第一話:転生準備
「……ん? あ、あれだ。アニメでよく見る謎の空間だ」
気がつくと俺は、恐らく女神であろう人物と二人きりの空間に居た。
異世界転生モノのアニメでよく見た光景、まさか本当にあるのかと少し感動する。と同時にワクワクする。
きっとこれから異世界に転生できるのだろう。非現実的な要素で溢れ、可愛い女の子がたくさん居るであろう、生前に山程見たアニメのような異世界に。
生前、……そう生前だ。死んだのであった。
急に色々と頭を過る。
大学の寮、風呂場で友人と遊んでいて死んだ。
両親や友人にもう会えないと気づくと、一気に寂しくなった。…が、思い返してみると、案外何の後悔も無い。
ノー勉で平均点は取れていたため、受験勉強は手を抜きまくって遊び呆けていた。
そのせいでFラン大学に入ることになったが、授業は全部楽。大学生になってからも毎日のように遊び呆けていた。
卒論や就活など、面倒なイベントが始まる前に死んだので、人生において苦労したことなど殆ど無い。
そう、遊ぶだけ遊んで、タイミング良く死んだ。更には異世界転生という心躍るイベントが待っている。
死んだばかりとは思えないほど笑顔の俺は、ウキウキしながら、椅子に座っている女神であろう人物に話しかけに近寄る。
「あのー……あ、あのぉ」
……返答が無いので肩を少し揺らす。
「あのー。多分死んだんですけど、対応してもらって良いですかー」
「……ん……は、はい」
笑顔で目を閉じていた女神はどうやら睡眠中だったらしく、ゆっくり瞼を開けてこちらを見る。
「……うわ。あぁ、死んだ人ですか。ふぁ……お疲れ様でしたぁ」
と女神は欠伸をしながら、ゆったりとした口調で話す。
「えっと、ふぁ……えぇー、ここに来たってことは、あなたが、元いた、別の世界に、転生できるってこと、です」
「おはようございます」
「はい、おはようございます。なんか要望とか、ありますか? どういう人生送りたいとか。ちょっとだけなら、融通効きますよ」
「えぇと……モンスターとか怖いので死なないように超強くしてください。というか、できるだけ戦う必要のない平和な感じで。あと可愛い女の子に囲まれたいです。あと……」
「あー分かりますよ、そっちの世界から来た人は大体同じこと言うんで。あれですよね、転生したらちょーつえーみたいなアニメとか」
話が分かる女神。
「そうですお願いします」
「流石にそこまでは、ね。皆欲張り過ぎって話ですよ。そんな都合の良い設定、滅多に用意できる訳無いじゃないですか。まぁ頑張りはしますけど。ちょっと一時間くらい待っててくださいね」
「ありがとうございます」
……まぁそうか。そんな都合の良い話がある訳無いか。待ち時間なが。
それでも、自分が本当に異世界に転生できるらしいこの事実に胸が高鳴る。
やり取りの三分後、沈黙が続く。暇なので雑談開始。
「……あの、女神様、で良いんですよね」
「そうですよ」
「"皆"ってさっき言ってたじゃないですか。どれくらいの人が転生してるんですか?」
女神は椅子の上で横になりながら回答する。
「いちいち数えたりしてませんが、結構居ますよ。あなたの居た世界以外の人も転生させたりしてるので。あなたの世界じゃ……さぁどうでしょうね、千人くらい?」
「どういう基準で転生する人って決まるんですか」
「さぁ? ランダムじゃないですかね、自然現象なので」
なんとなく、生前報われなかった人とか、徳を積んだ人が選ばれるものだと思っていたので意外だった。
確かにそうでなければ俺が選ばれる理由が無い。
「そういえばあなた、死因はなんですか? 特に落ち込んでいる様子もないですし」
「あぁー、その……大きな浴場で、友人とソーラン節を踊っていたら、すっ転んで……」
それを聞いた瞬間、女神が吹き出す。
「ブッ……あっ、あなた、っ……フフッ……」
笑いを堪えながら、女神は背もたれの方を向くように寝返りを打って、顔を手で覆う。
「だっだから、全裸なんですねっ……プフッ」
「え、これってそういうものじゃないんですか、皆服着てるんですか」
「あっ、あなたはっ……全裸でソーラン節、踊って、死ん、だんですかぁ。道理で。お気楽ですねっ……フフ」
情けな過ぎて死にたい。死んでた。
「いやぁ久しぶりにこんな笑いました。今まで出会ってきた人の中で一番面白い死に方でしたよ」
「嬉しくないです」
「もう変な死に方しないでくださいね。フッ」
女神に鼻で笑われた。
「ずっと真っ裸で居られると、その目のやり場に困るというか……」
そう言いながら視線を徐々に下げる女神。
「服作ったので着といてください。フッ。このまま転生したら即捕まってゲームオーバーなので」
また女神に鼻で笑われた。どこ見て笑ったこの女神。
というか服を何も無い空間から服を出した。
「え、すご。なんすかその能力」
「女神ぱわーです」
作ってもらった服は下着、無地のTシャツ、ジーンズと一式揃ってシンプルで、サイズはピッタリである。
これらを着終えると、女神は「初期スキンですね」と半笑いで言ってきた。
その後、女神ぱわーとやらで将棋やリバーシを作ってもらって、女神と雑談をしながら遊んだ。
そして、遂にその時が来る。
「あ、準備できましたよ。いつでも行けます」
あまり気が進まない。可愛い女の子と話しながらゲームできるというのはかなり楽しい。全敗したが。
「最後、もう一戦だけ」
「だめ。行ってきなさい。はい女神ぱわー」
と言いながら手を翳され、女神の手の平から出る光に包まれる。
「眩しっ」




