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第二話:変なステータス

 女神の放つ光に包まれた俺は、気が付くと屋外、晴天の下に居た。


 「……ん? あ、あれだ。アニメでよく見る西洋風の街並みだ」


 なぜ異世界は一貫して西洋風なんだろうという疑問を抱きつつ、街を散策してイベントが起こりそうな場所を探してみる。


 すれ違う人たちは皆、ザ・ファンタジーといった感じの風采で、カラフルなローブを身に纏う人や無駄に露出が多い鎧を着る人など、ここが異世界だと実感させるような装いをした人しか見られない。


 というかさっきから地味に視線を集めている。何と言っているか聞き取れないが、矢鱈(やたら)と何か囁かれている。


 この至極普通な身なりも異世界では異質なのであろうか。なら女神はこの世界における初期スキンを出すべきではないのか。


 目立たないよう装備を整えたいと思ったが、そういえばお金なんて持っていない。当然のことながら無一文、女神から貰った服以外に何もない。


 しばらくほつき歩いていると、ザ・冒険者ギルドといった見た目の建物に辿り着く。


 看板の文字は読めないが、あれだ。アニメで見たことがある。多分ここが冒険者ギルドだろう。

 お金を稼いだり、仲間を見つけたり、この世界の基礎的なことを教えてもらえる場所という認識である。

 異世界に転生したらまずここであろう。


 中に入り、ザ・受付のお姉さんが居たので話しかけてみることにした。胸でか。


 「あのー、冒険者ギルド……ってとこで合ってます?」


 「q'qe?」


 「え? な、なんて言いました?」


 「q:z-s"-lg:/N"\/"oot_oo"mN\oo?」


 問題発生。なんと言葉が通じない。


 「l-Nz-_e"N"h/ch:zoo"p-_-"N:f:c-_"/l"l/Ng-j/.」


 まずい本当に何も分からない。


 先程まで異世界を観光地のような感覚で、能天気に歩いていたが、今直面している状況をようやっと把握し、現実に引き戻される。


 冷静に考えればそうだ、ここは日本ではない。


 この先の生活をどうすればいいのか、言語の習得にどれ程の期間を要するのか、そもそもどこでどう行動すれば言語を習得する機会が得られるのか。


 色々考えてしまい、頭蓋の中に氷を入れたような、血の気が引く感覚に襲われる。嘔気も覚える。

 つまり一人で破茶滅茶苦茶に焦っていると、受付のお姉さんは横の棚にある本を手に取って何かを調べた後、俺に向かって手を翳してきた。


 手の平から出てきた光に包まれた俺は、瞬間、脳内を掻き回される感覚に襲われ、思考が纏まらないまま意識を失う。


 数十分後、俺は意識を取り戻した。受付の前の椅子に座らされていた。


 醒めた俺に気が付いた受付のお姉さんは、近寄ってきて「体調はどうですか。私の言葉は分かりますか」と聞いてきた。


 「……はい。分かります」


 意識を失う前のやり取りをぼんやりと思い出して二の句が継げないでいる俺に、お姉さんが説明してくる。


 「異世界から来た人ですよね。さっき、あなたの頭の中にある言語をこっちの世界の言語に置き換えるっていう魔法、かけたので。多分普通に会話できるようになってますよ」


 急に魔法だとか言語を置き換えるだとか、常識離れした内容に頭が付いていかず、一瞬思考が止まる。


 「すいませんねいきなり、あれが手っ取り早いもんで。転生してくる人ってちょくちょく居るんですよ」


 「は、はぁ」


 「過去にあなたの世界の人が言語置き換えの魔法を作ったんですよ。多分……この本のここの部分、あなたの世界の言語なんですけど、読めます?」


 「いや、それ以外の部分しか分からないです」


 「なら問題ないと思いますよ。はいこれ、マニュアルみたいなものです。分からないことがあったらまた聞いてください」


 そう言われ、僅か三頁しかない冊子を渡される。


 冊子は三分程で読み終わった。


 書いてある内容は、

この国、そして周辺国の簡単な地図、

冒険者ギルドの利用方法、登録の手続き、

各種ステータスと状態異常、主要アイテムとその効果、

魔法や属性の大まかな説明、といったもの。


 この冊子から読み取れる通り、ここは正に理想的、ザ・ファンタジーなゲームやアニメのような世界だった。


 ワクワクするのは勿論のことだが、何より安心が大きい。


 先程まで直面していた言語の問題も無事解決したし、転生者が困らないような措置が為されているようなので、今後死活問題等は起こらないであろう。


 取り敢えず、自分のステータスがどんなものか気になるし、冒険とか魔法とか、異世界っぽいこともしてみたいので、早速受付のお姉さんに読了を伝えて冒険者になろう。


 「すいません、これ読み終えました。あと質問なんですけど」


 「はい」


 「これらの地図記号だけ教えてもらえると。言語は分かっても記号とか分かんなくて」


 「あぁこれですね、これがダンジョンで下の数字が規模です。こっからここまでが境界で、内側がモンスター発生地です。あとこっちは……」


 粗方(あらかた)不明点を教えてもらって、次いで冒険者の登録のお願いをすると、「その前に……」とお姉さんが後ろの棚から分厚い本を取り出してこちらに渡してきた。


 「これ法本(ルールブック)です。法律はある程度知っといてくださいね」


 重っ。これ全部読むのか……。


 再度椅子に腰を下ろし、数頁捲って軽く目を通す。


 治安を乱すような行為をしなければ基本的に大丈夫そうだが、この世界にしかない概念などが絡んだ内容が書かれていると、理解しようとする気が失せる。もう何にも頭に入って来ない。


 早々に諦めて、お姉さんに冒険者の登録をしてもらうことにした。


 「しっかり読んでくださいよ」と言われながら、ザ・魔道具の置いてある場所に移動。


 いよいよ自分のステータスとのご対面。女神はしっかりチートみたいなステータスに設定してくれただろうか。


 「これを指先とかに刺してください。血はここに入れます」


 やはりこういうのは血を使うらしい。痛いのは嫌だが、子どもみたいなことはしていられないので渋々。


 「じゃあ四十分後くらいに受付に来てください」


 なが。


 「直ぐには分からないんですね」


 「ステータスは二十分くらいで分かるんですけど、ライセンスカードに書き込んだり、その人に向いているクエストとか必要書類とかの準備があるので」


 なが。レベルが上がる度にステータスの把握に二十分掛かるのか。


 「待ってる間、法本読んでいたらどうですか」


 することも無いので仕方なく法本を読んでいると、さっき使った魔道具の前で、受付のお姉さんと他の店員二人が集まって何やらザワザワしだした。


 お。これは。俺に素晴らしい才能が。


 上がりっぱなしの口角を本で隠しながら待つこと更に十分、お姉さんが俺に目線で合図を送ってきたので冷静を装いながら受付に向かう。


 「お待たせしました。ライセンスが用意できたので、まずお名前を」


 「ヒシカワタクヤです」


 「ヒシカワ……タクヤ……ですね」


 金属の印字棒と金槌を取り出して一文字ずつ打刻していく。


 その後打刻し終えたカードを手渡され、表裏両面に何が書かれているか確認する。


 ライセンスカードは金属で結構しっかりしていて、表面には名前、冒険者ギルドの証、レベルが書かれている。


 レベルは転生したばかりなので当然1。


 裏面には各種ステータスが書いてあった。


 「ステータス値の部分とかは塗料を魔法でくっつけているだけなので強く擦ったりしないでくださいね」


 ステータス値は六つあり、中に一つ、桁が明らかに違うステータスがあった。


 「ヒシカワさんのステータス……体力はとても素晴らしくて、既にレベル上位勢に引けを取らないくらいです」


 先程ザワザワしていたのはこれか。


 「ただ……」


 お?


 「それ以外のステータスが軒並み低すぎて……一桁なんて久しぶりに見ましたよ」


 先程ザワザワしていたのはこれか。


 「あまりモンスターと戦う類のクエストはおすすめできませんね。そうそう死にはしないと思いますが、倒せないと意味ないですし。気の毒ですけど、現状ヒシカワさんに向いていそうなクエストは特に……」


 半笑いでそう言われ、カウンターの奥からも「あの人バランスが……」と笑う声が聞こえる。


 「レ、レベルが上がれば、何とか戦えるくらいにはなれますよね! 装備とかすれば……」


 必死にそう訴えても肯定的な返答は返って来ず、余計に可哀想な人になっただけであった。

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