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後半を口にするまでに、妙に間が空いたのは気のせい?
何かもっともらしい仕事を考えていたような。
それとも自分がひがんでいるからそう聞こえただけ?
「知ってのとおり、妃には皇后の他に四妃、八儀、美人、才人と階位がある。
皇后陛下が選んでやると言ってきているが、俺の妃だ。
人に選ばれるのは好かない。
そこでお前だ。
俺の眼となり耳となり、妃候補どもの人柄を探ってこい」
「それって私が階位選定の補佐をするということですか?」
仕事をくれとは言ったけれど、そんな人の一生を左右するようなことは嫌だ。
しかもこそこそ調べるなんて。
(そもそも四妃、八儀、美人、才人っていったい何人妃候補がいるのよっ。
この助平っ)
龍仁を見損なった。
女に興味ない顔をして、いつのまにそれだけの娘をあつめたのか。
最低の最低っ。
朱音がさらに顔をしかめると、龍仁がちょっと嬉しそうな意地悪顔になった。
「候補たちは数が多いからな。
いちいち俺が調べるのも面倒くさい。
だからお前がやれ」
「面倒くさいものを他人にさせないでください」
「面倒くさいから候補はお前だけにして後は放逐でもいいぞ。
俺はもともと後宮などいらないのだから。
お前のために妥協してやっているんだ。
それとも〈言霊〉をのせて命じるか?」
「わかりました。
やります」
全然わかっていないけど、仕事が欲しいと言ったのは自分だ。
「ではさっそく妃候補として名簿にお前の名を入れてやる。
もちろん偽名でな。
励めよ」
ぽんと頭をたたかれて我に返る。
ちょっと待って。
仕事は引き受けたけど、そこのところはうやむやに流さないでほしい。
「でも妃候補って何ですか、妃候補って令嬢方を探るだけなら、別に私が妃候補にならなくていいじゃないですか!?」
「……お前な。
この俺にここまで丁寧に説明させてそんな口をきく者は他にいないぞ」
あきれたように言われて、いちおう口を閉じる。
龍仁が新皇帝といわれても今さらでぴんとこないけど、お互い立場があるとは理解している。
「逆に聞くが、ではどういう肩書きで後宮で暮らすつもりだ。
居候か?」
「でも、肩書きだけでも妃候補はいやです」
「なら、端女にでもなるか?
確かに妃候補よりそちらのほうが似合いだな」
端女!
下働きの女のことだ。
官婢よりはましで女官の位にあるが、ここでどうして一般女官とか言わないのだ、この人は。
今でもこき使われまくっている朱音だけど、さすがにそんな下級の力仕事はしたことがない。
(言うにことかいてそんなこと言う?
どこまで意地悪なのよっ)
うまくはめられた気がする。
この流れでは自主的に端女になりたいと言うしかない。
「どうする、やっぱり妃候補にしてくださいと泣きつくか?」
「誰がですか!」
「ではさっさと情報集めをしてくることだ。
仕事完了したら玉を返してやってもいいぞ」
本当!?
と、身をのりだしそうになって、朱音は踏みとどまつた。
(しっかりしなさい、騙されちゃ駄目。
龍仁様はすぐ人を騙してからかうんだから)
「別にいいです」
つんつと横を向いて言ってやる。
「それは俺との関係を絶ちたくないから、玉を返さなくていいということか?」
「ち、違いますっ」
「では褒美はなくとも俺のために働きたいという意志表示か」
そんなふうに言われるとむかむかして、参りましたと言わせてみたくなるではないか。
「……誓約書をください。
ちゃんと仕事をやり遂げたら玉を返してくれるという」
「疑り深い奴だな」
そう、疑り深い朱音のほうが、龍仁が思い描いている雌猫の像にあっているだろう。
虚勢を張る。
だって他に何ができるというのだ。
もう傍仕えにいらないと言われた娘が、命じられた仕事を完璧にやってのけて驚かせるほかに。
そこに龍仁がとどめを刺した。
「ああ、そうだ。
言っておくが後宮の女官教育は端女といえど厳しいぞ、ここの比ではない。
音をあげるなら今のうちだぞ」
「誰が音をあげますか!
引き受けたからにはやり遂げるに決まっているでしょう!?」
売り言葉に買い言葉だ。朱音は龍仁に嚙みついた。
龍仁の房屋をでた朱音は、邸の書庫へと直行した。
前に龍仁に中の書籍はすべて自由に読んでいいと許可は得てある。
だから驚いて眼をまたたかせる管理人の老人に、気合をこめて言った。
「後宮に関する書物があれば、すべて貸してください」
どうせやるなら前向きに。
後宮に関する第一人者になってやる。




