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早朝の後宮を、白い朝靄が優しく包みこんでいる。
妃候補たちがまだ眠りについている時刻でも、井戸端はにぎやかだった。
清掃にむかう端女たちが木桶に水を汲んだり、雑巾を洗ったりと、あわただしく準備をおこなっているからだ。
そんな端女たちの中に、皇太后の手から逃れた朱音もまじっていた。
(これからの私はどう動けばいいの?)
皆と共に手を動かしながら、朱音は自問する。
自分が知りえたことを早く龍仁に伝えたい。
だが同時にへたに動けないと思う。
端女が龍仁と連絡をとろうとすれば目立つ。
皇太后はきっと朱音をさがしている。
捕まってしまえばそこで終わりだ。
(どうしよう、どうすればいい?)
黄黄に使者にたってもらうのも危険だ。
黄黄も姿を見られた。
だから今、彼には後宮をでて、皇城のほうに隠れてもらっている。
何かあれば門まで来て呼べと言われたけれど。
そこで朱音は、はっとした。
思いだした。
自分がどこであの白昼夢と似た光景を見たのか。
(黄黄よ!
黄黄が生まれた時と同じ!)
仙は他者からの強い想いを受けて生まれる。
朱音は父と母の想いを受けてこの世に生まれた。
黄黄だってそうだ。
寂しい朱音の前に現れた明るいお日様みたいな蒲公英の花。
あまりにうれしくて大切に育てた。
想いを込めた。
そして黄黄が生まれた。
後宮に陰の気か凝っている理由もきっと同じだ。
ここに囚われた女たちの想いが、朧に散っていた陰の気をひきよせているのだろう。
そしてあの時、皇太后は強い想いを陰の気に向けた。
もしかしてあれは陰の気が集まり、〈仙〉が生まれる瞬間だったのでは。
(そういえばあの人、夢の中で、『伴侶になってあげる』って言っていたし)
漂う陰の気に想いを向けて仙を産み、その玉をにぎって伴侶となる。
陰の気をつかって、願いを叶える。
それがあの廟の噂の正体では。
今、陰の気から生まれた仙がどんな姿をとっているかはわからない。
だがあの時、陰の気は確かに〈仙〉として生まれた。
そして皇太后に伴侶の玉を渡した。
玉をもつ者の願いに仙は逆らえない。
陰の気から生まれた仙は、皇太后の願うままに動き、高官たちを支配しているのではないだろうか。
そこまで気づいたのに朱音は動けない。
端女の身分に閉じこめられていることがじれったい。




