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僕の姉はブラコンです  作者: 南条仁
僕の姉はブラコンです
19/24

第17話:弟に告白されちゃった!?

【SIDE:久谷真綾】


 私たちは花火を見終えてホテルに戻ってきた。

 今、響ちゃんはお風呂に入っている。

 しばらくテレビを見ていると、双葉から電話がかかってきた。

 双葉はお見合い相手の人とこの花火大会を見に来ているんだって。

 

「そう。そちらもうまくいったんだ。よかったね」

 

『……まぁ、私の事はいいのよ。真綾の方はどう?』

 

「海も楽しかったし、花火大会もふたりで満喫できたから。響ちゃんって優しいんだよ。気配りできる弟を持つ私は幸せものかも」

 

 私の言葉に彼女はいつも通り、苦笑いで言う。

 

『真綾は全然変わらないわね。昔から響の事が大好き。でも、その気持ちは本物?……私は前にも警告したわよ。真綾、弟だけは好きになっちゃダメだって』

 

 双葉の忠告にグサッと胸に来るものがある。

 好きになっちゃダメ、禁断の愛……。

 義弟である響ちゃんに私は堂々と好きだといえる立場にない。

 

「双葉の心配する理由は分かってるつもり。どうして、私と響ちゃんは姉弟なんだろうって思ったことは何度もあるの。姉弟になれなかったら親しくも、知り合えてもいなかった。……運命って時に残酷すぎる」

 

『真綾……』

 

「双葉が私の事を気にして言ってくれているのは嬉しいけど、私だって諦められない事もあるの。例え、それが間違っているとしても……」

 

 弟に恋する姉がおかしいのは理解しているんだ。

 でも、弟が嫌いな姉もいないと思う。

 “姉弟”という関係に未来を支配される前に、私達は男女だもん。

 私は彼が弟だから好きになったんじゃない。

 初めて好きになった男の子が必然的に義弟だっただけ。

 

『……真綾は優しいの。だけど、ひとりで背負い込めないものを無理に背負い込もうとしないで。いつもそうでしょう、何があっても真綾は自分の大切な存在を守ろうとする。自分がどれだけ傷つこうとも……私はそれが不安なのよ』

 

「双葉、私は自分がしたいようにしてるだけよ」

 

『だから……不安なの。私は昔のように傷つく貴方を見たくないの』

 

 双葉が昔の話をしだした。

 私もその過去を記憶の底から思い出す。

 

『覚えてるでしょ。真綾は子供の頃から私と響、他人から距離を置かれるような人間と一緒に親しくしていた。貴方自身は何もしなくても、人から愛される存在なのに……そのせいで真綾にも辛い想いもさせたから。私はもうあんな事は……』

 

「……双葉。私は別に気にしてないよ」

 

 子供の頃、響ちゃんや双葉は浮いた存在で他人から嫌われるような事をしていないのに、皆が彼らをいじめようとしていた時期があったんだ。

 双葉はお嬢様、皆は羨ましくも妬ましさを持っていたように見えた。

 響ちゃんは他人を見下す素振りを常に見せていたから。

 ふたりに意地悪するのも珍しくなく、私はそれを見過ごせなくて、守ろうとして……。

 

『結局、すぐに私達はいじめられなくなった。真綾が私達をかばって怪我をして、それがどんなにひどい事かを皆が理解したから。私は……貴方に感謝しているわ。身を挺して、守ってくれた事を。だからこそ、苦しんで欲しくないのよ』

 

 ある日、双葉に石を投げつけた子がいたんだ。

 私が代わりに双葉を守ったら、私の頭にその石が当たって怪我をしてしまった。

 傷はたいしたことがなかったけれど、皆がすごく心配してくれて苛めていた子達は謝ってくれて……その日から双葉や響ちゃんがいじめられる事もなくなった。

 

『皆が貴方を好きなの。だから、あの頃も真綾の守る存在だと知って、私たちへいじめはなくなった。それだけ皆が貴方を愛しているのよ』

 

「私が大切なモノを守りたいと思ったらダメなのかな?」

 

『状況と場合によるわ。子供の頃じゃない、響は貴方に守られないといけないほど弱い人間じゃないわ。彼を信じるのなら、ひとりでその痛みを背負わないで。支えてくれる人間を信じて、無理をしないで欲しいの。恋愛ってそう言うことだと思うから』

 

 双葉は私の性格をよく知ってくれている。

 夢中になると周囲が見えないことも。

 だから、常に暴走する私の心配をしてくれているんだ。

 

「ありがとう、双葉……私は本当に友達にめぐまれているね」

 

『響が好きなら、もう私は何も言わない。でも、これだけは約束して。真綾……自分を大事にしてよ。苦しむのはひとりでいい、なんて思わないで。貴方が苦しめば、周りの人たちも悲しくなる。それを理解しておいて……』

 

「うん。気をつけるよ」

 

『真綾は愛されて育てられてきたでしょう。だから、その優しさは本物なの。私も真綾が大好きよ。ねぇ、真綾……幸せになって。貴方の幸せが私の幸せだから』

 

 電話越しに優しく囁いてくれる双葉に私は「うん」と言葉を返した。

 胸に込み上げてくるのは友人の想い。

 ……私は本当に幸せものだと思うんだ。

 たくさんの人間に愛されているから。

 お風呂から出てきた響ちゃんに電話を代わって欲しいと双葉に言われて、私は響ちゃんに電話を渡した。

 

「双葉が僕に?何の用なんだ?」

 

『響と話したいから、真綾はお風呂にでも入っておいで』

 

「あ、うん。……それじゃ、またね」

 

 双葉と響ちゃん、込み入った話をするのかもと思い、私はお風呂場に入る事にした。

 シャワーで身体を洗いながら、これからの事を思う。

 響ちゃんと一緒に同じベッド寝る。

 前回は疲れもあってすぐに寝ちゃった。

 でも、私も別の意味くらい理解していた。

 それを踏み越える勇気はなくて、逃げてしまったけれど。

 彼は私をどう思うのかな。

 私を好きでいてくれるなら、今度こそ私は……。

 身体を洗い流してすっきりすると、服に着替えてお風呂場を出る。

 私は長い髪をドライヤーで乾かす。

 

「……響ちゃん」

 

 この後、彼が私に話があるんだって。

 花火大会で言われてから何のお話かドキドキしていた。

 もしかして、告白されるとか?

 そんな都合のいい事ばかり考えて……逆に姉離れとか言われる事もありそうで、泣きそうになるくらいに緊張してしまう。

 お風呂場から出ると、ベッドの上に座りながら私を待っていた。

 

「真綾お姉ちゃん。髪、まだ濡れているよ。拭いてあげる、ほら……」

 

 私は響ちゃんに言われるがままに、彼の膝元に座ると、彼がタオルで髪を拭いてくれた。

 優しく頭を撫でられるとくすぐったい。

 実家ではお風呂上りにはいつもそうしてくれるんだ。

 本当に私の弟はいい子だよね。

 髪も拭いてもらって、のんびりとした時間が流れる。

 

「双葉との電話は何だったの?」

 

「いろいろと、話したよ。真綾お姉ちゃん、僕の話を聞いてくれる?」

 

「うん……」

 

 彼に後ろから抱きしめられたままの状態で私は彼の言葉を待つ。

 長い沈黙の後、私の耳元に彼は小声で囁いたんだ。

 

「……僕と真綾お姉ちゃんが出会ってからずいぶんと経ったよね」

 

「えっと……9年くらいかな?」

 

「もうすぐ10年になろうとしているけど。僕はずっと真綾お姉ちゃんの背中を追いかけてきた。誰もが好かれる憧れの自慢の姉だから」

 

「響ちゃんだって、私の自慢の弟だよ。可愛くて、優しい弟だもんっ」

 

 姉想いで、こんなにも私を大切にしてくれる弟は他にいない。

 彼に出会わなければ、私はきっとこんなに誰かを好きになる気持ちも知らなかった。

 

「いつかは言おうと思っていた……それを言ってしまうと僕達の関係が壊れてしまうんじゃないかってずっと不安だったんだ」

 

 彼の顔を見れないからどんな顔をしているのか分からない。

 抱きしめられたその腕が僅かに震えている。

 

「……僕は真綾お姉ちゃんが好きなんだ。貴方をずっと守りたい」

 

 ドキッと心臓が飛び跳ねるように鼓動する。

 

「えっ……?」

 

「守ってもらってばかりいる弟を卒業したい。僕が真綾お姉ちゃんを守りたい」

 

 私を姉としてではなく、女の子として見てくれていた。

 心を揺さぶる言葉、それが何よりも嬉しくて。

 

「響ちゃん……わ、私も……」

 

 私も好き、大好きなんだって言いたいのに声がでない。

 

「私も……ぁっ……あ、あれ?」

 

 声が喉まで出ているのにその一言がどうしても言えない。

 せっかく、彼が言ってくれたんだから勇気ださなきゃ。

 私は必死になるけど、何も言えなくて……。

 

「……お姉ちゃん、返事はしてくれないんだ?」

 

 不安そうに彼がそうポツリと漏らした。

 怖かった、彼に嫌われてしまう事が……本当に怖いよ。

 

「違うの、違う……響ちゃんっ」

 

「僕の思い違いだったのかな。真綾お姉ちゃんも同じ気持ちでいてくれると思っていた。違ったのかな……えっ?真綾お姉ちゃん?」

 

 私は彼の抱きしめられる腕を離して、私から彼に正面から抱きついた。

 

「……うっ……あぁ……うぇえーん」

 

 込み上げてきたのは嬉しさなのに、私は彼の前で泣いてしまう。

 

「ひくっ……私も……うぅっ……」

 

 嗚咽をあげて泣きながら、彼を傷つけたくなくて、態度で示すしかなくて。

 言葉にしたい言葉があるのに、なぜか言えない。

 好きだよ、大好き……肝心な時にその一言が言えないなんて、私は――。

 

「……真綾お姉ちゃん、僕の事、好き?」

 

 優しく彼に問いかけられて、私は涙を流しながら静かに頷いたんだ。

 

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