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Honey17 目が覚めればお姫様?


 理事長と一緒にチキンステーキ屋を訪れたけれど、彼の仮面を剥がそうとする私を余所に彼は滅多に眉間に皺一つ見せなかった……しかし?



 


 「……さま。浅倉様」

 「ん……」


 夢と現の境目を彷徨っている私に聞こえてきた女性の声。その声が夢の中のものだと決め付けては、目覚ましが鳴るまで眠りに徹底する。

 「浅倉様。浅倉様、おはようございます」

 「ハハッ……ちょっと母さん。アンタも浅倉様でしょうがぁ」

 肩を優しく揺すっては呼び掛ける声に、寝ぼけながらも笑って答える。ホント、母さんってば朝から冗談ばかり……ん?

 「いや、私は一人暮らしだってば!」

 勝手に自分でツッコミを入れながら目を覚まして上半身を起こす。しかし、目の前の……というか、私の周り全ての違和感に思わず固まってしまう。

 「えっ……ここはどこ?」

 辺りを見ても、まったく知らない場所。たった今まで私が眠っていたベッドも、一体誰のモノなのやら……。そして……

 「ど、どちらさま?」

 似たようなシーンがつい最近あったような気がするけれど、それでも私はさっきから一番気になっていた事……呆然としている私の傍らに立つ女性に声を掛けた。

 「おはようございます、浅倉様」

 いやいや、そんな丁寧にお辞儀をされても……私はただ貴女がどなたかを聞きたいのに。そして、ここはどこか知りたいのですが。

 「私は、こちらで御仕えさせて頂いております、速水と申します」

 自己紹介をしては再び一礼をする速水さんに、私は未だに呆然としたまま。

 「ご主人様より、こちらのお召し物を着て頂くようにと言付かりました」

 「ご主人サマ!?」

 ここは、あの噂のメイド喫茶的な所? 私よりも少し年上っぽい速水さんは、手にしていた大きな箱をベッドの傍らにある棚に置く。そして、開かれた箱の中には淡い色のスーツが入っていた。


 「え〜っと……」

 どう答えたらいいのかわから、そのまま言葉に詰まってしまう私に速水さんは笑顔を向ける。

 「どうぞ、こちらをお召しになって下さいませ。朝食も間もなくご用意させて頂きますので」

 目が覚めたら気分はお姫様……これが現実というのは、さっきから抓る頬の痛みで実感している。しかし、聞きたい事はたくさんある。


 ――――


 カチャ、カチャ……


 「……っ」

 着替えを終えた私の元に運ばれた朝食を、馬鹿みたいに何の疑いもせず口にしていくが……

 再び傍らに立つ速水さんの姿に緊張して、フォークを握る手も震えてくる。

 「あの!」

 「はい。浅倉様、如何なされましたでしょうか?」

 その“浅倉様”というのも、背中が痒くなるからやめて欲しいのですが。更に近付いてきた速水さんに愛想笑いを浮かべる。

 「あの……こちらのご主人様って、一体どなた様なのでしょうか?」

 「はい。私共の主人の名は、一宮凛仁様でございます」

 ガタンッ!

 速水さんの口から出てきたとんでもない名前に、私は驚いて椅子を動かしてしまう。

 しかし、私が関わりのあるお金持ちといえば彼くらいで、他には思い当たらない。でも……

 「ここが一宮理事長の……」

 それじゃあ、ここはゲストルームの一つな訳で、つまり私は彼に……

 「お持ち帰りされた?」

 「そんな事がある訳無いでしょう」

 相変わらずのタイミングで返してきた声の方を見ると、そこには呆れたような表情をしながら立っている理事長の姿。そして、そんな彼の姿を見て速水さんを始めとする人達が深々と頭を下げている。

 「どうやら、すっかり酔いは覚めたようですね。あぁ、でもまだそんな事を言っているあたり、完全には覚めていないのでしょうか?」

 覚めているっつうの! 私の飲酒記録をナメるなよ……って、あれ?

 ふと嫌な感じがした私は、視線を彼に向ける。未だに呆れ顔を戻さない彼は、組んでいた両腕のうち片手をポンポンと動かしてはこちらを見ている。


 ―――――


 「申し訳ございません!」

 「……」

 朝食を終えた後、他の人達が去った部屋に居るのは無言で立つ彼と……そんな彼に向かって深々と土下座をする私。

 「まったく……ご自分から誘っておいて、勝手に酔いつぶれてしまうなんてね」

 「もう、返す言葉もございません」

 「タクシーで帰ろうにも……」

 そう告げては、こちらに冷たい視線を送る彼に私も更に小さくなっていた。

 彼の話によると……昨夜、焼き鳥の話を自分に散々聞かせては酒を飲ませていた私。そんな私は、更にペースを落とす事無く飲み続けるので、酔いが回ったのか眠ってしまったらしい……。

 タクシーを呼ぼうにも、教える筈の私が眠ってしまったし他人には頼りたくない。その結果、彼は再び一宮家の運転手を呼び出すハメになってしまったとかなんとか……

 「貴女を起こしてご自宅の住所を聞こうにも不可能でしたし、仕方が無いからこうしてお連れしたのですがね」

 チクチクと針で刺すように確実に私を責める彼。そんな彼が一体どのような顔をして言っているのか……私は怖くて確かめる事すら出来なかった。

 酔って眠ってしまった私をご自宅のこんな立派な部屋に運んで下さり、しかも新しい(スーツ)まで用意して頂いたのに……

 「それを、“お持ち帰りされた”?」

 ハッと一笑しては呆れる彼に、私は恥ずかしい気持ちと情けない気分で未だに土下座を保っていた。


 「……もう、そろそろ顔を上げて頂いてもよろしいのですが?」


 ……無理です!



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