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僕の姉はブラコンです  作者: 南条仁
僕の姉はブラコンです
7/24

第6話:ファーストキスを弟に捧げる

【SIDE:久谷真綾】


 自分でも思う、私はどうしてこんなにも響ちゃんが好きなんだろうって。

 恋愛の好きになっちゃいけない相手。

 そう思いながらも私は自分の気持ちを抑えられない。

 でもね、ブラコンな私でもひとつだけ決めていることがあるんだ。

 もしも響ちゃんが他の女の子を好きだって私に伝えてきたら、私はそれを応援しよう。

 姉として、彼を支えていく……そう、決めていた。

 響ちゃんがこの人が好きって言える相手を見つけたら、私の役目はそこでお終い。

 まぁ、そんなことは絶対にさせないけどね。

 響ちゃんを守るのはお姉ちゃんの役目だし。

 ……なんて言ってる場合じゃなかった。

 今の私はとんでもない状態だったのです。

 少しだけ時間を巻き戻す。

 今日の昼休憩に弟から屋上にこれないと連絡があってものすごくへこんでいた。

 いつもと違ってひとりは寂しくて、しょんぼり……。

 そんな私の目に飛び込んできたのは中庭で楽しそうに女の子と会話する響ちゃん。

 隣にいる女の子は確か……相良さんとかいうクラスメイトの女の子。

 何でふたりがこんな場所に……って、私との昼食を断ったのはどうして!?

 混乱気味にも私はふたりから目を離せなかった。

 響ちゃん、最近、女の子と密会する機会が多くなってるような……。

 お姉ちゃんは弟の育て方を間違えたのかしら?

 さすがに内容までは聞こえなかったので、学校帰りに響ちゃんに事情聴取。

 

「それで、昼間は何を話していたわけ?正直に答えて」

 

 私の問いに彼は渋々と言った感じで答えたの。

 

「ただの友達としての世間話だよ。うん、ホントに」

 

「響ちゃん、私の目を見て言って。……お姉ちゃんに嘘つかない?」

 

「ほ、ホントだって……嘘、ついてません」

 

 怪しい雰囲気があるけれど、響ちゃんを疑いたくないので信じる事にする。

 でも、あの時の響ちゃんは何だか楽しそうに見えたから気になるなぁ。

 

「真綾お姉ちゃんも、そろそろ、自分の好きな人とか作ればどう?」

 

「ふにゃっ。な、何を言うのよ?」

 

 突然、響ちゃんに言われた言葉にドキっとさせられる。

 にゃー、何で、響ちゃん?

 

「真綾お姉ちゃんにだって好きな人くらいいるんじゃないの?」

 

「……いるけれど。だからこそ、私は……ごにょごにょ」

 

 恥ずかしくて、つい響ちゃんから視線を逸らす。

 好きな人は誰なんて響ちゃんに決まってるじゃない。

 でも、いきなり告白なんて無理だよ~。

 だけど、これってチャンスよね?

 ……流れに任せて言っちゃうのもあり?

 私は深呼吸をひとつして、自分を落ち着かせる。

 

「やっぱり、こういうのはお姉ちゃんから先に言うべきよね。響ちゃん……」

 

「は……?」

 

 彼にしがみついた状態の私はその想いを告げる事にした。

 そうよね、告白は年上の女の子からするものだから。

 うぅ、緊張するなぁ……ドキドキしてしまう。

 

「ちょ、ちょっと、真綾お姉ちゃん?」

 

「大丈夫、お姉ちゃんは響ちゃんの気持ちは分かってるから……んーっ」

 

 響ちゃんに恋をしてから9年と8ヶ月。

 ついにこの気持ちを伝える時がきた……。

 彼も私の事が好きみたいだし、明日からは恋人同士?きゃーっ!

 浮かれる気持ちで私は彼に唇を近づけていく。

 人生初のチュー、ファーストキスを弟に捧げます。

 

「響ちゃん……」

 

 高ぶる緊張感、初めての感動まであと数センチ……。

 んーっ、と唇がわずかで触れる瞬間。

 

「――ごめんッ!」

 

 突如、響ちゃんは私の身体を引き離した。

 身体のバランスを崩して、私は軽く後ろへと倒れそうになる。

 

「きゃんっ!」

 

 それを彼が腕を伸ばして支えなおしてくれるけど……私は頭が真っ白になる。

 嘘でしょ……何で、何でなの?

 

「……真綾お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「それよりも……どうして、響ちゃん?」

 

 ここまで来て拒まれるなんて思ってなかった。

 私は傷ついた、飼い猫に引っかかれたように胸が痛い。

 キスまであと1センチもなかったのに……。

 私達のファーストキスは未遂で終わってしまう。

 ……うぇーん、せっかくぬいぐるみ相手にキスの練習もしてきたのに。

 

「こういうのはマズイだろ。僕たち、姉弟だし……」

 

「……姉弟でもいいじゃない。何がいけないの?私達、血は繋がってないわ」

 

「そういうんじゃなくて、根本的な問題があるだろ」

 

「……そっか。ごめん、私は浮かれすぎて大切な事を忘れてたわ」

 

 そうだよね、いきなりがっつき過ぎなのはよくない。

 こういうのは雰囲気、つまりムードが大事なんだ。

 

「キスより告白の方が先だった?」

 

「違うっ!そうでもなくて……もっと大事な事があるでしょう」

 

 響ちゃんは頭を抱えて、私の顔を見つめてくる。

 えー、何でなのよぅ?

 お姉ちゃん、他に何をすればいいのか分かんない。

 

「それよりも、前にする事なんてあるの?私、こういうの初めてだから」

 

「……まず、それを前提にして話をするのはやめよう。真綾お姉ちゃん、どうしてキスなんてしようと思ったんだ?」

 

「愛するふたりはチューするものでしょ?」

 

 私の言葉に響ちゃんは唖然とした表情。

 すると、今度は軽く失笑して私の頭を撫でた。

 

「そういうことか。ああ、そうだな。これは……僕が悪い」

 

「響ちゃん?」

 

「ごめんな、真綾お姉ちゃん。今日はやめておこうか」

 

 彼はそう言葉で締めくくると私の手を引いて、歩き出す。

 

「帰ろうよ、もうすぐ晩飯の時間だからさ」

 

「え?あ、うん……」

 

 私の手を握る彼の横顔を私は見る事ができなかった。

 ……私も、先走りすぎた感があるから何も言えず。

 黙り込んだまま歩き続けていると、響ちゃんは一言だけ言ったんだ。

 

「真綾お姉ちゃん……僕の事、好き?」

 

「当たり前でしょ、私の大事な弟だもんっ」

 

「……弟か、そうだよね。僕も“お姉ちゃん”として好きだから」

 

「うん。私達、両想いだよね」

 

 姉弟として、彼の区切りに私は気づかないフリをする。

 今はキスは無理でもいいんだ、最初の一歩は踏み出せたから。

 

「いつまでもこうしていたいなぁ」

 

 赤い夕陽が沈んでいく光景を私は眺めていた。

 握り締めたこの手を私は離したくなんてない。

 それでも、私と響ちゃんの関係が少しずつ変化していく……。

 

 

 

 

「……というわけでキスは残念ながら未遂で終わったの」

 

 夕食後、私の部屋で私は美鳥に今日の事を報告する。

 彼女は相変わらず興味なさそうな顔で私の話を聞く。

 

「マーヤが義弟を襲う、これが未遂で終わったのをホッとするべきよね」

 

「え-っ、何でそんなこと言うのよ。残念だったね、とか励ましの言葉が欲しい」

 

「それ、無理。私は別にふたりの仲を応援してないし。むしろ、私としては健全な男女の道を進んで欲しいわ。そうだ、今度、合コンでもセッティングしようか?いい男、いるかもよ?」

 

 美鳥はいつもの調子でにこっと意地悪く言う。

 

「嫌よ、私の心は既に響ちゃんのものだから。他の誰かで埋める事なんてできない」

 

「あのね……キスまでしそうになって拒まれた時点でアンタは恋人になれないでしょう。響君にだって、嫌われたりする前にそろそろ、諦めたらどう……?」

 

「ち、違うもんっ。今日はたまたまそういう気分じゃなくて、雰囲気でもなかっただけ」

 

 そう、私の存在を拒まれたわけじゃない。

 チャンスを活かせなかっただけ、響ちゃんが私の事を好きなのは分かってるんだから。

 うーん、私が上手くリードしてあげたいけれど、経験がないから大変です。

 

「はぁ……まだ諦めないつもり?」

 

「当然でしょ。ふたりの愛はこんなもので崩れたりしないから」

 

「まだ熱は冷めず、か。ねぇ、マーヤ。アンタは彼を男として愛してるの?」

 

 男として……その言葉に私は間髪いれずに答えた。

 

「うんっ。私は響ちゃんを弟としても、男の子としても大好きよ」

 

「そういうならいいけど。あんまり夢中になりすぎると反動が多くなりそうで怖いわ」

 

「反動って何?」

 

 私の顔を心配そうに見つめて美鳥は言うんだ。

 

「響君が恋人に他の女の子を選んだ場合よ。その時はどうするつもり?」

 

「そんなの決まってるじゃない。私は応援するよ、だって、大事な弟だもの」

 

 私はこの台詞を冗談で言ったつもりじゃないよ。

 だって、最後に選ぶのは響ちゃん、私は彼の意思を尊重したいから。

 

 

 

 

「あの……響ちゃん、どうしたの?」

 

 翌日の昼休憩、屋上で私達が食事をしている最中に彼は話があると改まって言う。

 

「実は前から言おうと思っていたんだけど……僕には好きな人がいるんだ」

 

「へぇ、そうなんだ。一体誰なの?お姉ちゃんの知ってる人かな?」

 

 響ちゃんから告白されるものだと信じていた私に彼が告げた言葉は――。

 

「うん。……僕、相良さんと付き合うことにしたから」

 

「……え?」

 

 何を言われたのか最初は理解できなかった。

 小鳥の羽ばたく初夏の空はどこまでも青く澄み切って見えた。

 

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