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花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される  作者: アルケミスト


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「今にして思えば先帝陛下の急な譲位も皇太后様のさしがねだったのかもしれないね。

 こちらの体制が整う前に陛下を位につけ、自分の配下で周囲を固めるための」


 そうしてじわじわと龍仁の手足を縛っていくつもりが、龍仁はしぶとかった。


 それで今回の事件になったのか。


「でもどうして? どうして皇太后様は龍仁様にそこまでされるのですか?

 龍仁様はお優しい方なのに!」


 龍仁は朱音以外にはおおらかでいい人だ。


 いや、朱音にだっていい人だ。


 洗顔の水をこぼして何度も運び直しをさせられた時も、それぞれ違う器を使わせて一番こぼさなかった器を正式な水運びの器にしてくれた。


 給仕の時に料理をくれるふりした時は、後で食事しようとしたらさりげなく一品、 同じものをだされていた。


 なのに意のままにならないからと厭うのか?


 自分が産んだ息子なのに?


 それにおかしい。


 そこまでするなら何故皇太后は龍仁を皇帝にした?


 皇太后の子なら雅叡公子もいる。


 雅叡公子は明るく無邪気な性格で、まだ十三歳だ。


 傀儡にするなら理想的だろう。


 なのにどうしてそちらへは動かない?


 それに龍仁もだ。


 母を裁くのは外聞が悪いとはいえ、どうしてこんなゆるいやり方をしているのだろう。


 朱音の知る龍仁は温厚な見た目と違い、本気になれば容赦などしない人なのに。


 この母子は似ている。


 まるで互いしかいないように、相手を気づかいながら争っている。


(何か、お互いに手をだせない理由があるの?)


 朱音は違和感の源をもとめて、佑鷹に問いかける。


 でも佑鷹も知らないようだ。


 情けなさそうな顔で会話を打ち切る。


「とにかく君は目立たないように隠れてて。

 人質にでもとられたら陛下がお困りになる」


 自分に人質の価値なんてあるの?


 顔にでてしまったのだろうか。


 佑鷹が苦笑する。


「じゃあ、私への人質になってしまうと考えてじっとしてて、私はこれでも陛下の側近だ。

 いろいろ機密も知っている。

 今はただでさえ母を瑞鳳宮にあげていて気苦労が絶えないんだよ。

 君まで盾にとられたら胃に穴が開いてしまう」


 そういえば宴の少し前から、佑鷹の母は瑞鳳宮へあがっているのだった。


 朱音が龍仁のもとへつれてこられた時、すでに佑鷹の母は龍仁のもとを辞して療養していた。


 が、一度だけわざわざ会いにきてくれたことがある。


 朱音は邸の奥深くに閉じ込められていたし、佑鷹の母の方も当時すでに病が重かったらしく、帳を降ろした輿からでてこられなかった。


 だから互いに顔を合わせられなかった。


 人づてに、帳の向こうから小柄な影が龍仁を頼みますと手を合わせていたと聞かされて、妙に居心地が悪かったのを覚えている。


 佑鷹のつらそうな顔を見ると、おとなしくしていますと言いたくなる。


 でも嫌だ。


 龍仁が皇太后との全面対決を選んだのなら、後宮にいる妃候補たちの動向を調べるのは重要になってくるではないか。


(だって人質といったら、この後宮に集められた妃候補全員がそうといえるもの)


 皆、父が重職についている。


 龍仁が妃の階位を自分で決めると言ったのは、助平心からでないと今なら信じられる。


 自分に忠誠を誓う官に報いるため、皇太后に抵抗するためだ。


 だったら自分がここにいる意味があると思う。


 後宮に立ち入れない男たちに代わって、令嬢たちの様子に変わったところはないか調べられる。


 そうすれば皇太后の不思議な支配力の謎がわかるからしれない。


 もしそれらはすでに龍仁の密偵たちが調べあげているのだとしても、あの令嬢の首に巻きついていた黒い糸と、後宮に立ち込めている陰の気。


 あれが見えるのは朱音だけだ。


 どうして自分が仕事にこだわったのか、やっとわかった気がした。


 自分は猫でも玩具でもなく龍仁と同じ場所にたちたかった。


 不安定な、どうしてここにいるのかわからない自分の存在理由を知りたかった。


 囚われの身だ、何もできないと卑屈になって泣くのではなく、きちんと顔をあげて彼を見たかった。


 もう気づかいを拒絶されるかもなんて怯えない。


 拒絶されたっていい。


 自分がやりたいからやったんだと、堂々と言いたい。


 自分は吹けば飛ぶようなちっぽけな花仙だけど、それでもできることはきっとある。


「朱音、わかってくれた?」


 佑鷹が答えを待っている。


 でも朱音は彼の望む言葉を口にしたくない。


「もうしわけありません、佑鷹様。

 私、逆らいます」


 朱音はすみませんと一礼して、佑鷹に背を向けた。


 房に戻るために駆けだす。


 駆けながらふり向く。


 驚いたようにこちらに手をのばす佑鷹と、皇城と後宮を隔てる門の甍が見えた。


 強くなりたいと思った。


 息をひそめて隠れていろと指示されるしかないか弱い花仙ではなく、あの門を自力で越えられるだけの力を手に入れたいと。


 もう逃げない。


〈補給〉は昨日たっぷりした。


 だから動ける。


 だって自分は囚われの哀れな花仙なんかじゃない。


 一蓮托生の、龍仁の伴侶なのだから。


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