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僕の姉はブラコンです  作者: 南条仁
僕の姉はブラコンです
12/24

第10話:大好きな姉と共に

【SIDE:久谷響】


 姉離れしようと逆に真綾お姉ちゃんを傷つけてしまう結果になった。

 あの出来事から2週間が経過して、本日は1学期最後の終業式。

 朝から僕は友人の中村と一緒に体育館へと向かっていた。

 

「ついに夏休みだな。響、お前はどうするつもりだ?」

 

「そうだな。僕はバイクの免許が欲しいんだよね。一応、親の許可は出たから教習場に通うつもり。そういう中村は何か予定でもあるのか?」

 

「俺はスキューバダイビングの講習を受けるつもりだ。免許もとって今年の夏の海を満喫してくる」

 

 どうやら、中村の実家は海の近くらしい。

 スキューバダイビングはともかく、海って言うのはいいな。

 今年はどこか友人とでも海へ遊びに行こうか。

 やっぱり、夏といえば海だよな。

 

「……でも、男なら目標ぐらい立てようぜ。彼女を作るとかさ」

 

「中村みたいに僕は積極的になりたいよ」

 

「おっ、珍しいな。響が恋愛に興味を持つなんて」

 

「僕にもそう言う興味はあるし。それに……」

 

 僕は真綾お姉ちゃんの顔を思い浮かべてしまう。

 あの事件以来、僕らは再び仲直りして姉弟としての関係を続けている。

 だが、僕はあの件で真綾お姉ちゃんに恋している事に気づいてしまったのだ。

 『僕は義姉に恋してる』、その言葉が僕の中を駆け巡り暴れている。

 姉の前に立つだけで緊張してしまったり、姉に抱きつかれて胸でも当たろうものなら……ごにょごにょ。

 と、とにかく、今まで通りで行かないことも多々あるのだ。

 恋愛なんて厄介なもので、意識した途端に全てが上手くいかない。

 

「それに?何だ、響って好きな女でもいるのか?お、もしや地元に恋人でもいるとか?」

 

「そういうんじゃないよ。だけど、恋愛くらいはしておきたいよな。さすがに高校生になって彼女のひとりもできないと何だか寂しいじゃないか」

 

「その意見には同感だ。俺もこの夏は燃えるぜ。夏のビーチと綺麗な水着姿のお姉さんが待っているのだ。男は夏こそ勝負だろ、この夏に俺の青春を賭けてみせる!!」

 

 僕達がそんな話をしていると、相良さんが声をかけてきた。

 

「何を大きな声でバカな事を言ってるの?」

 

「ば、バカな事とは何だ。ふっ、まぁ……相良には無縁そうだよな」

 

「何の話よ?水着のお姉さんの話?」

 

「そっちじゃない。恋の話だよ、ラブ=愛だ!夏は恋の季節なんだ!」

 

 中村、大声で叫ばれるとさすがに恥ずかしいぞ。

 周りの視線を気にせずに物事を言えるのはすごいと思うが。

 

「相良には恋愛の“れ”の字だってないだろ。この間、響と恋人になったとか冗談を噂で流すくらいだしな。あぁ、可哀想な相良。少しだけ同情するよ」

 

 おい、さすがにそれは言い過ぎだろ……。

 

「……へぇ、恋愛は私に関係ないって?よく言うわね」

 

「はっ、何度でも言ってやる。お前なんか……ぎゃふんっ!?」

 

 う、うわぁ……中村が相良さんのビンタを頬に食らって吹き飛んだ。

 

『クリティカルヒット!中村に痛恨のダメージ、効果は抜群だ。中村は倒れた』

 

 RPG風ならそんな感じで、僅かな痙攣を起こして中村は地面に倒れていた。

 そんな彼を見下ろして「……ふふっ」と相良さんは黒い笑顔を浮かべている。

 最近、女の子の笑顔の裏に見え隠れするモノが多くて怖いなぁ。

 マジでおっかない光景を目にしながら、相良さんが僕に微笑む。

 

「ねぇ、響クンも私に恋愛は無縁に思うかな?」

 

「いや、相良さんは綺麗でとても魅力的な女の子だからすぐに恋人だってできるよ」

 

「そう?響クンもそう思う?あはは、ありがとう」

 

 僕はその笑みの圧力に負けてお世辞を並べる。

 実際に彼女はモテる方だ、容姿も良いから人気だってある。

 ただ……すぐに手が出るところさえなければだけど。

 

「中村クン。もう1度聞くわ。私に恋愛は似合わない?」

 

「いえ、恋愛は相良様にとてもお似合いだと思いますわ、おほほ……」

 

 中村が壊れたらしい、ていうかその言葉遣いは普通に気持ち悪いし。

 

「こんなの放っておいて行きましょう」

 

 僕と相良さんは哀れな中村を見捨てて、体育館に行く。

 これから体育館では全校集会がある、それさえ終われば夏休みだ。

 

「響クンはお姉さんと一緒に帰省するんでしょう。向こうに行ったらふたりっきりじゃない。この夏は頑張ってみたらどう?」

 

「……うん。そうするよ」

 

 相良さんにはあの件の後でお姉ちゃんの事を相談した。

 姉に恋心を抱く弟、いわゆる禁断の愛って奴だし(僕らは義理の姉弟だけど)。

 恥ずかしいけれど僕一人ではどうすればいいか分からない問題だったから……。

 相良さんはそんな僕の相談に対して、「好きならいいじゃない」と言ってくれた。

 好きなものは好きだからしょうがない。

 恋とは理性や思考でするものではなく、本能でするものだ、と。

 体育館には既に多くの生徒が集まっている。

 しばらくすると、校長先生の長い上に良い事を言ってるフリをして、今さら高校生にいう事でもないようなお話を聞かされる。

 その後は生徒会からの恒例の挨拶だ。

 普段なら生徒会長の男の人が出てくるのに、今日は真綾お姉ちゃんが壇上にあがった。

 彼女の登場に体育館の雰囲気が明るくなる、相変わらずの人気ぶりだ。

 

「おはようございます、生徒会、副会長の久谷真綾です。生徒会長の鈴木さんが夏風邪で喉を痛めて、声が出せないので、代わりに私が代読させてもらいますね」

 

 真綾お姉ちゃんは後ろでマスクをしている生徒会長の代わりに文章を読み始めた。

 

「まず、生徒会から夏休みにおける学生としての過ごし方を……」

 

 お姉ちゃんが話をしているのを皆は黙って聞いている。

 普段なら横と話をしている連中のなのに……さすがうちのお姉ちゃん。

 それにしても澄んだ声だ、人を穏やかにさせる声の力を持っている。

 

『響ちゃん、大好きっ♪』

 

 うっ、ダメだ、お姉ちゃんの事を考えると……。

 僕は頭を横に振って雑念を消す、このままじゃいけない。

 最近の僕はすぐに真綾お姉ちゃんの事を考えてしまう。

 これが恋なのか、ラブってこういう気持ちなのか。

 

『恋愛する人間の気持ちなんて分からない。あんなのがどこかいいんだ?』

 

 散々、恋愛ドラマとかをバカにしてきた自分だけに、実際、恋していると気づいた事がショックだ。

 しかも、相手は幼い頃から憧れてきた相手だぞ。

 それでも、僕は壇上で皆に話す彼女を見つめながら思う。

 真綾お姉ちゃんも僕と同じ気持ちでいてくれたらどんなにいいか。

 僕らは恋人になんてなれない、それは理解している。

 義理とはいえ姉弟だから、例え、恋人になれても周囲の反応が冷たいだろう。

 世間が僕らを認めない、現実的に難しいのは理解できる。

 だが、それでも恋人になりたいと強く思ってしまうんだ。

 僕が僕じゃいられなくなる……恋とはホントに人間を変える力があるのだろうか。

 “気持ち”や“想い”なんて信じていなかった。

 他人なんてどうだっていい、そう子供時代に思っていたのに。

 やはり、僕を変えたのは真綾お姉ちゃんだった。

 この想い、どうすればいいんだ。

 

「……告白なんてできるわけがない。でも、この夏は……何かを変えたい」

 

 真綾お姉ちゃんを眺めながら、僕は独り言として呟いた。

 恋愛は面倒で、大変なのに……でも、なぜか心がとても温かくなるんだ。

 

 

 

 

 数日後、僕らは地元の駅にいた。

 帰省のために寮を出て、電車に乗って2時間程度。

 GWには戻らなかったから、大体3ヶ月ぶりに地元に帰ってくる。

 たった数ヶ月離れていただけなのに、でも、どこか懐かしいような感じだ。

 

「待って、響ちゃん。……ふぅ、荷物が重いよぅ」

 

 お姉ちゃんが大きな鞄を持って身体をふらつかせる。

 

「だから、僕が持つって言ったのに。ほら、貸して」

 

「でも、響ちゃんは自分の荷物があるじゃない。お姉ちゃんとして弟に大変な思いをさせたくないの。私だってやればできるんだから……あっ」

 

 僕は有無を言わさず、真綾お姉ちゃんから荷物を奪う。

 

「そんな事を気にしないで、自分の心配した方がいいよ。真綾お姉ちゃんはただでさえ、何もない所でこけたりするのに。怪我しないうちに僕に任せて、真綾お姉ちゃん」

 

「ふにゃぁ。響ちゃん、こんな所で言わないでぇ。恥ずかしいじゃない」

 

 顔を赤らめる彼女、ピュアっていうか純粋な意味で可愛いな。

 僕は彼女の荷物を持つ、女の子にしては重い荷物も男では大したことはない。

 両腕に荷物を抱えながら、僕らは駅のゲートを抜けた。

 僕らの実家のある街は田舎でもない地方都市のひとつだ。

 中心街には高いビルも並んで立っているけれど、郊外には自然も多く残っている。

 

「さぁて、ここからどうするかな……」

 

 両親は今日は都合が悪くて迎えにこれない。

 何でも叔母が食中毒で入院したらしく母さんが朝から車でお見舞いに行ってるらしい。

 自動車ならともかく、ここから歩くと家まで30分以上かかるしな。

 

「母さんはタクシーを使えって言ってたから、そうしようか?」

 

「あ、それなんだけど、さっき友達が迎えに来てくれるって……」

 

「友達?真綾お姉ちゃんの友達って……まさかッ!?」

 

 僕は嫌な予感がした、あぁ、とんでもなく嫌な予感がしたんだ。

 “あの人”はダメだ、超がつくくらいに危険すぎる。

 なぜかって?

 だって、あの人は昔から真綾お姉ちゃんに好意を抱き、“狙っている”人間だから。

 

「ほら、来てくれたみたいだよ」

 

 僕の心配をよそに真綾お姉ちゃんが指差す方向から車が勢いよくやってくる。

 縦長の黒い高級リムジン、いわゆる“金持ち”の象徴的な高級車が僕らの前に止まる。

 ゆっくりと運転手が扉を開けて、出てきた人は真綾お姉ちゃんに優しく笑う。

 

「――久しぶりだね、真綾。貴方の帰りを待っていたよ」

 

 そういや、実家に帰ればこの人がいたんだった。

 僕はすっかりと忘れていた。

 真綾お姉ちゃんの幼馴染、斉藤双葉(さいとう ふたば)の存在を……。

 

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