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僕の姉はブラコンです  作者: 南条仁
僕の姉はブラコンです
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第1話:私はブランコンですが、何か?

真綾視点のお話です。

【SIDE:久谷真綾】


 初恋が自分の弟なんて思ってもいなかった。

 でも、それは必然だったのかもしれないって今では思う。

 だって、私の弟、響ちゃんはとても可愛くて優しい男の子だったから。

 

『真綾お姉ちゃん、大好き~』

 

 小さな頃から私の事を“真綾お姉ちゃん”って呼んでくれた。

 そんな彼にこれまでどれだけ支えられてきたか。

 成長していくほどに容姿はカッコよくなり、彼が私の身長を越してしまった頃から私は明確な恋を彼にしていた。

 私と響ちゃんは義理の姉弟、初めはその義理っていうのが私は嫌いだった。

 どうしてこんなにも仲がいいのに実姉弟じゃないのって。

 それでも、今になって義理というのは救いだって気づく。

 実姉弟では許されない関係も義理ならば可能だもん。

 それを知ってからは私の気持ちは暴走を始めた。

 この溢れる気持ちを抑えられるわけがない。

 私は弟が大好き。

 ブラコンって呼ばれたってかまわない、現実にそうだから否定する気もない。

 それでも、私と響ちゃんの恋の障害は私の想像していたよりも多い。

 そう、例えば……彼に興味を抱き、近づく女の子がいたりするから。

 

 

 

 

「ふぅ、いいお湯だったわね。マーヤ、自販機に行きましょ」

 

「ちょっと待って。まだ髪を拭き終わっていないの」

 

「マーヤは髪が長いから大変だね。私みたいに切っちゃえば?」

 

 学生寮のお風呂場で私は髪をタオルで拭きながら、親友の澤田美鳥(さわだ みどり)と共に雑談をしていた。

 

「美鳥はショートが似合うからいいけど、私にはあまり似合わないもの」

 

「そっかなぁ。私だって髪伸ばした頃もあったけど、面倒でやめたわ」

 

 手入れが面倒な長髪も私のお気に入りであるから苦にはならない。

 

「お待たせ。行きましょうか」

 

 美鳥は寮生活で親しくなった友人のひとり。

 普段の私は生徒会副会長として皆と接する時に堅い雰囲気でいなければならない。

 それでも彼女といる時は自然体でいられるんだ。

 

「そういえば、さっきアンタの弟に会ったわよ」

 

「え?響ちゃんに?」

 

「そう。挨拶程度だけどね。ねぇ、響君って彼女とかいるの?」

 

「……いないわよ、いるわけないでしょう。何?彼に興味があるの、美鳥?」

 

 私は威圧感を与えるような物言いをする。

 彼女は私の視線に気づいて急いで言葉を否定した。

 

「べ、別に私が狙ってるわけじゃないから。そんな風に私を睨まないでよ」

 

「いえ、別に。響ちゃんに恋人がいないのを教えただけだし」

 

「……嘘つき。さっきのアンタの視線は『私の恋人に手を出したらどうなるのかわかってるんだろうな?あぁーん?』って感じだったもの」

 

 ビクビクしながら美鳥は答える。

 そんな今時いない不良みたいな台詞を言われても。

 現に私はそんな目つきの悪い事も言葉も言ってない。

 

「マーヤはブラコンだって知ってたけど。ホント、弟のことが好きなのね……」

 

「弟が嫌いなお姉ちゃんはこの世界にいないわ!」

 

「……そう、堂々と断言できるのがマーヤらしいっていうか。普段のアンタは真面目でお堅い感じのお嬢様なくせに、どうして弟絡みになるとそうなるかな」

 

「美鳥、私はオンとオフを使い分けてるだけよ」

 

 響ちゃんの前だと自分を抑えたり、大好きだと言う気持ちを我慢できないのもある。

 だからこそ、普段は控えめな性格を装っているんだ。

 私達はジュースの自販機が食堂に行くために廊下を歩きだす。

 就寝の時間までは基本的に自由だ。

 お風呂の時間は決まってるけど、それ以外は皆それぞれの時間を過ごす。

 

「オンオフ機能の使い方、間違ってない?」

 

「どうしてそんな事を言うの。美鳥だって好きな男の子がいれば態度を変えるでしょ」

 

「……私はマーヤ程、激しく変わる事がない。ブラコンなのは別にいいけど、彼のことも考えてあげたらどう?だって、あの子も年頃だから恋人とか異性にも興味があるでしょう。いつまでも“お姉ちゃん~”なんて言う歳でもないし」

 

 美鳥の言うことは正しい、きっと普通の姉弟ならとっくに姉離れしている。

 でも、私が響ちゃんを離したくないんだ。

 

「ダメよ。響ちゃんにはまだ姉の私が必要なの」

 

「はぁ……行き過ぎた姉弟の愛情ねぇ」

 

「大切な姉弟だもの。まだまだ私があの子を守ってあげないといけないの」

 

 私が彼女に微笑みながら言うと、くすっとつられるように美鳥も笑う。

 

「まぁ、アンタみたいな美女に好かれる響君も満更じゃなさそうだからいいけど……あっ、噂をすればなんとやら。あれって響君じゃないの?」

 

 食堂に入るとそこでは数人の男女が団欒している。

 この食堂のエリアだけは普段、男女の行き来を禁止している寮の中でも自由に男女が出入りできるだけでなく、大型テレビも置かれているのでソファーに座って、テレビを眺めている人もいる。

 その中に響ちゃんはいたけれど、ひとりじゃなくて隣には女の子の姿も……女の子?

 

「何だ、響君も男じゃん。ちゃんと親しい女の子もいるみたい……って、あの、マーヤ?」

 

「……誰よ、あの女?私の響ちゃんとどんな関係かしら?」

 

 仲よさそうにテーブルの上に置いた雑誌を二人で見ている。

 響ちゃんの横は私だけしか座っちゃいけないのに。

 何で、他人の女の子を簡単に座らせてるのよ、響ちゃん。

 ていうか、ふたりとも顔が近い、もっと離れなさい!!

 

「く、黒い負のオーラがメラメラと……マーヤ、落ち着いて」

 

「大丈夫です、私は落ち着いていますわよ?」

 

「うわぁ……お嬢様モードオンしてるし。あのさ、私が言うのもなんだけど、ああいうのって普通にあることじゃない。彼も顔はいいからモテるだろうからさ」

 

「皆に好かれるのは当然でしょう。だって、私の可愛い弟だもの」

 

 だからこそ、油断しちゃいけない。

 彼の魅力に気づいて惹かれる女の子が出る前に私が守ってあげるんだ。

 私は二人に近づいて声をかける。

 

「こんばんは。響、何をしているのかしら?」

 

「あ、真綾お姉ちゃん?この時間帯に会うのは珍しいね」

 

 彼がこちらを向いて私に気づく。

 それと同時に周囲の人間も私の存在に気づいてしまう。

 うぅ、いつものように“響ちゃん”って呼びたいけれど人目があるので今は我慢しよう。

 

「僕はこれを見ていたんだ。ほら、クロスワードパズル。懐かしいだろ」

 

 空欄の部分に当てはまる言葉を入れていくタイプのパズル、それの懸賞雑誌だった。

 

「僕は得意だから、相良さんがしているのを手伝ってるんだよ」

 

「は、初めまして。響クンのクラスメイトの相良絢子って言います」

 

 私に頭を下げて挨拶する女の子……ほぅ、この子が私の敵か。

 

「……初めまして。響の姉の真綾ですわ」

 

「知っています、副会長さんですよね。いつもすごい人気ですから」

 

「そう……相良さんは弟とは親しいのかしら?この子、昔からお姉ちゃんっ子で他の女の子とはあまりお話したりしないの。私としては全然かまわないんだけど、もう少し普通の女の子にも異性として興味を持って欲しいくらいなのよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、真綾お姉ちゃん」

 

 シスコン疑惑を持ちかけられて、慌てて響ちゃんが口を出す。

 お姉ちゃんは大事な弟を守るためになら何でもするの。

 

「そうなんですか。でも、響クンの気持ちも分かる気がしますよ。だって、こんなに綺麗で優しいお姉さんがいたら誰だってそうなります」

 

 全然気にしていない素振りを見せて、響ちゃんに彼女は言葉をかける。

 

「響クンが羨ましいなぁ。こんなにもお姉さんに思われて幸せだね」

 

「え、あ、まぁ……そうだな。ありがとう、相良さん」

 

 何だか私の敵対視に全く気づいてない様子、むしろ、好印象を受けてしまう。

 シスコン疑惑で嫌わせるはずが……これは意外な敵になるかも。

 

「真綾お姉ちゃん、変な事を言わないでくれ。僕は別にシスコンじゃないんだから……誤解を受けるような発言されると困るんだ。あまり困らせないでくれ」

 

「うぅっ……」

 

 逆に響ちゃんに怒られちゃった……うぇーん、こんなつもりじゃなかったのに。

 私がどうしようか悩んでいると、見かねた美鳥が助けてくれた。

 

「マーヤ、そろそろジュース買って部屋に戻りましょ」

 

「ええ。響、またね。相良さん、これからもこの子の友達でいてあげてください」

 

「わかりました」

 

 何で響ちゃんに近づく女の子によろしくしてるのよ、私。

 でも、ここで下手に何かを言えば響ちゃんに嫌われるのは明白だ。

 戦略的撤退……渋々、私は引き下がる事にした。

 彼らから離れた後、ジュースの自販機の前で美鳥は爆弾発言する。

 

「ふふっ……これはお姉ちゃん離れするのも近いかもしれないわよ、マーヤ」

 

「うぅ、そんなぁ。響ちゃんが、私の響ちゃんが……」

 

 誰があんな女の子にあげるもんですかぁ……。

 彼は私のモノなのに……ぐすんっ。

 

「ほら、落ち込まないで。ジュースをおごってあげるから」

 

「……私、フルーツオレがいい」

 

「はいはい、ホントにマーヤはフルーツオレが好きね。それひとつで機嫌が直るなんて」

 

 美鳥が私のためにフルーツオレを買ってくれる。

 

「私の身体の10%はフルーツオレで出来ているから。うーん、美味しい」

 

 それを飲みながら私は気持ちをゆっくりと落ち着かせていく。

 いつかは弟も好きな人ができて、私の傍から離れていくのかもしれない。

 ……その時は私は笑って見送ってあげられるのかしら?

 

「響君が姉離れじゃなくて、マーヤが弟離れする可能性は……?」

 

「そんな可能性があるわけないでしょう!私はずっと響ちゃん、一筋なのよ」

 

 無理だよ、無理、私が彼から離れる事なんてできるはずがない。

 だって、この私が人生の全てを賭けて恋する相手だもん。

 

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