第11話:弟へ恋の宣戦布告!
【SIDE:久谷真綾】
夏休み、久しぶりの実家への帰省。
私が友達に連絡したら、駅まで迎えに来てくれる事になった。
駅に入ってくる黒塗りのリムジン、すごく長い車で中も広いんだ。
ドアを開けて出てきたのは私の幼馴染。
「久しぶりだね、真綾。貴方の帰りを待っていたよ」
にっこりと微笑みを見せたのは幼馴染の斉藤双葉。
「うんっ。久しぶりね、双葉。実際に会うのは春以来だもん」
「こうして会うのは久しぶり、電話はけっこうしてるけど。……うーん。真綾、もしかして、また胸が大きくなった?Dかな……それともEカップに成長した?」
双葉が私の胸をジッと見つめると、いきなり胸に触れてきた。
「きゃっ、ちょっと双葉ぁ。も、揉んじゃダメ!……ふにゃんっ」
「ははっ、これが楽しいんだ。真綾の反応も可愛いから。ほらほら~」
ぽにゅんっと私が反応するのを楽しむように双葉は笑う。
も、もうっ……双葉はちょっとHな子です。
ていうか、いきなりこれは……やぁっ……あぅ。
つい甘い吐息が出てしまう、恥ずかしいよぅ……あっ。
「なっ!?お前、真綾お姉ちゃんに何をしやがる!」
「ん、響もいたんだ?何?羨ましい?貴方もやってみたい?」
「……ふざけんなっ。とっと手を離せ!!」
乱暴に響ちゃんが双葉を私から引き離す。
やっと双葉の手から胸を解放されてホッとする。
いけない、スキンシップが激しいと困るんだ。
「真綾お姉ちゃんも嫌なら断れよ。ここ、街のど真ん中なんだからさ」
「うぅ、ごめんなさい。ぐすんっ、響ちゃんに怒られた」
「こらっ、響。真綾を泣かせるな、このダメ弟!」
「元はと言えばお前がいきなり真綾お姉ちゃんの胸を揉むからだろう。お前にもついてるだろ、自分の胸を揉め!これ以上は僕が許さん!」
響ちゃんが私を双葉から守るようにぎゅっとする。
ふにゃぁ、響ちゃん……まるで騎士のようだ、カッコいいーっ。
「響、アンタってもしかしなくてもバカ?あのね、私が自分の胸を揉んでどうするのよ。私は可愛い女の子の胸がいいの!真綾だってスキンシップくらい許してくれるし。このシスコン弟が久しぶりの親友の対面を邪魔しないでよね、ふんっ」
双葉が長い髪を風になびかせて、びしっと響ちゃんに指を指す。
「次に私の邪魔したら百回殺すわよ!覚悟しなさい」
「うるさい、僕にはお姉ちゃんを守る義務があるんだ。お前も女なら男のひとりでも作ってみろ。うちの姉に手を出すな!」
「……ほぅ、この私に喧嘩を売るつもりなの?斉藤双葉、売られた喧嘩は買うわよ。私の夢は美少女のハーレムを作る事なの。その壮大な計画の邪魔はさせないわ」
双葉はそんなことを堂々と宣言する。
そうなのです。
双葉は可愛い女の子なのに女の子が好きなんだ。
私以上に長い髪は腰まであるし、さらさらで綺麗な黒髪。
身長は女の子にしては高くて、160センチ後半、スタイルもよくてモデルみたい。
さらに彼女は有名な食品メーカーの社長のご令嬢、お金持ちのお嬢様なんだ。
「まぁ、いいわ。こんな暑い場所で騒いでもしょうがないし。ほら、真綾は車に乗って。……響は歩いて帰れ。アンタを乗せるスペースはないわ」
「だ、ダメだよぅ。響ちゃんを置いていっちゃダメ。双葉、意地悪しないで」
「うっ……真綾の潤んだその瞳が可愛すぎて私をおかしくするのよ。しょうがないわね、響、隅っこの方に座ってなさい。体育座りでなら許可するわ」
「……誰が車の中でそんなことするか」
意外というか、響ちゃんと双葉は昔から仲が悪い。
どうしてなのか、顔を見合すたびに喧嘩してる。
あっ、でも、喧嘩するほど仲がいいって言うし……言うのかなぁ?
「ホント、この車は中が広いね……冷房も効いて涼しい」
リムジンの中はくつろげるように大きなスペースが取られている。
何度か乗せてもらってるけど、いつも感心するんだ。
「真綾、喉が渇いてない?冷蔵庫開けて、何か飲む?あ、それより昼食は食べた?」
「まだだよ、帰ってから食べようと思って」
「それじゃ、私の行きつけの店に行かない?私もお昼はまだなんだ」
「うんっ。双葉と食事するのも楽しいから好き」
双葉は運転手に場所を告げると、向きを変えて車は走り出す。
「……それにしても、普段に会えないって言うのは寂しいわよね。私も真綾と同じ学校にすればよかった。でも、うちの親が許してくれなくて」
「双葉が通うのは有名なお嬢様学校じゃない」
「そう、女の子にモテるのは楽しいからいいんだけど。それでも、たまに品のない子もいるし。お嬢様学校なんて言うけど、女ばかりだといろいろとねぇ」
苦笑する双葉、彼女も大変みたい。
定期的に彼女と電話しているけど、実際に会わないと分からない事もあるし。
私も幼馴染である双葉と離れるのは寂しいから。
「はっ……大体、男じゃなくて女にモテるのを喜ぶのはおかしいだろ」
「何か言った、仮面ライ●ー響●。太鼓でも叩いてみる?」
「仮面ラ●ダーってその呼び名はやめろ!ていうか、“響”はそういう意味じゃない。僕をその名で呼ぶな。この百合女、いい加減にしておけよ」
「むっ、百合って私は別に純粋に女の子が好きなだけだし。私の趣味を馬鹿にするつもり?この幼女好き……あっと、このネタは真綾の前じゃ言えないわ」
意味深に彼女はそう言葉を区切る。
双葉の意地悪な視線に響ちゃんはたじろいだ。
にゃ~、幼女趣味って何なの?
「なっ!?人のことを勝手に妙な属性をつけるんじゃない」
「……どうかしら?私、知ってるんだから。アンタのいけない趣味を、ふふふっ」
「ふぇ……?あの、幼女趣味って何?響ちゃんは幼女趣味?」
私の問いに響ちゃんは焦りを見せながら、まくし立てるように言葉を放つ。
「ち、違うから、僕はそんな趣味ないから。真綾お姉ちゃんは知らなくていいんだよ。ね?」
「でも、気になるよぅ。私の知らない事だから……」
「教えてあげるわ、真綾。幼女趣味って言うのは……きゃんっ!」
「お姉ちゃんに妙な事を教えるなって言ってるだろ。双葉、これ以上はマジで怒るぞ」
普段は女の子に優しい響ちゃんも双葉相手になると子供みたいにムキになる。
昔からそうなんだけど、お姉ちゃんはいろんな意味で心配です。
「この……私の髪を引っ張るなんて。ホント、アンタは可愛くないわね」
「僕はお前に気に入られても意味ない」
「……大体、アンタは私より1歳年下でしょ。もう少し敬意を払うくらいしなさい」
「僕にだって敬意を払う相手を選ぶ権利はあるだろう」
険悪な雰囲気にふたりの視線がバチバチと火花を散らす。
はぅ、どうしてこの二人は仲良く出来ないのかな。
車が目的地に到着し、双葉が連れてきてくれたのはお洒落な洋食屋だった。
繁華街から少しだけ離れた場所に建ってる雰囲気のいいお店。
平日のお昼で、人もたくさんいる人気店って言う感じ。
「……何だ、普通の店だな。想像してたのと違う」
「響、うるさい。普通のお店じゃ悪いの?私だっていつも高級料理を食べてるわけじゃないもの。それに真綾はこういう系の方が好きだから連れてきたの。ねぇ、真綾。このお店、先月オープンしたばかりなんだけど、とても料理が美味しいのよ」
「へぇ、こんな所に出来ていたなんて知らなかった。何が美味しいの?」
私たちがテーブルに着くと、双葉はメニューの中から『ハヤシライス』を指差す。
「このハヤシライスはかなり絶品よ。他の高級店にだって負けてないわ」
というわけで、双葉のお奨めのハヤシライスを食べて私達は食事を満喫した。
双葉の言う通り、とても肉の味が濃厚で、美味しかった。
値段も手頃だし、味もいいので流行る理由も頷ける。
やっぱり、双葉は色んな美味しい食べ物を知ってるね。
子供の頃から実家が食品メーカーだからか食べ物だけは詳しかったもん。
私も何かひとつくらいは人に負けないものが欲しいなぁ。
食後は本来の目的通り、私の家まで車で送ってくれる。
だけど……再び車内で、響ちゃんと双葉は火花を散らしていた。
「……ごめん、真綾。今、何て言ったの?」
「だから、初キスは……響ちゃんに奪われちゃった。えへへ」
そうなんだ、数週間前になるけど私と響ちゃんはチューしちゃいました。
……夢にまで初チューの感触は未だに私の唇に残っている。
お姉ちゃんの我がままを聞いてくれた響ちゃんは優しい弟だと思う。
まだ彼には好きな人がいないみたいだから、私にもチャンスありだって。
この夏はそのチャンスを活かして頑張りたい。
私の告白に双葉は響ちゃんをギロリと蛇のように睨み付けてる。
「……響、私から目を逸らすな。正直に言ってみなさい?」
「まぁ……僕は真綾お姉ちゃんの弟だから?」
「何よ、それ!真綾、ずるい。何でこんな男に?くぅ、やはりアンタは先に抹殺しておくべきだったわね……。いや、今からでも遅くないか」
「ボソッと言うなよ、マジで怖いから」
双葉は私の手を掴むとほんのりと顔を赤らめながら宣言する。
「私、決めたわ。真綾、私の恋人になって!」
「は?双葉、お前は何をバカげた事を言い出すんだ」
「ふざけてない、私は本気よ。響なんかに真綾を任せられないもの」
双葉の告白に私は「うーん」と思案して言う。
「ごめん、無理かも。だって、双葉は私の大事な幼馴染だもん。恋人とは違う気がする」
「……うっ、真面目に返されると傷つくわ。大事な幼馴染に思ってくれるのは嬉しいけどね。真綾……ホントにコイツだけはやめてよ。義理の弟じゃない」
「ふにゃぁ。べ、別に私は響ちゃんのことは……ごにょごにょ」
私が彼に好意を抱いてる事がバレちゃいけない。
こっそりと響ちゃんの顔色を伺うと、双葉に対して呆れている顔をしてる。
「戯言を言って気は済んだか、双葉?」
「くっ、その余裕な顔がムカつくわね。でも、私は諦めない。でないと、真綾が間違っちゃうもの!義弟なんてダメよ、絶対にダメなの。それだけはさせないわ。真綾を幸せにできるのは私よ」
「……お前の方こそ女であるという事を棚に上げてよく言えるな」
「何ですって!やる気か、こらぁ?響の分際でこの私に勝てるとでも?」
そこで再び彼らは言い争いを始めてしまう。
あぅ……どうしたら仲良くしてもらえるのかな。
そんな感じで私達の騒がしい夏休みが始まります。