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花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される  作者: アルケミスト


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 広間の扉はすべて閉じられて逃げ場はない。


 朱音は襲いかかる陰の気の糸を、必死に避ける。


 黎己が段上から、朱音を睥睨しながら笑った。


「仙とは気の塊。

 自我を持つ核さえ砕けばただの霞と同じ。

 取りこめば私のもつ陰の気も大きくなる、力も増す。

 おとなしく食われるがいい」


 朱音の四方に黒い糸が礫のように放たれ、床をうがつ。


 糸にふれてしまえば終わりだ。


 巻きつかれ、捕われる。


 またあの強い想いを流しこまれて、心を喰われてしまう。


 朱音は風にのる花弁のように糸を避けて舞う。


 花仙の身軽さに今ほど感謝したことはない。


 黎己はあきらめていないといった。


 それは朱音も同じだ。


 切り札はある。だがこの距離では無理だ。


 もっと近づかないと。


 仙界の道と朱音の直線上に皇太后か黎己を入れないと。


 だが近よれない。


 陽の光を遮断された広間には、夜闇のようにびっしりと黒い糸がはりめぐらされている。


 へたに動けば蜘蛛の巣にかかった蝶のように、朱音もからめとられてしまう。


(な、なんとか扉を開けて……!)


 陰の気は陽光に弱い。


 陽の光を入れられれば。


 朱音の動きに、黎己がいち早く気づく。


「ちっ、 ちょこまかと!

 させないわよ、これでどう!?」


 黎己が今までの倍以上の糸を仙に放たせる。


 駄目、今度は避けられない。


 四方八方から黒い糸が朱音に襲いかかってくる。


 朱音が観念して眼をつむったその時、広間の扉が開け放たれて、頼もしい、それでいて少し焦ったような男の声がかけられた。


「朱音、無事か!?」


「え、龍仁様?」


 陽光にふれた黒い糸が溶ける。


 そして、まばゆい陽光を背に、黄黄を肩にのせた龍仁がいた。


 背後には武装した衛士の集団と、佑鷹がいる。


 朱音の無事を確かめた龍仁が、ほっとしたように眼をなごませる。


 そして再び険しい顔に戻ると、つき従う術士たちに命じた。


「陰の気は陽光に弱い、皆、扉を開けよ!」


 龍仁の衛士たちが、追いすがるように現れた瑞鳳宮の兵士たちを抑えて、扉を次々と開けていく。


 いたるところで小競り合いがおこるが、龍仁配下の衛士たちは負けていない。


 龍仁自身も抜き身の剣を手に、朱音をかばうように踏みこんでくる。


 夜のように暗かった広間に陽の光がなだれこみ、光にふれた糸が縮んで溶けていく。


 そして朱音のもとまでたどり着いた龍仁が、朱音の腕をつかんでひきよせた。


 助かった。


 腕に感じる龍仁の確かな温もりに安心して、朱音は涙がにじみそうになった。


 ところがそんな優しい気持ちになった朱音に、陽光のあたる扉前まで後退しながら、龍仁があきれたように言った。


「お前な、逃がしてやろうと言ったのに、戻ってきてどうする、戻ってきて」


 せっかくの決意をそんなふうに言われて、朱音はむかっとした。


 つい反論しようとしたら、彼がぽんと朱音の頭をたたいた。


「だがよく頑張ったな、褒めてやる」


 ぐりぐりと頭をなでる大きな手と、にやりと笑った龍仁の顔に安心した。


 この場を切り抜けられれば勝てる、と。


 黄黄が呼びにいったくらいで、即、皇帝が兵をつれて瑞鳳宮に踏み込むことなどできない。


 ここは黎己と皇太后の砦なのだから。


 彼は用意していたのだ、あの邸から戻った時点で。


 当然あの後に襲撃があったこと、朱音が姿を消したことも連絡がいっていたのだろう。


 朱音の行動を知りつくしている龍仁は、朱音が後宮に戻ってくると予測をたてた。


 瑞鳳宮に乗りこむ前に強引に止める手もあったが、朱音には皇太后の手の者と、救出にきた龍仁の配下の区別はつかない。


 花仙の力もあるから身を隠してしまう。


 捕まえるのは無理と判断して、ここで合流できるように自分も策を練り、踏み込んだのだ。


 もう公に裁けるだけの皇太后の罪は調べあげているだろう。


 だが処断すれば母を罰した皇帝と悪評がつく。


 だから彼はこの場をおぜん立てした。


 皇太后と黎己が、朱音を前にして人外の素顔をさらけだすように。


 母を斬ることはできないが、皇太后ににとりついた妖怪を倒すのであれば、正義は皇帝にある。


 だから衛士たちという目撃者を多数用意して踏み込んできた。


 人の眼には見えない陰の気だが、さすがにこれだけ濃ければ、ぞくりとする気配は感じる。


 それに黎己は陰の気をつかって朱音に攻撃かけた。


 必死に避ける朱音の衣や床が裂け、燭台が倒れる様は人の眼でも見える。


「佑鷹にお前があの邸から姿を消したことをもらせば、黎己が動くとわかっていたからな。

 道理で皇太后に違和感があるはずだ。

 人ではなかったのだから。

 母を母と思えない自分に人として問題があるのではと悩んでいたが、ほっとした」


 母の心の死を知って衝撃だろうに、龍仁が不敵に言い放つ。


「ええい、佑鷹、何をしているの、その娘を捕らえてこちらにきなさい!」


 形勢が不利になったことを悟った黎己が、声高に命じた。


 だが佑鷹は動かない。


 自分の主君である龍仁を呆然と見つめている。


「……申しわけありません、陛下。

 私はあなた様を裏切りました。

 母に情報を流して……」


「いい、お前が逆らえなかった理由はわかる。

 ……俺のことを聞いたからだろう。

 お前は俺を守るために動いた、そうだな。

 もうそのことはいい。

 お前は俺の意図するままに動いただけだ」


 それ以上しゃべるなと眼で合図して、龍仁が黎己に向きなおる。


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