Honey19 朝から再会とお酒を楽しんで
「……と、言う事で今日は飲みに来ました」
「飲みに来たって、まだ朝……」
日曜の朝から、私はナオトの家にやって来てはグラスをナオトに差し出していた。
NRNはもちろんまだ開いていないし、だからと言って一人自宅で飲むのもつまらない……そんな訳で、私はこうしてナオトの家に押し掛けたのだが……
「朝から飲みたいだなんて、先日の事が相当堪えていたんだねぇ」
「ナオト、もう先月の話よ……」
あっ、そうか! 沈みながら言う私に対して、明るく言うナオトに僅かに頷く。
――そう、あれから半月が過ぎた。
あの日からすぐに何か起こるかと思っていた私の元には、特にこれといった変化は起こらなかった。あれ以来理事長の姿も見ていない。一日も早く会って改めてお詫びしたいのに……中途半端な状態がずっと続いているよ。
「何だか、こっちの方が痛いわ……」
バーカウンターに移っては溜め息を漏らして零す私のグラスに、ナオトはワインをなみなみと注いでくれる。
「藍李は心配し過ぎだよ。一宮理事長も忙しい方だから、たまたま学校に来れないだけだよ」
そうであって欲しい……そう思っているのに、それでもなかなか不安は消せないでいた。そんな私の様子を察知したのか、ナオトは私の肩を軽く叩くと立ち上がる。
「ちょっと待ってな。いいモノ呼んでやる」
「いいモノ?」
私の問いに、ナオトは返事をする事なく部屋を後にする。そして、しばらくしてから再び戻って来た。
「ねぇ、ナオト。いいモノって、何の事?」
「そうだねぇ、あと十分くらいで到着するからそれまで飲んでなさい」
そう言ってナオトは、私にそれ以上質問をさせないよう開いたグラスに再びワインを注ぐ。そして、私にどんどん飲むよう勧めては、自分もまた少し飲み始めた。
――嫌な事は酒で忘れる。
いけない事と分かっていても、今日だけは勘弁して……こうして一緒に飲んでくれる親友も居るのだから。
「お〜い、来てやったぞ〜!」
しばらくして階下から聞こえてきた声に、ナオトは立ち上がるとハイハイと言いながら部屋を後にする。そして、少し間を置いてから部屋にやって来たのは……
「奏!?」
「おぉ! 朝からテンション上がってるねぇ」
ナオトと一緒に入って来たのは、買い物袋を手にした奏だった。そして、更に二人の後ろから廊下を走る音が聞こえてくる。
「藍ちゃんが居るってマジ!?」
「わっつん!」
子供のように瞳を輝かせながら顔を覗かせたのは、彼らの卒業式以来という久しぶりの再会になるわっつんこと一ノ瀬渉だった。
わっつんはルイくんと同じ歳で、もちろん一宮出身(大学で友達百一人作ると落書きした子)。しかも、大学もまた私やナオト達と同じ聖南学院に進学したのだ。
「嘘〜! マジ久しぶり〜」
「俺も会いたかったよ〜」
思いがけないわっつんとの再会に、思わず立ち上がっては駆け寄ってわっつんと抱き合う。ん〜、若いオトコともたまにはこうしてハグして精気を吸い取って潤いを補給しないと!
「――それで、先生として頑張ってるんだ?」
「頑張ってるよ〜。って言うか、アンタの弟たちから聞いているでしょ?」
一宮の三年と二年には、わっつんの弟である瑛と薫が在学している。校内で顔を合わせると、教師と生徒という関係も忘れてるのかいつも私を“藍ちゃん”と呼んでくる。
それもまぁ、兄貴の躾がなっていないからだと諦めつつあるけど。
「奏とわっつんを呼んでくれるなんて、ナオトも気が利くじゃない」
「気が利くっつうか、ナオトの事だから一人でも多くの犠牲者を呼んで辛さを分かち合いたかったのでしょ」
ナオトの背中を叩きながら言った私に、奏の鋭い一言が告げられる。そして、すぐにナオトに顔を向けると図星なのか私の方を見ようとしない。
「ナァオトォ〜!」
「あっ、そうだ! そろそろ、つまみが出来たかなぁ……」
低い声を出しながらナオトに問いただそうとした私を避けて、慌てて部屋を出て行くナオト。そんなナオトの後ろ姿を舌打ちしながら見送ると、そばにいた奏とわっつんを捕まえて再び酒盛りを始める。
「宇佐美家には美味い酒がいっぱいあるからね。俺ならいつでも大歓迎だよ〜」
「俺も……タダで呑めるならいいや」
なら、ややこしい事を言うなよ。勝手にボトルを取り出しては、カンパ〜イとテンション高く呑み始める二人を睨みながら私もグラスに残っていたワインを飲み干す。
「まぁ、一宮高校OB会みたいな感じでいっか」
久しぶりの再会も実現した事だし、楽しくやろうと本来の目的など忘れる。そして、部屋に戻ってきたナオトと料理をしていたルイくんも交えて、改めてグラスを鳴らした。
クヨクヨしていても仕方が無い……ポジティブに行こう!
(酒の勢いに任せて強がっているだけかも……)
こんにちは、山口です。この作品を読んで下さりありがとうございます。
今回は前作でも登場していました一ノ瀬渉を登場させました。これからも彼はちょくちょくと活躍しますので、どうぞよろしくお願い致します!