第1話 始まり。
「アエル。キミをこのエビデンスの杜から除名する」
「な、何を言っているんだ? ダウス」
ダウスと呼んだ男は俺を見て悲しそうな顔をしている。
金髪碧眼。
蒼と銀の鎧で身を包んだ端正な顔立ちの青年。
今はつけていないが、大剣と大盾使いの、勇者候補生だ。
長年苦楽をともにしてきた仲間だ。
「あんたまだ分からないの? アエルは実力不足だって! 追放追放!!」
「ああ。お前がこの先死んでしまうかもしれない。それを危惧してダウスは除名を通達している」
メリーとガンまでそんなことを言い始める。
「そんな。何かの冗談だろ? ダウス」
そんないきなり言われるのはおかしい。
どこか変だ。
俺はちゃんとこのパーティーで……、
『あんた。なんで一瞬しか補助魔法を使えないのよ!』
『付与魔法は長いほど、優秀と言われているんだぞ?』
ああ。思い当たる節があったわ。
「で、でも、俺ら幼馴染みだろう? 事務でもやるからさ」
「食い下がるなよ」
「あんた実力不足だって、言われているの、分からない?」
メリーはケラケラと愉しそうに笑う。
「とにかく。この件に関しては皆の同意を得てのものだ。少し気を抜くといい。一年分の家賃は支払っている。ゆっくり休め、アエル」
「そ、そんな……」
こうして俺はなんの言い訳もできずに一方的に除名をされた。
ダウスを守ると誓った仲なのに……。
兄弟のように育ったというのに。
▽▼▽
「はー。どうして生きていこう」
家賃の心配は当面ない。
小遣いだってある。
ただいずれにせよ、仕事を見つけなくては生活がままならない。
だが俺は付与補助魔法師だ。
長ったらしい職名だが、剣や弓などに付与する魔法と身体を強化する補助魔法の二刀流だ。
この地域では二刀流は珍しいが、俺は一瞬しか付与も補助もできない。
それが原因で俺は追放されたのだろう。
普通は二つの職を持っていないから、それにあぐらを掻いていたのもある。
だからって通告なし、すぐ追放ってありえるのか……。
「あー。死にたい」
「死にたい? なら死ぬ気で頑張れよ!」
いつもの酒場の主人はがははははと豪快に笑い、俺の頭を叩く。
「あー。まあ……」
これが主人なりの気遣いってことはよく分かる。
しかしまあ、俺がなんでこんな目に……。
またもやため息が漏れる。
「一人じゃ、冒険者としては戦えないぞ……」
「じゃあ、剣でも振ればいいじゃないか!」
「主人。それは無理があるって」
「なんで?」
料理しか学ばなかったバカは事を知らないらしい。
「普通、剣術を学ぶには数年の単位で学ぶものだ。剣を握る筋力だって、俺にはない」
数年なら技術としてはまだマシだが、食い扶持を考えると、どう考えても生きていけない。
「それに数年でようやく初心者だ。数十年学ばないと、剣士とは呼べない」
「だが、ダガーとか、短剣なら筋力はすぐだろ?」
「肝心の剣術がないからな」
俺はずっと魔術師として生きてきた。
今更、杖以外のものを振れる気がしない。
「……そうか! 杖があるじゃないか!」
「え。なんて?」
主人はいきなり復活した俺を見て若干引き気味である。
▽▼▽
ダンジョン。
それは魔物を生み出す生き物と言われている。
魔物はダンジョンから溢れ出てくるものだから、それを駆除する冒険者は重宝されている。
しかし、ダンジョンは奥までいくのに、数日かかる。
何階層かに別れていて、階層が深いほど危険な魔物が出てくる。
今まで踏破されたダンジョンは67階層まで。
それも100年以上前の話だ。
新米冒険者は5階層で死亡率がぐんっと上がる。
俺の所属していたエビデンスの杜は50階層まで降りた伝説級のパーティだ。
魔物が落とす魔石と、マッピングなどの情報料で冒険者は稼ぎを得ている。
命がけの職業だというのに、稼ぎは少ない。
だが一攫千金を狙えるほどのパーティーもある。
曰く一生遊んでくらせると。
そんな夢みたいな話があるのだ。
加えて花形のイメージも強い。
魔石は火起こしや水質浄化、灯りなど、多方面で有機的なエネルギー原として重宝されている。
その魔石を回収するためにも、俺たち冒険者は活躍している。
自己犠牲論がなければ、みんな冒険者に貢ぐだろうに。俺の持論だが。
そして俺は今、ダンジョンの1階層にいる。
ここで俺は試してみたいことがある。
1階層に出る魔物はモッフ。
綿毛で覆われた身体は丸く、弱々しい。
魔物の中でも最弱クラスで、防御力が少々あるのと、草を食べ散らかすのが厄介な農家泣かせの魔物だ。
こいつで試させてもらう。
俺は錫杖を手にして、モッフに挑む。
錫杖を回し、回転力を力に変えて、モッフを殴る。
膂力だけでモッフは弾き飛ばされ、壁にぶつかり何度か跳躍する。
返ってきたモッフは俺の顔面にぶつかる。
こりゃ課題がまだありそうだ。
俺はそのまま、拳でモッフの身体を打ち抜く。
黒煙のように霧散していくモッフ。
「マジか……一応戦えたものの……」
他の者は錫杖で戦うことはない。
武器の使い方はある程度決まっている。
槍や剣、太刀は切るために。ハンマーや大剣は殴るためにある。
同じように錫杖は魔法を使うためにあるのだ。
だから俺のように《棒術》という新しいジャンルを切り開いたのだろう。
錫杖は通常、魔力を底上げするための魔石が使用されている。
その魔石はもろく、壊れやすい。
武器として使うにはあまりにも非力だ。
「まだ課題があるか……」
錫杖の魔石にひびが入っている。
この魔石がなくなると、魔法師は何もできなくなる。
それほどまでに魔石は魔術師の魔力を底上げしてくれる。
魔法は魔石がなければ発動しない、というのは魔法師学会では常識とされている。
ダンジョンから無事帰ってきた俺は武器屋に行く。
「よぉ! アエルじゃないか!」
気のよさそうなおっちゃんが迎えてくれる。
「おっちゃん。ちょっと相談がある」
「おう。なんだ? お前さんの頼みとありゃオレは手伝うぜ?」
「パパ、アエルきたの?」
おっちゃんの後ろに隠れて現れる十六くらいの女の子。
「ミリヤ。どうした?」
「ううん。アエルと会うのが楽しみだったなんてこれっぽちも想っていないだからね!」
通常営業で安心した。
ミリヤはいつもこんな調子だ。
けっこう暴言も吐くけど、その表情と甘えた声から本心は分かる。
「こらミリヤ。出てきちゃ駄目だろ」
おっちゃんはミリヤを箱入り娘で育てているからな。
「言ったろ? なんでも経験だ。ミリヤにも接客させてみろ」
「お前さんのアドバイスとなると、引けないな……」
おっちゃんは苦笑を浮かべている。
「それよりも、なんだ? 相談って」
「ここだけの話だぞ? 他に漏らすな」
ジト目をミリヤに向ける。
ミリヤは自分の薄い胸をトンと叩き、自慢げな顔をしている。
「大丈夫。ミリヤも他人に話したりしないわ!」
ミリヤはけっこう自爆するパターンが多いから信用できないのだが……。
「ミリヤ、お前さんの作ったフライパン、アエルに見せるって言ったろ?」
「そうだった! とってくる!」
ミリヤが奥に走っていくと、おっちゃんは耳を立てる。
なるほど。
良い手だ。
さすがミリヤのお父さん。
「じゃあ、俺の相談は……」
俺はおっちゃんに今回のことを告げる。
そして、今後のことも。
新しい武器の制作を依頼するなど、このジーク王都のここでしかお願いできないだろう。
昔からの堅物ではあるが、懐に入ってしまえば武器はいいものが入る。
まあ、値段も法外ではあるが。
武器術士一級は舐めてはいけない。
そのことも含め、おっちゃんを信頼している。




