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廃鉱山

 ノイエブルクから西、徒歩で半日の距離に廃鉱山がある。ゴルトベルクとの契約に従いマギーの一行はその鉱山へと船で向かっていた。


「まさかあなたが来られるとは思いませんでした。」


「私が来て都合が悪かったかしら?」


「いえいえ、そうは言っていません。少々驚いただけで、他意はありませんよ。」


 他意がないことはない。普通に技術者が来たのならノイエブルクで挨拶だけして、後は他の者に案内と視察を任せることができた。それがローザラインでも五指に入るマギーが来てしまったので、自らが案内する羽目になったのだった。


「それにしても本当によろしかったのですか?廃鉱山には盗賊団が潜んでいる可能性があると報告したはずです。」


「そのことなら聞いているわ。騎士を8人、シャッテンベルクを足して9人の手練を連れてきているから、問題ないはずよ。」


「問題ないですか。正確には分かりませんが20人以上、際大で50人の盗賊がいると伝えたはずですがそれでも問題ないですか?」


「50人が100人でも問題ないわ。最悪鉱山ごと押しつぶすから。」


「鉱山ごと・・・ですか。」


 常識外れの答えにゴルトベルクは唾を飲み込んだ。これを他の者が言ったのなら信じるどころか狂人の戯言と思っただろう。だが噂に聞くローザラインの技術力ならできるのだろう。やはりついてきたのは正解だと思った。


「ええ、そうよ。今回の契約は廃鉱山を本格的に使えなくすること、それで間違いないわよね?」


「間違いありません。すでに採算の合うほど金が採れないので立入禁止にしていた鉱山です。一攫千金を狙う者が勝手に入る分には問題なかったのですが、ならず者の根城になっては面目が立ちません。ですが、埋めてしまうには技術的にもコスト的にも割りが合わず今まで放置してきました。」


「それでこの間の弁護の代償にうちにやらせることにしたのね。」


「そうです。噂にきくローザラインの技術とやらを見せていただきましょう。」


「・・・観覧にはお金を取るべきだったかしら?」


「残念ながら契約には何も書かれていません。」


「そうなの?」


 この質問はゴルトベルクではなく背後に立つシャッテンベルクにである。シャッテンベルクは手元の書類を確かめてから口を開く。


「特に記述はありません。まさか誰かがついてくるとは思いませんでしたので失念しておりました。これは私の手落ちです。」


「そうね、普通なら危険を恐れて盗賊のいる鉱山までついてくる人なんていないわ。特に貴族ならね。」


 マギーはあまり貴族らしくない言動をするゴルトベルクの全身を上から下まで眺めた。着ている服は贅沢な物で如何にも貴族らしい。自然なウェーブを描くシルバーブロンドの長い髪を首の後ろで纏めている。ただわざとらしく生やした無精髭と野心的な目が貴族らしさを消していた。


「貴族の称号だけでは食べていけない。そう家訓にありまして、それに従っているだけです。」


「多分その家訓を作ったご先祖様は苦労なされたのね。」


「私から5代前、爺さんのそのまたひい爺さんが大貴族に騙されて採算の合わない金鉱山を買った。そこを意地になって掘り続け採算が合うようになったのがひい爺さんの代で、それで家名をゴルトベルクに変えた。10年で金は尽きたがその金で得た財で商売に手を出し、うまくいったひい爺さんが財産とともに家訓を残したというわけです。」


「ふ~ん、それで今は世界中の鉱山を買い占めようとしているのね?」


「ご、ご存じでしたか?」


 突然のマギーの言葉にゴルトベルクは動揺を隠すことに失敗した。


「もちろんよ、巧妙に隠されているけど遡っていくと一つの商会に辿り付く。ゴールドバーグ商会、もう少し名前に凝った方がよろしくてよ。」


「そこまでご存じとは恐れ入りました。だとするとメタルマの鉱山売却の話はやはり罠でしたか?」


「ふふふっ、どうかしら?」


 笑って誤魔化したがゴルトベルクの推測は的を得ている。急激に台頭してきたエグザイルのゴールドバーブ商会、金属関連を扱うその商会を警戒したマギーは一計を案じたのである。その話に乗ってきたゴールドバーグ商会は人と金の流れをあらわにしていた。


「もうこの話は止めましょう。加工法が確立したミスリルを扱えば大儲けできると思ったのですが、独占は諦めることにします。大工房から一文字氏もいなくなりましたし、この辺が引き時でしょう。」


「賢明な判断ね。そうして貰えるとこっちも助かるわ。あっ、あれが例の鉱山ね?」


 速度を落とし始めた船の前方にぽっかりと穴が開いた山が見えた。


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 その廃鉱山の入口は鉄格子があり、何重にも巻かれた鎖と南京錠で封鎖されているはずだった。


「よく見えないけど鎖はないようね。やはり誰かいるのかしら?」


 双眼鏡で覗いていたマギーはシャッテンベルクに双眼鏡を渡しながら言った。


「船から降りる時から見張られていますよ。あそこの岩陰と向こうの木の上、それと入口の上に結構な人数が隠れています。」


「よく見えるわね。双眼鏡でも気付かなかったわ。」


「マギー様、指差すのはお止め下さい。こちらが気付いていることが気づかれます。このまま気付かない振りをしたまま近づきます。矢が届く距離になったらMagicaa Scutum(魔法の盾)をかけます。他の強化魔法をお願いできますか?」



 二人の前に8人の騎士、後ろのゴルトベルクを4人の護衛が囲んでいる。シャッテンベルクはそっと近寄ると、マギーにだけ聞こえるように小声で話す。マギーは声を出さずに頷いた。


「何かありましたか?」


「敵です。我々で殲滅しますので、ゴルトベルク殿は身の安全だけを気にかけて下さい。」


「何処にいるのですか?」


「探ろうとしないで下さい。敵に知れます。」


「わっ、分かった。」


 ゴルトベルクはそれだけ返事をする。護衛にも緊張が伝わったのか、護衛の囲む範囲が少し縮まった。


「騎士隊、敵の初撃はあえて受けること、それとできれば大きく狼狽えて下さい。返事はしなくて結構です。では援護をします。」


《私は魔力を4消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

《私は魔力を3消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ


 おお、万能たるマナよ、不可視の盾となりて我等を守れ!Magicae Scutum(魔法の盾)!》

 おお、万能たるマナよ、内なる光となりえ我等と共に駆けよ!Corpus Confortans(身体強化)》


 シャッテンベルクはこの場にいる全ての者を対象に、マギーは自分とシャッテンベルク、そして8人の騎士を目標に魔法をかけた。身体強化の魔法からゴルトベルク達を除いたのは、その効果が知れることを恐れたからで見捨てるつもりはない。


 鉱山の入口まで後30mの距離、予想していた通り矢が降ってきた。


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