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花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される  作者: アルケミスト


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 佑鷹が瑞鳳宮にいる母から呼び出しを受けたのは、その夜のことだった。


 後宮に単独で立ち入る許可は皇太后から得ていると、割符までが女官の手で届けられた。


(皇太后様の差し金か!)


 佑鷹は舌打ちをもらした。


 皇太后からは龍仁へ、不安がる母というさまをよそおって、再三の状況説明要請がある。


 すベて断っているので、佑鷹から内部事情を聞きだせと、皇太后が母の黎己に命じたのだろう。


 断れば黎己が皇太后に責められる。


 行くしかない。


 佑鷹は瑞鳳宮へ伺候すると、女官に案内されて黎己の居房へと向かった。


 瑞鳳宮の廊下を歩きながら考える。


 なんとか黎己を説得してこちらに引きこめないか。


 黎己は皇太后と同じ韓一族の出。


 皇太后とは乳兄弟の間柄で、常に彼女の影となり従ってきた。


 黎己さえこちらに引き込めれば、皇太后のふるう不思議な力の源がわかるかもしれない。


 強力な切り札になるのだが。


 黎己の房の近くまで来たことを知らされた佑鷹は、案内の女官に、少し離れたここで待っていてくれないかと頼んだ。


 立ち入った話になった場合、他の者に聞かれたくない。


 一人で母の房に近づくと、話す声が聞こえた。


 黎己の他に誰かいるらしい。


「見つけたの、あの記憶をのぞいた気配の主を!

 花仙だった!」


 興奮した低い声が聞こえた。


 花仙?


 何の話をしているのか。


 佑鷹は首をかしげて聞き耳をたてる。


「きっとあれは龍仁の可愛がっていた娘よ。

 前に牡丹苑で感じた気配と同じだったもの。

 やっぱりあの子ったら花仙を捕らえて黙っていたのよ、しょうがない子」


「でもどこにいるのかしら。

 妃候補も侍女も女官にいたるまで調べたわ、どこにもいなくて」


「それはわかってるわ、あいかわらずおっとりした人ね。

 私も宴の時に気配を探ったわ、あの場にはいなかった。

 でもこの後宮のどこかにいるのよ。

 ああ、あの時は陽が残っていて陰の気をあやつれなかったのが痛かったわ。

 私はこの体だから走って後を追えなかったし」


 話す声の主は二人。


 どちらも女だ。


 そして佑鷹のよく知る者の声、黎己と皇太后の声だった。


 佑鷹はさらに首をかしげる。


 黎己と皇太后は気のおけない姉妹のように育ったと聞いているが、公式の場での二人は常に一線を引いた主従の態度だった。


 なのにはじめて聞く私的な場での二人の会話は、驚くほど警戒心もなくあけすけだった。


「韓一族の血を引く公子を皇位につけた。

 これで次代の皇后も一族からだせば父様から命じられた義務は果たせる、やっと心穏やかに隠居できる。

 そう思っていたところに、あれを知られて冷や汗をかいたけど、あちらから飛びこんでくれてほっとしたわ。

 でないと何のためにあなたに危ない橋を渡らせたのかわからなくなるもの」


「そうね。

 なんとしても今の状態を守らないと」


「だけど龍仁も問題よ。

 韓一族の排斥にかかるなんて。

 手塩にかけて育てた子で情けはあるけど、やはり替え時ね。

 聞き分けの良い雅叡公子のほうがいいわ。

 雅叡は香凜になついているし、似合いの夫婦になるでしょう」


 なっ。


 これは皇帝すげ替えの密談ではないか。


 あわてて身を引こうとしたが遅かった。


 扉がさっと開かれて、中にいた女がでてくる。


「聞いていたの?

 なんて行儀の悪い」


 女が眼を細める。


「入っておいで。

 ちょうど内部事情を知る者がほしかったの。

 お前ならどうすればあの猫を捕まえられるか知ってるわね?

 ついでにお前にも教えてあげるわ。

 何故皇帝ともあろう者が母に頭があがらないのか。

 知ればお前も私の言うことを聞くようになるだろうから」


 佑鷹はごくりと息をのんだ。


 龍仁が皇太后を母とは思えないともらすのをよく耳にしたが、今、自分もようやくその心が理解できた、そう思った。


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