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花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される  作者: アルケミスト


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「ど、どうして黄黄がっ、龍仁様までどうしてっ」


 うまくまわらない舌で、口ごもりながら言う。


「しかも単身で、お体はっ、危なすぎますっ」


「そう思うならこんなところで勝手に消えそうになったりするな!

 微行の護衛など用意する余裕があったと思うか?

 俺が間にあわなかったらどうする気だった!」


 朱音を抱きしめる龍仁の腕がふるえていた。


「嶺家の父母のことはすまなかった」


 龍仁が謝った。


 あの俺様でいじわるな人が。


「いらぬ注目を浴びてはまずいと配慮したつもりだった。

 お前に黙っていたのは知らせて心細さを感じさせないほうがいいと思ったからだ。

 だが言っておくべきだった。

 まさかお前がここへ来るとは思わなかった。

 後宮の密偵からの報告を誰かがにぎりつぶしていたんだ」


 朱音が消えかけていたのを見たのがよほど衝撃だったのか、すまない、と、また龍仁が言う。


 そんなに謝らないでほしい。


 だってびしょぬれの彼の顔が本当にこちらを心配しているようで。


 まだ毒が残っているだろう体でしっかり朱音を抱く腕が温かくて。


 朱音の頭の中がぐちゃぐちゃにかきまわされる。


「わ、私、あなたにありがとうと、ごめんなさいを言いたかったんです。

 でも、今言っていいのかわからない……」


 だってこんなにされたら勘違いしそうになる。


 もしかしてと思ってしまう。


 望みのない片想いは今思うと楽だった。


 ただ無邪気に相手を好きでいればいいだけだったから。


 でも望みがあるかもと少しでも思ってしまうと、もう駄目だ。


 つらい。


 望んで、失望して、その繰り返し。


 想いの激しい上下に心がついていけない。


 いくら強がったって朱音の根本は変わらない。


 愛されたがっているお子様だ。


 優しくされたら胸の奥から期待が生まれて、心を守る鎧を崩してしまう。


 無防備に心をさらして拒絶されたら、弱い自分はもう顔をあげていられない。


 立っていられない。


 だから。


「もう大丈夫です、離してください」


 朱音は龍仁の体を押しのけた。


「朱音?

 馬鹿、まだふらふらだろうが。

 こんな時にまで強がるな!」


「つ、強がったりしていません。

 それを言うなら龍仁様こそ、どうしてこんなに優しいんですか、変です」


 勝手な言い分だけど、優しくしないでほしい。


 意地悪なほうがいい。


 意地悪な人なら思う存分憎める。


 彼の何気ない言葉、ちょっとしたまなざしの一つ一つに、一喜一憂せずにすむ。


 強い心でいられる。


(そうよ、皆、龍仁様が悪いのよっ、本当に意地悪な大嫌いな人だったらすっきりするのに!)


 こんな気まぐれに優しくするなんて反則だ。


 ついていけない。


「離してください、調子がおかしくなるじゃないですか。

 それとも私をふりまわしておもしろがっておられるのですか?

 今回のことだって自分から毒を飲むなんてひどい、最低です。

 ご自分の体のことを何だと思っておられるのですかっ」


「……もしかして、心配、しているのか?

 お前が、俺を?」


「当たり前でしょう?

 今の私はどれだけ心配でもあなたの傍にはいけないのにっ。

 なのに勝手に倒れて、そんなだから私あなたが嫌いなんですっ」


 思わず言って、口を押さえる。


 しまった、口にするつもりはなかったのに。


 眼を泳がせると、龍仁が朱音をひきよせた。


 熱い腕と硬い胸板が朱音をおし包んで、圧倒される。


 低い声が朱音の耳朶をふるわせた。


「朱音、うぬぼれていいのか?

 お前は大嫌いと口では言っていても、心では俺を気にしていると。

 お前の〈嫌い〉は〈好き〉と解釈していいのか?」


 朱音は答えられない。


 突き放そうとするには弱い力で、彼の外套をぎゅっとにぎる。


 冷たい雨の中に龍仁の放つ男の香が濃くたちこめて息がつまる。


「朱音、答えてくれ。

 もしお前がそうなら、俺は……」


 言いかけた龍仁が、急に険しい顔になった。


 そして朱音を背後にかばう。


「ちっ、邪魔が入ったか」


 雨の中、覆面で顔を隠した男たちが門の内に入ってきていた。


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