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花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される  作者: アルケミスト


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(さて、でもどこから手をつけよう)


 決心した朱音は、仲間のもとに戻って、さっそく悩んでいた。


 端女にも禁足令がでている。


 朱音たちは房に閉じ込められていて、令嬢たちに近づけない。


 どうしようと悩んでいたところに、変化が訪れたのは二日後だった。


 瑞鳳宮の捜査は膠着状態らしいが、端女が謹慎中で掃除をしなければ後宮も汚れる。


 しかも下っ端女官の分際で、房まで食事を運ぶなどの世話をしてもらえるわけもなく。


 結果、最低限の清掃仕事と食事入浴をおこなうため、時間制限付きで房からだされることになった。


 久しぶりに仕事をして汗をかいて、まだ夕刻の早い時刻に湯殿に向かう途中、その話はたわいもない雑談の中にぽんとでてきた。


「あーあ、こんな半分軟禁のびくびく暮らしがいつまで続くのかしら。

 落ちつかないわよね。

 この際、廟に参ってでもいいから、早く元の生活に戻れますようにってお願いしたい」


「廟?

 皇族方のご先祖様を祀ってある 、あの廟のこと?」


「違うわよ、この後宮内にあるって噂の廟のこと。

 怖いのよ、その廟ってふだん人の眼には見えなくて、夜にだけ現れるの。

 で、寿命の半分とひきかえに、寵がほしい女には寵愛を、美が欲しい女には美を、願えばなんでも与えてくれるそうよ」


「噂よ、噂。

 後宮七不思議ってやつ。

 後宮には皇帝の代替わりがあってもひっそりと居残っている老婆がいるとか、北牢の人面の染みが涙を流すとかと同じ話よ」


 眼を丸くする朱音に、杏佳が首をすくめてみせる。


「その廟ってどこにあるか誰も知らないの。

 後宮中の清掃をしてる私たちが知らない建物なんてあると思う?」


「でもあったらいいなあ。

 求める者の前に現れるっていうけど、どうかしらね」


 端女たちは皆で、もし願うなら何を願う?


 でも早死にするのは嫌と、もりあがっている。


 それを聞きながら朱音は考えた。


 どんな願いも叶えてくれるなら、同じ願いをもった人がかちあったらどうなるのだろう。


 皇后になりたいと願っても、皇后位は一代につき一つだけだ。


 そこでふと思う。


 これと似た話をどこかで聞いたような。


 朱音は首をかしげて考える。


 思いだした、あの陰の気にふれて見た過去の記憶だ。


(だってあり光景、夜だったわ。

 寿命の半分とひきかえに願いを叶えるってところも同じ……)


 現れたのは廟ではなく、どろどろとした陰の気だったけど。


 急に廟の噂が朱音の中で真実味を帯びてきた。


 それにあの光景にひっかかるものがあるのだ。


 あれに似た光景を自分はどこかでこの眼で見た。


(あんな濃い陰の気なんて、ここに来るまで見たことないのに)


 気になる。


 あの時、闇色をした陰の気は、あの女の求めに応じて集まってきた。


 そして一つの姿をとりはじめて……。


 思いだせそうで思いだせない。


 でも待って。


 よく考えたら、自分ならその廟が本当にあるか調べられる。


(だってその廟は後宮の苑に現れるのよね。

 なら、当然、木は見ているわけよね?)


 木々の寿命は長い。


 ずっと昔のことでも覚えている。


 そして朱音は木々の声が聞こえる。


 どうして今まで気づかなかったのだろう。


 あの令嬢の首にあった糸だって、巻きつくところを木々は見ていたはず。


 どうやって巻きついたのかわかれば、とき方もわかるかもしれない。


 龍仁の反応が気になったから、朱音も情報を集めたのだ。


 病に伏した令嬢たちは皆、父が龍仁を支持している者ばかりだった。


 そしてあの首に糸の巻きついた令嬢と同じく、皆、突然倒れている。


 もしかして後宮に流行っている謎の病は、あの陰の気の糸が原因ではないか?


 なら、糸のとき方を見つけて病に苦しむ妃候補の令嬢たちを助けられれば、彼女たちの父親もきっと龍仁の味方に戻ってくれる。


「白白? どこ行くの?」


「着替えの帯を忘れたの。

 とってくるから、先に行ってて」


 できることが見つかった。


 朱音は同僚たちに断ると駆けだした。


 主要な宮殿ではなく、苑をいくだけなら警備もゆるい。


 衛士の眼をかいくぐり、令嬢が倒れた池の畔で一人になる。


 ごくりと息をのむ。


 ここで花仙の力を使えば、まだ夕刻とはいえ、後宮に巣食う陰の気に気づかれるかもしれない。


 だけど、やる。


 怖がってばかりでは何もなせない。


 太い幹にふれる。


 ふわりと木の香りがした。


 気持ちいい。


 甘い樹液が幹の中をぐいぐいあがっていくのを感じる。


 そして天高く伸ばした梢に陽の光がふりそそぎ、緑の葉の間を風がとおりすぎていく景色が見える気がした。


 昔はこの地にも花仙の他にいろいろな仙がいたそうだ。


 岩の仙、池の仙、虫や動物の仙、人界に住む万物の種類と同じ数だけの仙が。


 だが浮世離れしたところのある仙は、存在をたもてずに次々と消えてしまったり、仙界に戻ったりしてしまった。


 だから朱音も母と黄黄の他に仙を見たことがない。


 今、対話している木々も花仙は珍しかったようだ。


 我がちに話しかけてくる。


 動けない自分とちがって動ける朱音に、自分が生まれた深い山々は今どうなっていると問いかけてくる。


 それらに、ごめんなさい、私も外のことはよく知らないのと答えて、そっと問いかける。


「ねえ、教えて。

 あの時、何があったの?」


 するとさっきまで饒舌に話していた木々がぴたりと口を閉ざした。


 ざわざわと怯えるような気配がするだけだ。


 ずいぶん待って、もう無理かと思った時、ぽつりと一本の楓の木が口を開いた。


『いけない。

 花仙、近よるとよくない』


「え?」


『あれは悪しきもの。

 人の願いに捕らわれて変わってしまった。

 さがしてる、秘密を見た者を』


 それきり口を閉ざしてしまう。


 秘密を見た者って何?


 糸のことが駄目ならと、あの過去の記憶のことを聞いても、噂の廟のことを聞いても何も答えてくれない。


 悪しきものとは陰の気のこと?


 わかるのは木々が朱音を心配してくれているということ、そして彼らは怯えていることだけ。


 だが逆にわかったことがある。


 これだけ怯えるということは、噂の廟とやらは実在する。


 そしてあの糸と関係している。


 共通しているのは濃い陰の気。


 自分の足でさがすしかないらしい。


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