第3話 第3階層
さて。あの雫のいるパーティー《蒼炎の弾》は俺をどう評価するだろう。
こうしてギルドの一角に位置する休憩所の長椅子に座って時を待つ。
しばらくして時間になり、俺はそわそわとした様子で周囲を見渡す。
まるで告白のために校舎裏に呼び出されたみたいな感覚だ。
初恋もまだ知らないというのに。
ドキドキしながら待っていると、雫たちがギルドの扉を開く。
「あ。アエルさん。すみません、お待たせして」
「いいんだ。単刀直入だが、答えを聞かせてもらってもいいか?」
一瞬しか魔法が使えない俺だが、雫たちはどう受け止めたのだろう。
「ええと。結論から言います」
ごくりと生唾を飲み下す。
「わたしたちのパーティーに加わってください!」
「本当か!?」
「はい。本当です!」
「ありがとう。実言うと昨日から何も食べていないんだよ~」
俺はみっともない姿を見せているが、本当にそうなのだから仕方ない。
「そ、そう。なら少し食べていく? 依頼はシーシに任せて」
リリィは男前なことを言う。
「シーシ。お願いできる?」
「……うん」
「これからよろしくな。みんな」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
俺は雫のおごりでビィフィの唐揚げを頂く。
「しかし、キミは想定外のことをするね」
「何がだ?」
「キミの魔法だよ」
リリィと雫は苦笑する。
「反対意見はあっただろ?」
「そうですね。一瞬しか魔法を発動できない。その欠点を補って余りある能力に気がつかなければわたしたちはあなたを加えることはなかったでしょう」
「ああ。キミの付与・補助魔法あれは通常なら数倍の能力を引き上げるのに対し、アエルは数万倍に引き上げていたからね」
付与・補助される側がその力をうまくコントロールできないまである。
「俺の力じゃこれが限界だった。本来付与補助魔法師はその時間の長さで競うものだ」
「そう。普通なら三分、五分持たせるのが付与補助魔法師の地位をわける」
「でもアエルさんは違いました。確かに連携をとるにはあまりある力です。最初のうちは強化された肉体や武器に振り回されるでしょう」
慣れるまでは自身の力を何万倍にした肉体や武器に振り回されるだろう。
例えば脚力が何万倍になった場合、そのスピードをコントロールできずに壁にぶつかることだってある。
「最初のうちは連携も含め安心安全な低階層で挑むべきだな」
「それはこちらも考えていました。あと事務処理もよろしくお願いします♡」
甘ったるい声で言う雫。
「あー。はい……」
どっちも任されるとは想わなかったな……。
せめて戦闘要員として扱ってくれればいいものを。
「大丈夫です。給金ははずみます」
「それならいいが……」
▽▼▽
「さて。依頼内容は?」
「……ん」
シーシが張り紙を手にしている。
「なるほど。バーバリアの5体討伐か。ダンジョン5階層」
俺は重要な情報を抜き取る。
「いいな。でも、連携確認にはちょっと早くないかい?」
リリィが苦い顔をしている。
「あら。そんなに不安ですか? 鉄血の蛇楼さま?」
お。雫が煽るようなことを言うのは珍しいな。
「む。確かに私たちはすでに20階層までたどりついたわ。でもアエルの身を守りながらって大変でしょう?」
「それだが、自分の身は自分で守る」
「…………え?」
さすがの雫でも看過できないのか、呆けた顔をしている。
「いやいや。何を言っているのですか。アエルさん。魔術師に接近戦なんてできないでしょう?」
「錫杖を使った打撃戦ならできるぞ?」
試しに錫杖を回して、突きをしてみせる。
「いいだろう。任せてみよう。雫ちゃん」
リリィは賛成のようだ。
真っ先に目の色を変えた。
「で、でも……」
なおも食い下がろうとする雫の袖を引くシーシ。
「(こくこく)」
「シーシまで……。分かりました。任せます。ただ危険と判断すればそく撤退です」
「了解。リーダー様」
俺がおちゃらけて言うと、雫は恥ずかしいのか顔を赤くして口を開く。
「そ、そのリーダーというのはちょっと……」
そういうことね。理解したわ。
「分かった。リーダー」
「だから!」
ぷんすかと怒り出す雫。
柔からかい手でボスボスと俺を叩いてくる。
これはからかいすぎたか。
「ごめんよ。雫」
「もう。もう!!」
顔が崩壊しそうなくらい恥じらっている。
そんな姿も可愛らしい。
まあ、そんなこと言えば羞恥心で雫は爆発するかもしれない。
ここは心の中だけでとどめておくか。
▽▼▽
第3階層にたどりつくと、周囲を警戒する。
ここにいる鎧マウスは身体を薄い膜で覆われており、防御力がある。
とはいえ、かじりつかれなければ大きな怪我をすることもないだろう。
鎧マウスの攻撃はその鋭利な歯での攻撃。爪は退化しているし、体格差もある。
ただ素早いので、注意が必要といったところか。
俺は後方を警戒していると、前に現れた鎧マウスはリリィが対応する。
雫はパーティー全体の把握。
シーシは後方から魔術をぶっ放している。
なるほど。確かに腕はたつようだ。
ただ雫は接近戦も出来る上、後方にも回れる。
そんな中、指揮官としているのが危ういといったところか。
鎧マウスは後方からも攻めてきた。
俺は錫杖を手にして前に出る。
「雫。挟撃された。対応を頼む」
地を蹴り、鎧マウスに肉迫する。
錫杖で叩き殴り、そのコアを破砕する。
ついで横からとんできた鎧マウスを横から叩きつける。
「わ、わたしが後方をやります! アエルさんは……」
雫が司令を出す前に後方から攻めてきた鎧マウスは全て撃破した。
もともと鎧マウスは単独行動をとるタイプだ。
数匹一緒に現れたのは偶然にすぎない。
「こっちも終わったよ、雫ちゃん」
「(こくこく)」
リリィとシーシも落ち着いたようで、こちらを眺めている。
「うん。もう一階層降りましょう」
目的地は5階層のバーバリア討伐。
「ああ。こんなところで道草食っている場合じゃない。そろそろ昼だしな」
ダンジョンには光が届かない。
持っている魔石ライトであたりを照らすしかない。
だから時間の間隔は薄れる。
とはいえ腹の虫はなるし、巻き時計の時間も昼を示している。
「そうね。お腹空いてきた」
「少し警戒しつつ交代でお昼にしましょう。シーシも、いい?」
「(こくこく)」
頷きで返すシーシ。
ジャンケンで先に食事をする者と警戒する者をわける。
俺は先に食事だ。
同じくシーシが食事だが、この子とあんまり話したことないな。
「シーシは何を食べる?」
シーシの持ってきた荷物にバスケットがあった。
その中にはシーシ手作りの数種類のサンドイッチが入っている。
「あっ……」
シーシはレタスのサンドイッチを手にする。
「それが好きなんだな。俺はこの肉のやつにするよ」
「(こくこく)」
本当におとなしい子だ。
しかし、さっきの戦闘を見ていると、かなりの能力値だ。
攻撃魔術師としてはかなりの腕前だ。
詠唱はしていたし、現出まで時間はそこそこだが、破壊力はすさまじいものだった。
加えて発射後の早さは異常だった。
喩えるなら、雷のようだった。
さすが雷撃の魔女。
「シーシはどこで魔法をならったんだ?」
「っ……!」
何かを言おうとしているが、慌てふためくだけで声を発しない。
「いや、無理ならいいんだ。俺も深入りしてすまんかった」
「(ふるふる)」
小さく首をふるシーシ。
その姿も可愛らしいものだ。
小動物染みている。
一足先に食事を終えると、俺は雫と交代する。
錫杖を片手に、周囲に魔力の糸を巡らせる。
「何しているのさ?」
リリィは俺のしていることに気がついたのか、怪訝な顔をしている。
「何、って? 警戒だろ?」
「え……?」
「えっ?」
なに、この空気。




