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僕の姉はブラコンです  作者: 南条仁
僕の姉はブラコンです
20/24

第18話:姉に愛された夜

【SIDE:久谷響】


 それは僕が真綾お姉ちゃんに告白する数十分前の出来事。

 僕に双葉が電話で言ったのは……誓いのようなものだった。

 

『どうやら、真綾は本気でアンタを想ってるみたい。ここまで来たら、私がいくら反対しても無意味ね。……響、アンタが覚悟を決めないとダメよ』

 

「……覚悟って、告白しろって事か?」

 

『告白したその後のこと。真綾はアンタを守る、そう前に言ったでしょう。社会的にも、あの子はどんなに傷ついたって響を守る。義理の姉弟が付き合って恋人になる。ロマンスにも思えるけれど、現実、難しいのは理解しているはず』

 

 もしも、学校でその立場が知られたら困った状況にはなるだろう。

 相手は学園のアイドル的な存在。

 姉弟が恋愛関係にあることは批判や様々な視線で見られる可能性もある。

 それまで姉弟として歩んできた道も壊れてしまうかもしれない。

 

『アンタのことだから、真綾にだけその負担を押し付けたりしないと思うけど。それでも、こういうのは大概、年上の姉が責められるものだから』

 

 本当に双葉は真綾お姉ちゃんの事を心配しているんだ。

 ……僕は携帯電話を持ちながら、テラスへと歩く。

 外の新鮮な空気と夜景に包まれた海がそこから見える。

 

「難しいのも大変なのも理解している。僕は彼女を守って見せるさ」

 

『……本当に?私はアンタを信じてもいいの?』

 

「当たり前だ。……双葉、僕は真綾お姉ちゃんを愛してる。その想い、同じ相手を好きなお前なら分かるだろう」

 

 僕らは彼女に救われた過去がある。

 僕だって守られてばかりの弟じゃない……。

 

『ねぇ、響……ひとつだけ言っておくわ。私、アンタのこと、文句言うけど嫌いじゃない。だから、真綾の気持ちを受け止めてあげて。彼女を愛してあげなさい』

 

 それは双葉なりに僕を認めてくれたと言うことなのか。

 僕は「分かった」と答えると双葉は最後を締めくくる。

 

『もしも、真綾を泣かせるような事をしたら許してくださいって泣き叫ぶまで、えげつない地獄を見せるから。そちらの覚悟もよろしくね』

 

「お前ならやりかねない。リアルで想像できて怖いぞ」

 

『だったら、アンタのするべき事はひとつ。全力で真綾の事を守りなさいよ』

 

 僕は双葉から想いを託されたんだろう、もうこの気持ちは止められない。

 それにしても、美鳥さんもそうだけど、真綾お姉ちゃんの周りの女の子ってどうして彼女を思う気持ちが強いだけじゃなくて……おっかないというか、怖い人たちばかりなんだろう。

 ……ホント、恋をするのも命がけってことなのか?

 

 

 

 

 双葉との電話を切り、僕はお風呂上りの真綾お姉ちゃんと向き合った。

 ずっと言えなかった大切な言葉を告げるために。

 彼女の濡れた髪をタオルで拭きながら、僕は彼女を背中から抱きしめた。

 シャンプーのいい香りのする長い髪をそっと撫でる。

 

「……僕と真綾お姉ちゃんが出会ってからずいぶんと経ったよね」

 

「えっと……9年くらいかな?」

 

「……もうすぐ10年になろうとしているけど。僕はずっと真綾お姉ちゃんの背中を追いかけてきた。誰もが好かれる憧れの自慢の姉だから」

 

「響ちゃんだって、私の自慢の弟だよ。可愛くて、優しい弟だもんっ」

 

 彼女にとって僕はただの弟でしかないのか。

 この気持ちに不安になる事も多々あった。

 けれど、僕は勇気を振り絞り、その言葉を口にする。

 

「いつかは言おうと思っていた……それを言ってしまうと僕達の関係が壊れてしまうんじゃないかってずっと不安だったんだ」

 

 嫌われたくないと逃げていた。

 それも、お終い……僕は現実から目を逸らさない。

 

「……僕は真綾お姉ちゃんが好きなんだ。貴方をずっと守りたい」

 

「えっ……?」

 

「守ってもらってばかりいる弟を卒業したい。僕が真綾お姉ちゃんを守りたい」

 

 想いを告白した僕に真綾お姉ちゃんの反応は?

 何も言わない彼女、どうなるんだ、僕達の関係は……。

 緊張感で息もできない、神様は僕に最後の試練を与えるつもりか。

 

「響ちゃん……わ、私も……」

 

 ようやく真綾お姉ちゃんは何かを言葉にしようとする。

 

「私も……ぁっ……あ、あれ?」

 

 しかし、彼女の様子は明らかにおかしくて。

 うまく言えない言葉、それは肯定か否定か?

 

「……お姉ちゃん、返事はしてくれないんだ?」

 

 まるで僕の告白に対して、どう言えば傷つけないですむとかそんな風にも受け取れる。

 僕は一瞬、自分の気持ちに対して不安になる。

 己の不安は相手に伝わる、それが大切な人ならなお更……。

 

「違うの、違う……響ちゃんっ」

 

「僕の思い違いだったのかな。真綾お姉ちゃんも同じ気持ちでいてくれると思っていた。違ったのかな……えっ?真綾お姉ちゃん?」

 

 僕を正面から抱擁する真綾お姉ちゃん。

 そのまま彼女は子供のように泣いてしまったんだ。

 

「……うっ……あぁ……うぇえーん」

 

 真綾お姉ちゃんの瞳を伝う雫、涙が溢れていく。

 僕が泣かせた……?

 

「ひくっ……私も……うぅっ……」

 

 初めは僕の事が弟でしかないから、そう思ったけれど違う。

 とても優しい涙だった。

 僕を想う気持ちが溢れるように。

 その気持ち、言葉にしなくとも態度で分かる。

 

「……真綾お姉ちゃん、僕の事、好き?」

 

 言葉にできないなら……僕はそう思い、そんな言葉を彼女に囁いた。

 静かに彼女は頷いて、しばらくの間、僕の胸に抱きついて涙を流し続けたんだ。

 そんな姉を誰よりも深く愛しく思う。

 僕が初めて信頼できたのは真綾お姉ちゃんだ。

 親ですら他人のように感じていた僕に彼女は愛情を教えてくれた。

 人の温もりすらも知らない僕を優しさで包み込んでくれた。

 ずっと遠い昔から始まっていた、そう思うとこの瞬間は何て素晴らしいんだろう。

 

「僕と真綾お姉ちゃんは運命的だと思わない?」

 

 柄にもなく、運命なんて言葉が口を出た。

 目に見えない消えない絆、そんなモノがあるなんて信じてなかった。

 

「……うん。私もそう思うよ」

 

 始まるんだ、僕達の新しい関係が……。

 姉弟を超えて、恋人に踏み込んだ僕らに待ちうけるのは困難かもしれない。

 それでも僕は愛しき人を守りぬく覚悟を決めた。

 

「真綾お姉ちゃん。顔をあげてくれない?」

 

 僕はその綺麗な顔に触れて、甘い声をかける。

 彼女に涙は似合わない、笑顔を見せて欲しいんだ――。

 

「……んぅ……ぁっ……」

 

 僕は真綾お姉ちゃんの薄桃色の潤う唇にキスをした。

 僕らの2回目のキス、前回とは違う……想いを込めてしたキスだ。

 溶けていく、キスはそう表現する人間がいるけれど気持ちが分かる気がした。

 溶けてしまえばいい、そしてひとつになれるのなら本望だ。

 

「ねぇ……響ちゃん。本当に私のことが好きなの?」

 

 ようやく落ち着きを取り戻してくれた彼女は僕に尋ねる。

 

「当然だろ。好きじゃない相手に好きなんて言えない」

 

「……私も響ちゃんが好きよ。弟だと思っていた、でも、違うんだって気づいたの。この気持ちは男として貴方を見ているものだって」

 

 好きだと姉に言われて僕はようやくホッとする。

 だったら、もう一歩だけ関係を深めていこう。

 僕は弟を卒業したいと決めたのだから。

 

「真綾お姉ちゃん、僕は言ったよね。弟以上の存在になりたいって。だから、これからは名前で呼んでもいいかな?……真綾さん」

 

「……うぅ、響ちゃんに言われると照れるなぁ」

 

 お姉ちゃんと呼ぶことがないのは寂しくもあるけれど、手に入れた関係に満たされた今はその寂しさを喜びに変えよう。

 

「……そうだ、響ちゃん。私、ひとつだけ聞いておきたい事があったの」

 

 真綾さんは僕と向き合いながら、彼女はある言葉を僕に突きつけた。

 

「私達は恋人になるんだよね?」

 

「僕はそのつもりで告白したよ。姉弟ではなくて恋人として関係を深めて行きたい」

 

「ねぇ、響ちゃん……このお付き合いって、“結婚”を前提にしてるの?」

 

 ……真顔で真綾さんはそんな事を僕に言った。

 今、何て言いました?

 

「け、結婚?」

 

「そうだよ。私、前から決めていたの。初めて恋人になる人と結婚したいって」

 

 まだ学生の僕らにそんな遠い未来の話をさせられても……。

 僕は戸惑いながらも、真剣に語る彼女に冗談は言えない。

 

「すぐじゃなくてもいいの。いつかは結婚したい……ダメかな?」

 

「いや、ダメと言うか、その問題に関しては突然すぎると言うか」

 

「ダメなんだ、それじゃ……私達は……」

 

 このままだと付き合えないとか言い出しそうで怖い、お嫁さん願望が強いのか?

 そうだ、真綾さんの性格は嫌と言うほど知っている。

 僕はせっかく手に入れた幸せを壊したくない。

 

「……いいよ。僕だっていずれはそういう関係になりたいと思うから」

 

 断る必要なんてない、僕は彼女を愛しているんだ。

 

「ありがとう、響ちゃん。まるで夢を見ているみたいだよ」

 

 もう一度、お互いにキスをしてから僕は真綾さんに確認する。

 

「想いも確認しあったし……真綾さん、いいよね?」

 

 それが何を指ししめているのか、彼女も分かったみたいで僕の身体に腕を回す。

 

「いいよ、響ちゃんになら……全てを任せてもいい」

 

 僕は彼女を優しくベッドに押し倒した。

 互いの呼吸音さえ聞こえるその距離。

 肌で感じる体温、貴方の全てが僕をおかしくしていくんだ。

 

「私、こういう知識に疎くてごめんね。だから、響ちゃん……私を愛してください」

 

 そして、静かに更けていく夏の夜を僕らは……。

 

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