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花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される  作者: アルケミスト


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 (つくづくあの時は失敗したわ……)


 あいかわらず龍仁に抱かれて運ばれる恰好のまま、朱音は顔をしかめた。


 (完全に花に同化して姿を消していたのに、龍仁ってどうしてあの牡丹に私が宿ってるって気がついたのかしら)


 花仙を捕らえるのは簡単だ。


 宿る花に酒を注げば酔わされて、無防備な正体を現してしまう。


 そして朱音は花仙が胸の奥に抱く、伴侶に渡す〈玉〉を龍仁に奪われてしまった。


 小さな白い玉は仙の魂だ。


 生涯、相手に魂を捧げるという愛の証に、互いに玉を贈る。


 魂をにぎられるわけだから、相手が言霊をのせて真摯に願った言葉には体が従ってしまう。


 それに玉を持つ相手から遠く長く離れられなくなる。


 体が、ふれてしまうのだ。


 愛しあう二人なら問題ない。


 愛する人の願いは叶えたいと思うし、相手が好きだから無茶も言わない。


 ずっと一緒にいるのが楽しいから離れようなんて思わない。


 実際、朱音の父母は夫婦円満、万年いちゃいちゃ状態だ。


 なのに朱音は龍仁と愛しあってもいないのに、いきなりそうなってしまった。


 今の朱音と龍仁は強制的に外堀を埋められたというか、心を伴わない仮面夫婦になったというか。


 この若さでこれは泣けてくる。


 しかも龍仁は仙ではなく人間だから、玉などもっていない。


 朱音だけが一方的に魂をにぎられる、不公平な形になってしまった。


(だから龍仁様は夫婦になったというより、便利な主従関係を結んだ気でいて、私の気づかいなんか認めないし、こきつかってくるのよね)


 龍仁は朱音が願いというなの命令に逆らえないのをいいことに、自分の世話は何から何まで必ず朱音にさせる。


 朝、龍仁が起きたら、まず洗顔の用意。


 彼の艶やかな髪を梳き、結いあげるのは朱音。


 武人らしく長身の彼の肩は小柄な朱音のはるか上にある。


 そこへ再びして着替えの衣を着せかけるのも朱音。


 彼が邸にいる時は朱音が三食給仕して、執務の合問の茶菓の用意もする。


 夜、眠りにつく龍仁の枕元で琴を奏でたり、たわいもない話につきあわされるのも朱音だ。


 さすがに宴のおりにまだ幼い朱音をはべらすことはなかったが、夜が遅い龍仁を待ちくたびれて先に眠ったら、龍仁みずから使用人房までやってきて、主より先に寝る馬鹿がどこにいると、たたき起こされた。


 他にもされた意地悪は山ほどある。


 朱音が幼い身で洗面の水を運びきれずにこぼした時には、大笑いをしてもっと運ばせた。


 給仕の時には腹をすかせた朱音の前に箸でつまんだ料理をつきだして、やろうかと挑発する。


(しかも、ここに来て初めての朝にされた、あれなんて……)


 おぞましすぎて思いだしたくもない。


 彼に囚われてから四年。


 龍仁の朱音への態度は変わっていない。


 いっそすがすがしいほどだ。


(ああ、もうっ、さっさと関係解消したいっ)


 さいわい本物の夫婦関係を結んだわけではない。


 玉さえ取り戻せば伴侶の誓いは解消できる。


 龍仁はそれを知っていて、決して玉のありかを言わない。


 留守中に彼の房室を調べたがどこにもなかったから、肌身離さずもっているのだと思う。


 彼の臥所にはべった時に、彼が寝入ったのをみはからって何度も衣の下を確かめようとした。


 だが勘のいい彼はすぐに目覚めてしまうから、みつけられずにいる。


 父は朱音の行方を求めて走りまわってくれただろう。


 龍仁の邸につれていかれたと知ってからは玉を返すようにかけあってくれただろう。


 だが朱音が捕らわれた理由を公にすれば、母が花仙とばれる。


 そのせいで父も強くでられずに、こうして朱音は龍仁のもとで暮らすことになったのだと思う。


 表向きは女嬬として召しあげられた形で。


 龍仁の身分と嶺家の家格からして、朱音の出仕を栄達とうらやむ人もいるが、朱音は少しも嬉しくない。


(……そもそも自分のことなのに、どうして伝聞形式なの)


 龍仁がはっきり教えてくれないから。


 彼が朱音を邸第の奥に閉じ込めたうえ、家との連絡も禁じてしまったから。


 やっぱり、大嫌い!


 朱音がじたばた暴れると、渡殿の分岐点で、龍仁が朱音をひょいと床に降ろした。


「ほら、お前の房はあっちだろう。

 さっさとその似合わない衣を魅替えてこい」


「嫌です。

 私、この衣が気に入っていますから」


 すると龍仁が盆を手に追いかけてきていた側近を手招きした。


 茶碗を手にとると、しらじらしく言った。


「ああ、手が滑った」


 いきなり中身を朱音の頭からぶちまける。


 髪から滴がぽたぽたとたれて、朱音は呆然となった。


 とっさに言葉がでてこない。


「……い、いきなり何をなさるんです」


「だから手が滑ったと言っただろう。

 これでその衣は脱がなくてはならないな、ちょうどいい。

 ああ、俺が買ってやった緑の衣があっただろう。

 今日はあれがいい、着替えてこい」


「なっ、いくら気に入らなくてもここまでしますか!?」


 朱音が龍仁にくってかかると、青くなった側近がわってはいった。


「ま、まあまあ、それくらいでっ」


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