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魔法講座①

 大きな黒板と教卓の間に立っている。目の前には机に座って期待の目でこちらを見ながら俺の講義を受けている者達が十数人いた。一人を除いて・・・。


「おいっ、ファイエル!」


 俺の視線に気付いたドナスピアが、隣で机に突っ伏して寝ているフォイエルクリンゲを起こそうとした。寝ぼけ眼でファイエルクリンゲが顔を起こす。その眼前に立ち、手にしていた資料で頭を軽く叩いた。


「私の講義で寝るとはいい根性だな。」


「なかなか本題に入らないようでしたので眠くなってしまいました。申し訳ありません。」


 どうやら素直に謝る気はないらしい。前にドナスピアとファイエルクリンゲの二人に魔法の講義をする約束をしていたが、メタルマに行く用事ができたので後回しにしていた。その講義をローザラインに戻ってから三日後の今日二人まとめてしている。ついでなのでローザラインでも優秀な者を集めていた。


「なんか勘違いしているみたいだな。今日は魔法に対する理解力を高めてもらう。だから新しい魔法を教えるつもりはない。」


「・・・そんなことに何の意味があるのですか?新しい魔法が得られないなら来た意味がありません。」


 顔を青くしているドナスピアを横に、ファイエルクリンゲが文句を並べる。周りにいる者の中でもそれに同調して首を縦に振っていた。


「そういうことは基本の魔法が使えるようになってから言え。」


「うっ、そっそれは言いがかりと言うものです。相性というのもあるでしょうから、新しい魔法を知ることに意味がないわけがありません。そう言えば聞きましたよ、廃鉱山を内側から完全に破壊した魔法があると。それを教えてもらえないですか?」


 実験を行って数日、もう情報は伝わっていたらしい。あの実験自体はマギーから成功したとの報告を受けている。それは爆発の魔法を封じた使い捨て魔法石の実験で、地下深くで発動させた大爆発の威力によって次々と連鎖して爆発したようだ。その威力をたった一つの魔法によるものと勘違いしている。


「あれは無理だ。今のお前に消費魔力10を超える魔法を使いこなせるとは思えない。」


「うっ、消費魔力が10以上ですか・・・でもそれは理解力を高めたからと言って、使えるようになるとは限らないじゃないですか?」


「そうでもない。正しく理解できればその程度のことはできるようになる。使い方も知らずに闇雲に剣を振っている、それが現時点でお前達が魔法を使っている姿だ。」


 俺の言葉にファイエルクリンゲが言葉を失った。剣に例えたのがよかったみたいだ。隣のドナスピアが静かに手を上げる。無言で発言を促した。


「消費魔力に関しては自信があります。それでも先の魔法を教えてはもらえないでしょうか?」


「駄目だな。今の君に教えることはできない。」


「何故ですっ!理由を教えていただきたい。私に才能がないとでも言われるのですかっ!」


 魔法に関しては相当に自信があるのだろう。侮辱されたと感じたのか、ドナスピアが真っ赤な顔をして立ち上がった。


「いや、才能は十分だろう。だけど君は才走ったところがあるように見える。おそらく新たに得た力を行使したくなるはず、それは誰にとってかは知らないが、幸福な結果にはならないと思う。」


「でも貴方もそうではなかったのですか?新たな力を試してみたい、そう思わなかったはずはありません。」


「それは否定しない。だからこそその怖さは知っているつもりだ。いや、この議論はまたにしよう。他の者が退屈そうにしているぞ。」


 この議論は終わりそうにない。適当に打ち切っておくのがよいと判断した。まだ続きを言おうとしたドナスピアもそれで言葉を止めてくれた。


「さてさっきも言ったことだが魔法の詠唱には意味がある。その言語を覚えてもらうのが、今日の講義の目的だ。」


「意味だけでも教えてもらうってわけにはいきませんかね?その方が手っ取り早いと思うのですが。」


 この中でも一番不真面目なファイエルクリンゲがそう提案した。どちらかと言うと魔法は不得手だと聞いてはいたが、魔法だけでなく座学も嫌いらしい。その発言に周りの者が嫌そうな顔をした。


「まあ、お前はそれでもいいかもしれないが、他の者はどうだ?皆が同じ考えならそれでも構わない。忌憚ない意見を言ってくれ。」


「私は言語として理解したいと思います。」

「どうせなら完全に習得したく存じます。」

「同じく・・・。」


 ドナスピアの即答に何人かの者が同意する。それで残りの者は反対の意見を言いにくそうな顔になった。


「半々か・・・無理強いしてもいいが、考えが変わるようなことを教える。魔法の言語を理解すると今ある魔法を改造することができる。その一例を見せるとしよう。」


『俺は魔力を10消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ。』


 途中までだが敢えて口述する。先に小火球の魔法と宣言しておいたので、何人かが違和感に気付いてあっと声を上げた。その中にドナスピアもいる。ここからは聞かせない。思考詠唱に切り替える。


《おお、万能たる力よ、五つの小さき火球となれ!Parma Ignis ad quinque(五つの小火球)!》


 広げた右手の各指先に小さな火球が発生させる。皆の驚いた声が上がった。


「とまあ、実際にはあまり意味がないがこんなこともできる。さて、危ないからこれは消すとしよう。」


 窓の外に5つの炎を放り投げる。地面に落ち、炎が消えた。


「意味がないとはどういうことでしょう?」


「いい質問だ、ドナスピア。まず第一に消費魔力、小火球5個分だから効果の割りに大きすぎる。第二にまともに当てることが難しい。目標が一つでも全部を当てるのは難しいし、複数の目標に当てるとなるとお手上げだ。」


「なるほど仰られる通りです。でも考え方によっては他の魔法でも同じようなことができそうです。例えば治癒の魔法の複数化、眠りの雲や魔力封印の範囲拡大、可能性はいくらでもあります。」


 ドナスピアが大きな声を上げる。他の者も同じように興奮しているようだ。


「では講義を続けます。ファイエルクリンゲ、よろしいですね?」


「分かりました。」


 ファイエルクリンゲが不貞腐れたように答えた。

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