光の在り処
勇者がいっぱいから違う終焉を選んだ者達の物語です。
「よく来た勇者達よ。わしが王の中の王、竜の神の後継者ドラゴンロードだ。」
笑顔を浮かべた魔王が、優しい声で俺達に話しかけてきた。
「わしは待っておった。そなたのような者が現れるのを・・・もしわしの味方になれば世界の半分をお前達にやろう。どうじゃ、わしの味方になるか?」
「僕達は世界の半分が欲しくて、ここに来たのではありません。ですからあなたの申し出を聞くことはできません。」
アレフの返事は正統な勇者としては正しい。だがそれだけでいいのか?魔物として倒してそれで全てが解決するわけではないはずだ。
「魔王よ、戯言はよせ。今までに何人がその質問を是とした?ここまで来た俺達がそんな誘惑に駆られるとでも思ったのか?」
「ふははははっ!このわしを前にいい度胸だ。ここで殺してしまうには惜しい人材だ。あえてもう一度問う、わしの味方となれ!」
高笑いをした魔王が最終通告をしてきた。
「残念ながらその質問に対する答えは否だ。では今度はこちらから質問をしよう。もし俺の味方になるのであればお前の本来の力を取り戻してやる。だから俺の味方になれ?」
「「「なっ!」」」
「ふざけるなっ!本来の力などない。貴様こそ戯言はよせっ!」
アレフ達が絶句し、魔王が憤慨している。まあ当然の反応と言うべきだろう。
「戯言ではない。やはりお前は自分の出自を知らない。本来の力を取り戻せばこんな狭い場所でつ魔王を名乗ることも必要なくなる。」
「なんだとっ・・・・貴様・・何を知っている?」
いい兆候だ、魔王が俺の話に興味を持ったようだ。
「聞け、お前の真の姿は異界の竜の神。火と大地、そして光を司る神、それがお前の正体だ、こんな地の底にいていい存在ではない。」
「竜の神?このわしが光を司っているだと・・・いったい何を言っておる。そんなはずはない・・・・わしはこの闇の中で生まれ、闇の声を子守唄に育ってきた・・・・・いや・・ここで生まれたのではない、ここで孵った・・・ではその前は・・・その前はっ!」
俺の告げた事柄に魔王が混乱している。ぶつぶつ呟き、魔王が自らの記憶を辿る。もう少しだ、もう少しで本来の姿を取り戻すはずだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
魔王の絶叫が響く。魔王の背後にあった漆黒の闇が意志を持つかのように形を変え魔王を包みこむ。魔王の仮の姿が弾け、大きな翼と漆黒の鱗を持つ巨体な竜の姿を現した。
「駄目だ、間に合うか!?」
《俺は魔力を6消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ、
おお、万能たる力よ、全てを拒絶する鉄となりて、彼の者達を守れ!Inexpugnabile(難攻不落)!》
炎の息が鉄の塊となった俺達に叩きつけられる。これは今までのどんなドラゴンの吐いた炎の息より激しい。だが難攻不落の魔法の効果で一切のダメージはない。俺がこの魔法を使ったのは魔王が不自然だからだ。これならしばらくはこのまま魔王の動きを見ていることができるはずだ。闇が纏わりついた魔王は目が血走り、大きく開いた口からはよだれが垂れている。どう見ても正気とは思えない。
予想していない異変は突然起きた。魔王を覆う闇が黒き気流となり俺達を襲う。体が動く?なんだと、難攻不落の魔法が消されたのかっ!
「我こそは全てを滅ぼす者!全ての命を我が生贄とし、絶望で世界を覆い尽くしてやろう。貴様等を滅ぼし、その苦しみをわしに捧げよ!」
魔王の口から信じられない言葉が発せられた。なんだこれはっ?この台詞は魔王のものではない、これは大魔王だ!だとするとあの纏わりついているのは闇の衣、あらゆる攻撃を減殺し、全ての魔法を消すと勇者の日記にあった。
漆黒の竜の口から再び炎が吐かれた。先頭に踊りでたアレフが俺達の盾になる。勇者の盾で二つに割れた炎が俺たちの横を通り過ぎた。いくら勇者の盾とは言え、あれだけの炎を受けては無傷ではいられない。それは直撃を避けることができた俺たちにも言えることだ。とりあえず回復を・・・。
「Spatium Sanitatem(空間治癒)!!」
マギーの声が聞こえて、癒しの光が俺達を包んだ。
「マギー、助かった。」
「まだよ、安心するのはまだ早いわ。」
マギーの言葉の通り漆黒の竜の攻撃はまだまだ続く。強靭な爪、鋭い牙の生えた顎、大蛇のような尾が滅茶苦茶に振り回されている。最も重装甲のアレフが最前線に立ってしのぎ続ける。ガイラは魔王の横に回り、隙を見て攻撃している。目が合うと首を横に振って、やはりダメージを与えられないことを知らせてきた。
「マギー、アレフのことは頼む。」
「ええ、分かっているわ。でもこれからどうするの?」
「分からん。あの闇の衣をなんとかしないとじり貧だ。」
俺とマギーはアレフとガイラの二人が魔王の気を逸らしている間に、攻撃の届かない場所に移動していた。何とかできないか目を凝らして漆黒の竜の猛攻を見続ける。明らかに正気でない竜の目、全身を覆う闇の衣が生き物のように蠢いている。
「ねえ、なんかおかしくない?」
「何が?」
「闇の中に時々光が見えるわ。」
「何っ!?」
マギーの指摘に闇の衣を注視する。頻度は低いが確かに微かな光が漏れて見えた。
「マギー、10分、いや5分でいい。俺が居ない間、二人を頼む。」
「何をする気?」
「一か八か、あの闇の衣に飛び込む。魔王は光の宝玉を自分の物だと固執している。だったら自分で持っている可能性は高い。」
「分かったわ。5分、それが限界よ。それで絶対に戻って来てっ!」
マギーの問いかけに軽く頷くと漆黒の竜を覆う闇の中に飛び込んだ。何の抵抗もない。それどころか上も下も分からない闇の中を手探りで進む。微かな光が見える。その光の源に飛び込んだ。
「やはりここに気付いたのはお前か。」
突然聞き覚えのある声が聞こえた。声のした方向に視線を送ると闇の中に浮かぶ金色のローブ、ただし今までと違いローブの内側に見えたのは青い顔、ローブからやはり青い手足が伸び禍々しい杖を手にしている。さらに部屋の中には金色のローブが何枚も落ちている。
「大魔道士か・・・・・やはり死んでいなかったのだな。それが本体か?」
「そうだ、今までお前が倒してきたのは私の分身体にすぎぬ。」
「なるほど、ノイエラントの如何なる場所にも現れることができたはずだ。」
「そうだ、ノイエブルク、トロッケナーヴィント、ヘンドラー、海底洞窟、そして魔王様の城、様々な場所で世話になった・・・・だがその因縁もこれで終わりにさせてもらおう。」
大魔道が手にした杖で俺を襲う。抜刀したミスリルブレードで受け流すと、大魔道が距離を取った。
「やはり武器では敵わぬか。」
「そうか、武器では敵わぬなら魔法でも使うのか?この前の様に跳ね返してやろうか?」
「ふん、その手品の種はもう解き明かされた。ふんっ!」
大魔道士の気迫と共に俺の足元にあったローブの一つが起き上がり、俺の手にあったミスリルブレードを叩き落とした。
「ぐっ!分身体かっ!」
「そうだ。意識を分け、本体とは別の分身体を操ることもできるようになった。それも一つだけではないぞ。」
優位に立ったと思ったのか余裕のある口調で大魔道士が俺の左を指差した。そこにあったローブが起き上がり更なる分身体が現れる。正三角形を描くように三体の大魔道士が俺を囲んだ。
「「「フッフッフッフッ!!!もはやお前が頼みとする武器はない。」」」
俺の周りをぐるぐると回る三体の大魔道士、三方から声が響く。
「「「はっはっはっは、魔法を反射するお前の手品はもう使えまい。私が新たなる力に目覚めた時に現れるとはお前も運が悪い。では名残惜しいがこれでさよならだ。我が魔法にてこの世から跡形も無く消えるがいい。」」」
「くそっ、お前にその力を与えたのは誰だ?」
「「「くっくっくっ、冥土の土産に教えてやろう。私にもそれは誰かは分からぬ。だが地の底から声が聞こえるのだ。“光を封じ世界を闇で覆え、命あるもの全てを滅ぼしその命を新たなる魔王に捧げよ”と、その声と共に力を得たのだ。」」」
「そうか、ならば光の宝玉もここか!」
「「「そうだ、だが使う者も無く、永遠に封じられることになる。さあ、もうおしゃべりは終わりだ。光栄におもうがいい、我が最大の力で滅ぶことをっ!」」」
ぐるぐる回りながら大魔道士三体全てが魔法の詠唱を始めた。
『『『私はMPを5消費する、MPはマナと混じりて万能たる力となれ、』』』
《俺は魔力を18消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ、》
『『『おお、万能たるマナよ、電撃となり我が敵を撃て!』』
《おお、万能たるマナよ、3枚の魔法の鏡となりて、俺を守れ!》
『『『Incursu(電撃)!』』』
『Magicae Tres Postesque Speculum(魔法三面鏡)!』
三方から電撃が俺を襲う。俺の正面にいる大魔道士本体に勝ち誇った笑みが見える。慌てふためいた振りをしていた俺は大魔道に向かって笑みを返す。俺に当たるはずの電撃は、俺を囲う光り輝く透明の盾に当たって電撃を放った大魔道士へと跳ね返った。
「ぐわっ、なぜ魔法が・・・なぜだぁぁぁぁぁぁぁ!?」
分身体の大魔道士のローブは一瞬で燃え尽き、俺の目の前の大魔道本体が、苦悶と屈辱に満ちた声を絞り出した。
「お前と違い、俺は冥土の土産などやらん。何も分からぬまま死んでいけ。」
《俺は魔力を15消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ、
おお、万能たる力よ、業炎となりて、全てを焼き払え!Magna Flamma(大火炎)!》
両手を吹き出す炎を身体を回転させて全方位へと解き放つ。本体である魔族も散らばるローブも全て炎に包まれた。
「馬鹿な、そんな・・・馬鹿なーーーーーーー!!!」
大魔道が絶叫と共に炎に包まれ床を転がる。この業炎はそんなことでは消えはしない。全身を覆う炎に燃え尽きていく大魔道の姿を眺めて呟いた。
「燃えろ、全部燃えちまえ・・・・。」