『そうだ。わしに用があるのではなかったのか?』
確かに龍の神を呼びつけたのは俺だ。直接連絡を取る手段がないので、城の屋根に文を貼り付けておいた。“用がありますので一度おいで下さい“と真なる言語で記した文だ。
『そうですが、こんなに早いとは驚きです。まだ張り出して二日と経っていません。』
『ふむ、わしに時間と距離は関係ないのでな。それで用件とはなんだ?人間のことに関わるつもりはないぞ。』
『それは理解しています。今回お呼びだてしたのは貴方の部下、かつてノイエラントに産まれた人狼のことです。彼は今、メタルマで因縁めいた宿命に苦しんでいます。』
『承知した。わしのかつての悪行の始末、自分でするのは当然である。わざわざ教えてくれたことを感謝する。』
竜の神の頭が下げられ、こちらに背を向けて部屋から出ていく。立ち止まるとこちらに振り向いた。
『そうだ、その真なる言語だが適度にしておけ。その力は人間が扱うには大きすぎる。過ぎたる力は身を滅ぼすことになるであろう。』
『承知しています。』
『そうか、ならいい。』
それだけ言い残すと竜の神は改めて部屋から出て行った。
「あの・・・今の方は?おそらく真なる言語を話していたと思うのですが・・・。」
静まり返っていた室内の時が動き出した。ドナスピアの疑問の言葉が皆を我に返らせる。ファイエルクリンゲが握りしめていた拳を開く。
「知らない方がいいこともある。今のは見なかった、聞かなかったことにしてくれ。では今日の講義は終わりにする。次回は幾つか生活に役立つ魔法を教える。」
皆が龍の神の迫力に飲まれてしまった。これ以上講義を続けてもおそらく頭には入らないだろう。それが理解できたのか、皆無言で首を縦に振った。




