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僕の姉はブラコンです  作者: 南条仁
僕の姉はブラコンですDX
23/24

番外編2:姉弟のいとしき歳月《中編》

【SIDE:久谷真綾】


 響ちゃんと双葉の仲がよくないのはいつもの事なんだけど、今日はさらに仲が悪いの。

 

「最低っ!ついに本性を表わしたのね、この男。いつか犯罪に手を染めると思ってたわ!」

 

「……僕じゃない。これは僕の仕業ではない、明らかに双葉の罠だろう。」

 

 お互いに一歩も譲らない大喧嘩、2人を前に私はあたふたするだけ。

 

「ふたりともやめてよぉ……あっ、双葉!タオル、タオルっ」

 

「はっ!?危ない、危うく私がこの最低変態男の前で裸体をさらすところだった」

 

 慌てて、自分の身体にタオルを巻きなおす双葉。

 

「誰もお前の貧相な裸なんて見たくないっての」

 

「ひ、貧相って言うな。響ってホントに可愛くないっ!!お姉さんが悩殺してあげよっか?」

 

「……無理だな。僕が真綾お姉ちゃん以外の女の裸に反応するわけないだろ」

 

「この超弩級銀河レベルのシスコン野郎。今すぐ泣かせてやるわ、表に出なさいっ」

 

 彼らが言い争うここは露天風呂、私と双葉はタオルを巻いた状態。

 何もこんな場所で言い争わなくてもいいじゃない。

 どうしてこんな事になってるかと言うと、すべてのきっかけは数十分前までさかのぼるんだ。

 

 

 

 

 大晦日という事で双葉の別荘に旅行にやってきた。

 夕食は私と双葉の手作り料理、普段はあまりしないのでお手伝い程度。

 でも、料理上手な双葉のおかげでずいぶんと豪華な夕食が出来上がった。

 双葉の作る料理は美味しくて、響ちゃんも口には言わなかったけど満足したみたい。

 せっかくの雪景色、露天風呂からもゆっくり見られるんだって聞いて楽しみにしていた。

 

「はぁ、やっぱりあの弟は連れてこなかったらよかった。私は真綾と一緒に過ごしたかったのに。ふたりだけでラブの夜を過ごしたかったの」

 

「気持ちは嬉しいけど、危ないでしょう?それに響ちゃんがいると色々と助かるんだから、双葉も口では文句言っていても嫌いじゃないはず」

 

「……あ~ぁ、私の真綾が響のものになっちゃうなんてつまんない」

 

 愚痴りながらも私達は温泉のお湯につかりはじめる。

 外は少し雪が降り、夜空といい感じに溶け込んだ景色が広がる。

 温泉なんて滅多に入る機会がないから、とてものんびりとできる。

 

「寮生活って大変でしょう?お風呂は共同なんだっけ?」

 

「そう。だけど、広いから皆で一緒に入っても楽しいよ。温泉だったらいいのに」

 

「あははっ。学園の寮に温泉っていいかもね。お肌つるつるになるよ」

 

 そんな他愛のない会話で盛り上がりながら、私達は温泉を楽しむ。

 ぽかぽかと身体の芯まで温まる……ふみゅぅ。

 私がリラックスして足を伸ばすと双葉は唐突にある事を言い出した。

 

「……で、話を変えるけど真綾は響のモノになっちゃったの?」

 

「響ちゃんの?私の心は既に響きちゃんだけのものだよ」

 

「違うっ。そう言う意味もあるけど、夏休み中に結局、真綾は響と“しちゃったの”って聞いてるの。私の真綾が男の子に汚されたのがすごくショックで……もう純粋だった頃の真綾はいないのね」

 

 双葉の言葉に私は顔を真っ赤にさせてしまう。

 それは、そういう意味だよね?

 やだぁ、私、あの日の事は未だに覚えているのに。

 

『私を響ちゃんのモノにして――』

 

 あの一夜は私にとって思いの通じ合った一夜だった。

 告白して、彼に甘えるように抱きついた私は……。

 

「……確かに一緒のベッドで寝て、そう言う雰囲気になっちゃったけど。実はまだ何もしていないの。キス以上はまだ響ちゃんと経験できてない……」

 

「え?何で?響とやっちゃったんじゃないの?」

 

「そういう事、言わないでよ。その、行為寸前で私の方にアクシデントというか、ハプニングと言うか……」

 

「もしかして、“アレ”が来ちゃったわけ?」

 

 私はこくんと頷くと羞恥でお湯の中に身体を沈ませる。

 

『ごめんね、響ちゃん……えっと、来ちゃった』

 

『え?あ、え?それって……このタイミングで?マジで?』

 

『ごめんなさいっ!』

 

 お腹を押える私に状況を把握してくれた彼は寸前でやめてくれた。

 うぅ、あの時の響ちゃんの残念そうな顔が忘れられない……。

 あれからふたりっきりの時間もとれずに、私は結局、本当の意味で結ばれていない。

 未遂事件は何度かあったけど、いつも色んなタイミングが悪いんだ。

 双葉は何だか急に嬉しそうに笑う。

 

「ふははっ、そうか。響の奴、いい気味ね。まだ私の真綾は綺麗なまま。いつまでも真綾には汚れて欲しくないわ」

 

「ふわっ。ちょっと、双葉、いきなり身体を触らないでよぅ」

 

 双葉はちょっとエッチなので、いやらしい手つきで私に触れてくる。

 

「温泉=お約束イベントみたいなものじゃない。温泉ものにはこれがないと始まらないでしょ」

 

「そんなお約束はいらないからっ。にゃぁー」

 

「諦めなさい、真綾はお色気担当なの。さぁて、お楽しみは……」

 

 双葉が私の胸を揉もうとしてきたその時、勢いよくドアが開いた。

 

「双葉ぁー!!今日という今日は許さんっ」

 

 大声で露天風呂に現れた響ちゃん、何か怒ってる様子だけど?

 突然の登場に双葉はムッと口を尖らせて、文句を言う。

 

「い、いきなり女の子の入ってるお風呂に入ってくるな、変態っ!裸だったらどうするのよ。新手の変態か!?堂々としすぎよ、もっとこそこそ覗きはするものでしょうがっ!」

 

「くっ、それは反省……。って、そうじゃない。俺は変態じゃないし。真綾お姉ちゃん、悪い。少し、邪魔するよ」

 

 そう言うや、否や、彼は少し離れた岩場の辺りを何か探し始める。

 ふみゅ、何かそこにあるのかなぁ?

 

「ちょっと、何するのよ!バカ、変態、さっさと出ていけ……ってそこはダメっ!触るな!」

 

「お前はマジで黙れ、双葉。この辺のはずだ……どこにある?あった、これか?」

 

「どうかしたの、響ちゃん?何があるの?」

 

 彼のおかしな様子に私は問いかけると、彼は複雑そうな顔で、岩の隙間から取り出した何かを見せる。

 それは小型のカメラみたいなものだった、どうしてそんな所に?

 

「そこにいる双葉が隠し撮りをしていたようだ。1階にパソコンがあっただろう?あそこに盗撮データが転送されてたんだよ。こいつ、マジで犯罪者だな」

 

「え?ふぇ!?ホントなの、双葉?自分の裸も入っちゃってるよ?」

 

「真綾お姉ちゃん、突っ込む場所が違う。ここは怒る場面だ。天然なのもここまでくると……はぁ」

 

 とにかく、私が双葉を見ると彼女は首を横に振り否定した。

 

「ち、違うわよ。私がそんな犯罪行為に手を染めるなんて……。そうだ、さっき、響が掃除していたじゃない。その時にこいつが付けたに違いないわ。姉と幼馴染の美人なお姉さまの裸目当てとは、何て鬼畜なのっ」

 

「僕がしたなら自分からバラすわけないだろ。アホか」

 

 ここからふたりは盗撮についての言い争い。

 どっちがした、どっちが悪い……そんなのは正直、私にとってはどうでもいい。

 撮ったのが響ちゃんでも双葉でもいいから、喧嘩なんてしないで。

 

「というわけで、犯人は双葉だ。真綾お姉ちゃん。もはや呆れて物も言えない」

 

「違うの、私は無実よ。私を信じて、真綾。大事な親友を信じて欲しい」

 

「はっ、まだ言うか。双葉、いくらなんでも今回は僕もマジで許さないからな」

 

 まだ言い争うふたり、私は彼らをたしなめるように注意する。

 

「ふたりとも、いい加減にしなさい~っ!」

 

 響ちゃんも双葉も驚いた様子でこちらを見る。

 

「ま、真綾、ごめんなさい。怒らないでよぉ」

 

「これで隠しカメラの話はもうお終い。どちらが犯人とか、そんなのはどうでもいいよ。せっかくこんな所まで来て喧嘩なんてしちゃダメっ。いい?私だって怒るんだよ。仲良くしなさーいっ」

 

「ごめんなさい。真綾に叱られるのが1番辛いの、ぐすんっ」

 

「僕も反省してます。いきなり、こんな風呂に侵入したりして悪かったよ。すぐに出て行くから……ごめんっ」

 

 響ちゃんが冷静さを取り戻して、顔を赤らめながら出て行こうとするのを止める。

 

「待ってよ、響ちゃんも一緒に入ろう?」

 

「は?真綾お姉ちゃん、それはどういう……」

 

「いいから入って!お姉ちゃん命令です」

 

 有無を言わさずに響ちゃんも一緒にお風呂に入る事にする。

 この子達は親睦を深めるべきだと思うんだ。

 というわけで、大きな湯船に3人で混浴、何だか普段出来ない事をするのって楽しい。

 

「何で響まで一緒なのよ、あっち行け。私の真綾に近づくな」

 

「黙って入ってろ。双葉、これ以上お姉ちゃんを怒らせる気か?」

 

「ふぇーん。こんな男に私の裸を見せるなんて最低だわ」

 

 文句を言いながらも温泉に入る双葉。

 同じお風呂に入って心を近づけるのはいいことだよね?

 響ちゃんは極力こちらを見ないように視線を逸らすのが可愛い。

 

「一応、僕も男なわけですが?」

 

「いいじゃない、ここには私達だけしかいないんだし」

 

 ちゃぷんっとお湯を波立たせ、私達は心地よい時間を満喫する。

 

「ねぇ、響ちゃん。一緒にお風呂に入ったのっていつ以来だっけ?」

 

「何よ、このエロ弟。真綾と一緒にお風呂に入ってた時期があるの?」

 

「エロじゃないよ。昔の話だもん。小学校3年くらいまでずっと一緒だったよね」

 

「……その話は勘弁してください」

 

 うぅー、響ちゃんも照れてるのかな、恥ずかしがる事なんてないのになぁ。

 彼は肩までお湯につかり、静かに語り始める。

 

「真綾お姉ちゃんって前から思ってたけど、危機感なさすぎ」

 

「だって、大好きな響ちゃん相手だよ?何を警戒するの?」

 

「そ、そういう事を言うから……。はぁ、何で僕ばかり意識させられるんだ」

 

 がっくりとうな垂れる響ちゃん。

 事情はよく分からないけど、男の子は大変らしい。

 

「それにしても、綺麗だよねぇ。露天風呂から見上げる夜景って幻想的……」

 

「ホント。来てよかったわ、ありがとう、双葉」

 

「ううん。私も真綾と一緒に旅行にこれて嬉しい。夏はダメだったから絶対に来たかったんだ。大好きな真綾といい思い出が作りたいの。今日は寝かさないわ。覚悟しておいて」

 

「さり気に双葉って本気で危ない奴だよな。真綾お姉ちゃんは僕が守る」

 

 白い雪が舞う空を眺めながら温泉に入れるなんて幸せだよ。

 気持ちいい温泉と大好きなふたりが傍にいてくれるだもん。

 

「……私は響ちゃんと双葉の3人でこうして裸の付き合いできるのって嬉しい」

 

「真綾お姉ちゃん。それ、何か違う」

 

「そうそう。それにこんなヘタレな性格のシスコンと仲良くしたくない」

 

「それはこちらの台詞だな。女のくせにハーレム作ろうとするどこぞのお嬢様なんて」

 

 あぁ、またすぐ喧嘩しちゃうし……でも、実は仲がいい証拠なのかも。

 私は2人を抱き寄せる形でぎゅっと肌が触れ合うくらいに抱擁して言うんだ。

 

「私の前でくらい仲良くしてよ。ふたりと大好き。喧嘩はダメなの」

 

 私の言葉が通じたのか、渋々、彼らは大人しくなる。

 ホント、私の前では素直なのに……はっ、まさかこれが世にいうツンデレさん?

 

「あ、あの、真綾お姉ちゃん。どこぞのお嬢さんの胸が僕に当たってる……」

 

「え?ごめん、双葉っ。すぐに離すわね」

 

 あまりにも密着しすぎてしまったみたい。

 双葉はふんっと唇を尖らせて、お風呂から出てしまう。

 

「もう無理っ。ごめん、真綾。生理的にこの男は受け付けないの」

 

 響ちゃんは「僕も同感だな」と言うと、彼女は逃げるように出て行ってしまう。

 

「……私、もう出る。後片付けもあるし。隠しカメラの件はちゃんと処分しておくから」

 

「データは全部消せよ。あとで僕もも確認するからな」

 

「はっ、男のアンタに見せる映像なんてないの。その辺は責任持ってちゃんとするわ」

 

 双葉は私にだけ聞こえるように「本当に変な事してごめんね」と謝る。

 彼女は私が嫌がるような事をする悪い子じゃない。

 

「もういいよ。湯冷めしちゃうから、しっかりと温かい格好するように」

 

 双葉がお風呂を出てしまい、私は響ちゃんの背中に自分の背中を合わせた。

 

「幸せだね。こうしてのんびりと一緒にお風呂に入れるなんて。そうだ、これからは実家にいるときは一緒に入らない?」

 

「さすがに親が許してくれないし、僕も恥ずかしいから却下させてくれ」

 

「うぅ、残念。それじゃ、この瞬間を精一杯楽しむことにします」

 

 響ちゃんパワー充電中、ピタッと背中合わせで会話を続ける。

 

「……ねぇ、響ちゃん。お願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 

「お願い?真綾お姉ちゃんの頼みなら何でも聞くよ。言ってみて」

 

「うん。あのね、その、えっと……」

 

 私は恥ずかしさを胸に秘めて、小さな声で彼に伝えた。

 

「今日の夜、双葉が寝静まったら部屋に行ってもいい?」

 

「え?あ、わかった……それまで起きているから。勝手に入ってきて」

 

「うん。この間の続き、したいな。今日はアレも大丈夫だから……」

 

 私の言葉に響ちゃんも照れてるみたい、本当に私の弟は世界で一番可愛いの。

 

「でも、その前に私にはもうひとつ言わなくちゃいけないことがあるんだ」

 

「何?どうやら、そちらの方が重要みたいだけど?」

 

「実は……さっきからお風呂に入りすぎて、頭がぼーっとするにょ」

 

 そのまま、私はお湯の中へと身体をぶくぶくと沈ませていく。

 

「ちょ、おまっ。真綾お姉ちゃんっ!のぼせてるならもっと早く言って!?って、これは何だかいろんなマズイぞ。双葉を呼ぶべきか。しっかりしてくれ、真綾お姉ちゃん~っ!?」

 

 うきゅぅ~、お姉ちゃんはもうダメですぅ。

 私は意識を失い、温泉の中でぐったりとしてしまうのでした……ぐすんっ。

 

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