第2話 ヒロインズ
「アエル。ミリヤも聞きたかったな……」
「うまくいけば話すよ」
これで失敗すれば、周りが失望するだけだろう。
今はまだ報告できるほど、内容が固まっていない。
武器屋のおっちゃんも、どうしたらいいか、手をこまねいているだろう。
あの武器はかなり特殊すぎる。
しかしそれまではどうすればいいか。
用事も済ませたし、日銭でも稼ぐか。
俺は武器屋を出るために扉を開ける。
そこには人影が一つ。
「オタクも、この武器屋に用事だったのかい?」
ボーイッシュな女の子が一人、目の前に立っていた。
白いベリーショートヘアで長身。おそらく俺よりも高い。
ヒールを履いており、青いジャケットに、黒のシャツ。白のパンツスタイルだ。
顔はかなり整っており、男の子と言われても勘違いしそうになる。
勘違いしないで済んだのは、女の子の周りにまとわりつく魔力、アストラル体が女の子の色をしているからだ。
「ああ。ここはいい武器屋だからな」
「それを知っている人間が少なくてね」
苦笑を返す少女。
「俺はアエル。キミは?」
「リリィ。よろしく」
そう言ってリリィは俺の肩を叩き、店内に入る。
「よろしく」
俺の声は聞こえていたのかは分からないが、人の良さそうな人ではあった。
とりあえずギルドでドブさらいの仕事でも受けようか。
それなら日銭は稼げる。
まるで冒険者初日を思い出すような仕事だが、いいだろう。
ギルドに向かって歩き出すと、腹の音が鳴る。
「腹減った。とりあえずもやし生活かな……」
あとはパン屋にいってパンの耳をもらうか。
武器屋でだいぶお金を消費したからな。
前払いとはいえ、かなりかかった。
思案していると、いつの間にかギルドにたどりついていた。
俺はギルドの門をくぐる。
いつになく人気のない様子。
まあ、珍しくはないが。
俺は壁に掛かっている依頼書を見る。
「あの~……」
女子から声がかかる。
「ん? なんだ?」
「アエルさんですよね?」
「ああ。そうだが」
見やると、巫女服で腰に太刀を携えた女の子が一人。
顔はあどけなさの残った童顔。
つややかな黒髪が腰まで伸びており、前髪はパッツン。
水色の瞳は不安と期待で揺れている。
金色の髪飾りが彼女の妖艶さを引き出している。
胸も大きめでロリ巨乳らしい。
桜色の形の良い唇が震える。
「アエルさん、なら、……わたしのパーティーに同行して頂けないでしょうか?」
「ほう……」
今俺に必要な仲間が手に入る。
これはチャンスだ。
この機会を逃せば俺は餓死してしまう。
「いいよ。でもなんで俺?」
「アエルさんは最強の付与補助魔術師ですので」
その噂まだ広まっていたんだ。
「それにSSSランクの、伝説級のパーティーエビデンスの杜の一人ではないですか。元がつくらしいですが……」
それが不安要素か。
「最初は簡単な依頼にしよう。それで俺の力量を見計らってくれ。それと、連携も確認しておきたい」
「そ、それなら安心ですね! あっ! わたし、雫って言います。極東の巫女武士です。よろしくお願いします」
「巫女武士?」
「ええ。巫女のように神の恩恵を承った上に、剣術のできる武士というわけです!」
えっへんと大きな胸を張る雫。
「ですので、前衛も後衛もできます!」
「すごいな。そりゃ!」
「他のパーティも呼んできますね。あちらの席で待っていてください」
俺は言われた通りにベンチに腰をかける。
数分後、俺の目の前には雫の他に、リリィと桃色の髪をした少女が立っていた。
「あら。アエルくん、よろしくね。私は剣士さ」
リリィは知った顔でにこやかに微笑む。
その隣で桃色の髪をした少女が小さく声を上げる。
「よ、よろしく……」
引っ込み思案なのか、雫の後ろに隠れている。
そのせいでよく見えない。
「こら。シーシ」
「うち、シーシ。よろ、しく……」
シーシはしゃべるのがやっとなのか、顔を赤くしてよく見えない。
「シーシは魔法使いだよ。彼女は天才肌さ」
リリィがシーシを前に出す。
そばかすに亜麻色の長い髪。前髪も長く、瞳を隠している。
ゆったりとしたローブに身を包んでおり、手には大きな錫杖をかかげている。
「シーシ、よろしくな」
「う、うん……」
「じゃあ、依頼はモッピルの討伐でいいか?」
「第3階層ですね。いいと想います」
雫がリーダーらしく、頷いてみせる。
▽▼▽
第2階層までは弱い魔物が多く、一般人でも観光ができるほどだ。
とはいえ、たまに遭難者が現れるが。
今居る第3階層はモッピルという魔物が現れる。
モッフの親玉みたいな見た目をしており、その四肢から繰り出される攻撃は人を傷つける。とはいえ、大きさは太ももほどの背丈。
それほど脅威ではないが、俺にとってはその方が嬉しい。
「じゃあ、まず付与魔法を使ってみる。リリィ、前衛頼む」
「あら、よっと!」
剣を引き抜き、モッピルに向かっていく。
「なんだ? あの剣……」
剣というわりには刃に幾重にも亀裂が入っている。
「あれは蛇腹剣『サミダレ』」
「蛇腹? なんだそりゃ?」
確かに蛇の腹のような造りをしている。
「剣が伸びるんです」
「伸びる……」
リリィは剣を振り回し、モッピルの後方へと切っ先を伸ばす。
伸びた剣はまるで蛇のよう。
「付与魔法は!?」
「そのままだ!」
リリィが心配そうに声をかけてきた。
俺は突き刺さるその瞬間まで付与魔法をかけない。
リリィがそのまま剣を突き立てると、いよいよ俺の出番だ。
「付与魔法。発動」
あえて口にする。
無詠唱魔法など造作も無いが、仲間にタイミングを教えるためにたまに口にするのだ。
『漆黒の堕天使』
付与魔法をかけると、リリィの蛇腹剣は淡く光り、モッピルの背中をいともたやすく切り裂く。
血しぶきの代わりに、黒いもやを発生させる魔物。
切り裂かれたモッピルは、ぼふっと黒い霧になり霧散する。
「こんなもんだ」
「呆れた。魔法が一瞬しかもたないなんて……」
「そうなんだ。見てもらって分かるだろうけど、俺は能力値低いんだ」
「でも……」
リリィが何かを言いかけてとどまる。
「大丈夫です。今はそれだけで」
雫はにこりと笑みを浮かべている。
「じゃあ、次は補助魔法を使うか」
歩いているとまたもやモッピルと遭遇する。
あいつには申し訳ないが、俺の補助魔法の試用になってもらう。
雫が前に出ると太刀を構える。
「走れ!」
俺の指示に驚いたのか、こちらを振り向く雫。
「いいから」
「は、はい!」
雫が地を蹴る瞬間を狙い、俺は補助魔法をかける。
と、雫の足は何百倍にも加速する。
びゅんっと音が鳴りそうな早さで、モッピルのいる場所とは全く別のところに移動していた。
「へ?」
自分の加速に驚いたのか、雫は困惑している。
「ええと。次は腕の補助をお願いします」
雫がそう言うと、俺は魔法をかけるタイミングを見計らう。
ギリギリまで引きつけたところで、俺は補助魔法を発動する。
腕の筋肉が一時的に増幅され、モッピルの身体を易々と切り裂く。
「は?」
雫らしからぬ呆けた声があがる。
「なに、あれ?」
隣で見守っていたリリィすらも困惑している。
シーシは何かを知ったようにおとがいに手を当てて思案している。
自分の膂力に振り回された雫はその場で一回転する。
あれで力を逃がしたらしいが、並の人間なら補助に耐えきれずに骨折していただろう。
微調整しないといけないか。
これは俺の課題だな。
「すまん。やりすぎた」
「い、いえ。あなたの実力はよく分かりました。一度パーティー内で話し合いたいので、今日はこのあたりで」
「すまんな。優秀でなくて」
「い、いえ。そういう訳では……」
「あ。そうだ!」
俺は声を上げる。
「事務作業でも引き受けるぜ♡」




