表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される  作者: アルケミスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/65

64

「ふふ、お前たちにも見えるわね?

 そう私が調整したのだから」


 勝ち誇ったように黎己が言う。


「この糸の先はここにいる衛士や娘たちだけではない。

 瑞鳳宮中の女の首にからみついているわ。

 全部綺麗に落としてあげようかしら?

 男どもから見ればとるにたらない女の首かもしれないけれど、その家族は悲しみ恨むでしょうねえ。

 見殺しにした新皇帝を」


 黎己がくっくっ、と肩をふるわせて笑う。


 一人では死なない。


 周りの皆を道連れにしてやる。


 そんな自暴自棄な気配を感じた。


「私たちだけがまた捨てられるのは嫌。

 どうしてここで折れなくてはいけないの?」


 黎己の心が悲鳴をあげているのが聞こえるような、きしんだ声だった。


 そして彼女の激情に呼応するように、陰の気がうごめいた。


 捕らえた獲物たちを締めあげる。


 香凜や衛士たちが首をかきむしり、床に膝をついた。


 苦し気な皆の姿を見ると、朱音まで息ができなくなる。


 なんとか、なんとかできないか。


 このままでは本当に皆、首を落とされてしまう。


 龍仁と部下たちは剣をもっている。


 だが陰の気でできた糸を斬るのは無理だ。


 陽の気を消せるのは陽光だけ。


 相殺できるのは陽の気だけ。


 元を断つしかない。


 黎己が人質の首を刎ねる、その前に彼女をたたく。


 それができるのは、今ここで自分だけだ。


 朱音は覚悟を決めた。


 そして龍仁に言う。


「龍仁様、私の玉をもう一度、受けとってください」


 眼を見開く龍仁に、黎己に聞かれないよう、小声で口早に言う。


「伝承をご存じでしょう?

 花仙を妻とした男は、老いて後、共に仙界へと渡った。

 私は自分のためだけでなく、伴侶となった人のためにも仙界への道を開くことができるんです」


 一人が通る道は狭い。


 だけど二人で通る道ならもう少しだけ広い。


 そして多くの陽の気がこの場に流れ込む。


 糸の中心である皇太后と、玉をにぎる黎己に焦点をあてれば。


 辺りにうごめく陰の気の糸がどれほど多くあろうとも、その元をたどれば皇太后の体に巣くった陰の気の仙にたどりつく。


 すべての糸は彼女から生まれているのだ。


 蜘蛛の巣のように放射線状に伸びた糸がどんなに多くとも、中心をたたけばすべてが切れる。


 仙界への道を開けば、朱音が花仙だとここにいる皆にばれてしまう。


 だがそんなことを言っていられない。


 大勢の命がかかつている。


 朱音は懸命に龍仁に説いた。


 だが龍仁はうなずかなかった。


 それどころか、ぷいと眼を背けてしまう。


「しかたなく結ぶ契りなど、欲しくない」


「なっ、好き嫌いなど言っている場合じゃないでしょう?

 このままだと皆さんが、それに龍仁様だって……!」


「だからといってお前が犠牲になる必要はない」


「え……?」


「手をこまねいて俺を慕う者たちを死なせるなど皇帝失格だ。

 だが俺はお前を守るために皇帝であろうとした。

 ここでお前を犠牲にすれば本末転倒だ。

 この場は俺がなんとかする。

 だからお前はひっこんでいろ」


 乱暴な口調だ。


 今までの朱音なら、引っこんでいろと言われたら、すぐに腹を立てていただろう。


 だが今の朱音なら、彼の言葉の意味をしっかりと汲み取ることができる。


 朱音の頬がこんな時なのに熱くなってくる。


 まじまじと見つめる朱音に、龍仁がはっきりと言った。


「別にお前のためじゃない。

 俺はお前に無理強いしないと自分に誓った。

 俺は俺自身のためにその誓約を破る気はない」


 なんて意地悪で俺様な言葉だろう。


 朱音の唇に笑みが浮かんだ。


 どんな時でも自分を失わない、強くて優しくて意地悪な人。


 朱音の脳裏を、悲恋に終わった花仙の話がちらりとよぎった。


 でももう迷わない。


 心の底からこの人が好きだと思った。


 この人がこの先どんな想いを返してきても、自分は強くあれる。


 この人を選び、愛したのは自分。


 自分で選んだ道だから。


 そう、だから私は……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ