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第6話 見たかった笑顔

「にゃぁー! エルメスちゃんが帰ってきたにゃるよ!」


五日振りに私が聖皇都の東南側にある白聖騎士団(ホワイトアーサー)のために建てられた聖皇都衛邸に戻ると、茶髪でケモ耳と尻尾を持つ獣人族の少女・ミャラが私に気づいてそう叫ぶ。

その声を聞いた酒場で酒を飲み交わす白聖騎士団の数人が私へと駆け寄る。


「おぉ、エルメスじゃないか! 久し振りだね」


赤髪で赤瞳の高身長な凛とした顔立ちの女性らしい少女・メルトが私の肩にポンと手を置いてそう言う。


「あー! メルト姉さん久しぶり! ミャラも久しぶり!」

「お? やっと帰って来たのかお前ぇー!」


メルトとミャラに挨拶し返すと横から副団長のリリィが話しかけてくる。


「リリィじゃん! 元気だった?」

「あぁ、もちろんだ!」

「団長も元気そう?」

「あぁ、いつも通り元気だぜ! ってかアイツが元気じゃない時なくないか?」

「それもそうだね」


私とリリィがそう我らが聖皇都護衛団長であるシャナのことを話していると。


「あら?」

「あれれっ?」


城内外の境となるアリセルの門をくぐって入ってきたケモ耳フードの白いローブに身を包み、だぼっとした半ズボンを着る少女がこちらに向かって歩いてきているのを見つけた。

彼女は私らに気が付くとこちらに駆けてきた。


「やっほほーい! エルメスちゃんだぁー! いつも通りかわいいねぇ! おっかえりー! ねね、レンちゃんの監視してみてどうだった!?」


彼女は鼻先同士がくっついてしまいそうなほどの距離での怒涛の早口で私を迎える。


「ち、近いです近いです!」


寄りに寄って来る彼女の顔をぐぃーっと押しのける。


「レン様はとてもお優しく、それなりの礼儀もなっておりましたし...シャルル様の幼少期と比べると全くもっていい子でしたよ」

「だってよ、シャナ」

「うるさい反逆者」

「うるせぇ熾天使!!」


二人はそう叫び合うと、目の前で銀の大剣と金銀の双剣が刃を交える。


「おっとー? やる気か姉ちゃん」

「おや? 勝てる気でいるのかな? 妹ちゃん」

「アタシのアレイ=イデアは姉ちゃんのこと大好きだからすぐ決着つきそうだな!」

「私のルナソルドちゃんもリリィのこと大好きだから引き裂いてくれるかもねー!」

「会話の内容が意味不明だよ二人とも...」


いつもの光景に、私たち白聖騎士団ホワイトアーサーはその姉妹の剣闘を酒場や噴水広場、アリセル城郭内の家々の屋根上で見守っていた。


***


「それで、話ってのはどんな話なんだ?」


ルリルが本の整理が終わったら話があると言っていた。今、ルリルが椅子に座って一服しているのを見て俺がそう尋ねた。

するとルリルは俺の向かいの席に座って話す。


「まずは、レンがここに来た経緯からでも話そうかな。レン自身、気になってるだろうし」

「確かにそうだな」


俺は高校からの帰り道に唐突に死んでから次の日だったか、聖界と魔界の二つある上界の内、魔界に転生した。

詳しいことはよくわからないが、俺の父さんが関係していることは間違いない。


「レン」

「なんだ?」

「ボクはレンをここに連れてきた張本人だよ」


ルリルがいきなりそんなことを口にする。俺は理解が及ばず首を傾げる。


「ボクはレンのお父さん、シャルルをここに連れてきた人の娘で、シャルルの息子のレンをここに連れてきた人ってこと」


俺に理解ができるよう、そう説明をする。

俺を連れてきた──つまり転生させた人が、このルリルということか。


「ボクのお母さんはシャルルのことが好きだった。彼女は当時下界に居たシャルルの死を天界から見ていた。シャルルはあの時まだ十五歳、死ぬには若すぎた。それにお母さんは、優しくて、強くて...大好きだった彼とまだ一緒に居たいと願った。だから、熾天使であるミカエルから力をもらって、神と人間の交錯する世界──天界と下界を繋ぐ世界──熾天世界を作り上げた。人呼んで、聖界」


少し混乱しつつも、話を促した。


「...なるほど、それで?」

「それで、ウリルお母さんは初代聖女王になって、シャルルを聖界に転生させることには成功した。もちろん最初は受け入れてもらえなかったけど、一緒に過ごしてく内に次第に受け入れてくれるようになって、いつしかすっかり仲良くなってね。しばらくの年月が経った時、彼女は彼に結婚を申し込んだ。ずっと大好きで、愛してたシャルルに。でも...」


ルリルが少し目を伏せる。


「....でも?」

「シャルルはそれを拒絶した」

「え? どうして...?」

「...シャルルには既に好きな人が居たんだよね」

「なるほど...片思いだったってわけか」

「そういうことだよ。それから二人は大して距離が縮むことも、遠ざかることもなく、十九歳になった。その時彼らはもう天界に戻ってたんだけど、そこでお互い違う恋人を連れて、同じ式場で結婚式を挙げた」

「おー、それはおめでたいな」

「でしょ、ありがと。それでね、ボクのお母さんは今のボクのお父さん、ロリエルと結婚したんだ」

「ロリエル?初めて聞く天使の名前だな」

「ロリエルお父さんはね、元々はこの世界の人じゃなかったんだよね。君みたいな転生とはまた違う方法でここに来たんだ。まぁそれは長くなるから今は置いておくよ。お母さんからはお互い一目惚れだって聞いたよ」


ルリルはそう言うと、一瞬の間をおいて、話しだす。


「そして、その一年後にボクが産まれた。それと同時期にシャルルとの子を既に身ごもっていたルシフェルも産後婚してね。その時産んだ子が──君だよ、レン」

「....は?」


シャルルがルシフェルという人物と結婚して、俺を産んだということを聞く。

ということはそのルシフェルが俺の生みの親ということなのか?

いや、でもそうだったら...。

俺を産んだのがそのルシフェルだとすると、だ。

俺をここまで育ててくれた俺の母と名乗る彼女は?

神野志保は?

実の親じゃないなら、なぜ俺をここまで....。

俺がそんな考えを巡らせていると、ルリルが俺の思考を読み取ってか言う。


「その志保って人は君の親でもなんでもない、ただの下界人だよ。君の世界の言葉で言うと、日本人ってものらしいね」

「....なら志保は...」

「レンにとっては育て親って立場になるかもね。血のつながりなんて一切ないし」

「そうだったのか...」


ルシフェル。

確かギリシア神話では、最も美しい女神だったが、堕天使となったことで有名なルシファーの別称だったか...?

ギリシア神話の内容がそのままなのかは、さっき会話中に出てきた神々に会ったことが無いから今はまだ分からないが、俺の母さんが元より大天使であることはすでにアイザたちから聞かされていた。


「レンがルシフェルとシャルルの間に産まれた子だってことは理解してくれたかな?」

「...あぁ、普通信じれないはずだけど、この世界に来てからもう感覚が麻痺したかもしれない」

「そりゃそうだよ」

「逆にお前らに訊きたいことがあってさ」

「...どうぞ?」


アイザとルリルが首を傾げる。


「俺は大天使になったシャルルと大天使のルシフェルの子供なんだよな?」

「うん、何回も言ってるじゃん」

「だったら、なんで俺は下界で育てられたんだ? 親が下界に降りて来て育てたならまだしも、赤の他人の神野志保に?」

「そのことかー...レンは、天界と上界、下界のの間にはそれぞれ天地接鏡(エンデントマーグ)ってのがあることは知ってるよね?」

「あぁ、カティから聞いたぞ」

「レンは天界で産まれたんだよ。十八年前に。けど君が五歳になって間もないドラグナラ5年の冬に、それをくぐって下界に堕ちちゃってさ」

「待て待て待て」


俺は疑問が多かったため、話を停止させる。


「なんだよドラグナラ5年って?」

「あー、ドラグナラってのはこっちでの年の数え方みたいなもの。確かそっちだと西暦ってやつで、二〇四五年くらいだったかな?」

「....ちょっと整理させてくれ...」

「分かった」


まず俺はシャルルとルシフェルの間に二〇四〇年十二月二十四日日に、こっちの暦に直せば、Drg.0に生まれた。

それで二〇四五年――Drg.5――俺が五歳の時、エンデントマーグを転落して下界・日本の神奈川に。

そんな俺を下界の東京で拾って育てたのが、俺が実の母と勘違いしていた神野志保であり、彼女との血縁関係は皆無。

天界から堕ちた俺を連れ戻すために、俺の父親・シャルルと関係の深い聖女王ウリエルの娘・ルリルが俺を転生させて今に至るのか。

複雑すぎて分からなくなりそうだが、なんとなく流れは掴めた気がするぞ....。


「そういえば私たちより一日レンの方が先輩なんだよー」


アイザが俺の思考に割り入ってそう告げる。


「一日俺の方が先輩ってことは、俺が二〇四〇年のクリスマスイブの十二月二十四日生まれだから....」

「私たちはDrg.0のクリスマスの日――十二月二十五日に生まれたんだよー!」

「年号というか西暦と違う言い方だからか、あんま実感わかないけど...」

「二〇四〇年とか私ら上界の百倍くらいの歴史持ってるよね、下界」

「天界の一万分の一にも満たないけどね」

「天界と比べたらどの世界も勝てっこないでしょ! 比べちゃだめだよ!」


アイザがそう笑いながら言う。ルリルはそれに微笑みかける。


「....って」


俺は忘れかけた疑問を口に出す。


「ん? どうしたの?」

「なんでクリスマス知ってるんだ!?」


西暦がないなら、あのキリストから生じたクリスマスの日も無いはずだが...言い方からして上界にも馴染みのあるイベントのように感じた。


「あーそれはね、シャルルが下界から持ち込んでくれたもの!」

「シャルルが?」

「そう、ボクのお母さんがいきなり天界に行ってシャルルが代理で聖王になってくれてた時に、聖界民は当然不安がった。下界から来た謎の少年に王なんて任せられない、ってね」


まぁそうだろうなと頷く。


「そこで、シャルルはみんなに信頼させて、支持してもらえるようにするために聖大祭(シャテリア)を年に1度開くことにしたり、クリスマスを持ち込んできたりしてくれてね。おかげで聖界全体が少し明るくなったんだ」

「へぇー、シャルルすげぇな」

「シャルル凄いよほんと」

「そのこともあって、シャルルが今も学園でも家庭でも語り継がれてるんだよね」

「とまぁ、楽しいお話はここまでにして」


ルリルが唐突にそう告げると、俺の目を見据えてきた。

俺は少し引き目に彼女の視線を感じる。


「レン」

「な、なんだ?」

「あの時、レンを殺したのはボクだよ」


ルリルの口からそう罪の告白が零された。

俺は一瞬で理解し、唸る。


「あー...あぁ、そうか」

「ルリルだけじゃなく私もお手伝いさせてもらったよ!」


アイザが挙手をしてそう告げる。


「...笑い事じゃないんだけどなぁー」


俺がそういうとアイザが俯うつむいて


「うぅ、ごめんなさいだよ、レン...」


と謝る。

そこで俺はふと、気付いた。


「...あ」

「ん?」

「どうしたの、レン?」

「あの時見えた白い羽と銀髪の少女ってもしかしてお前だったのか!?」


俺はルリルを指さす。

ルリルはあっけにとられた顔をした。


「え、今更?」

「遅いね」

「鈍感で悪かったですねぇ!」

「うん。まぁ、それでね、下界から上界に連れてくるには転生させる以外の方法がなくてね。だからボクはアイザに頼んで下界に連れて行ってもらって、レンに会って、レンの動きを止めてそれで....息も止めたんだ....ごめんね...レン。ほんとに。ごめんね....」


ルリルがそう真実を俺に語る間、彼女の頬を一滴の涙が伝い零れる。

涙を見せたくなかったのか、ルリルは俺とアイザに背を向けた。


「ボクの、勝手な判断で...ボクの勝手な理想のためだけにレンの命を奪った....本当にごめんね――!?」


一瞬ルリルの体がふらっと揺らいで。

それを俺は――


「...レン、カッコイイとこあるじゃん」


アイザが言う。

俺は俺の腕の中で泣く彼女の頬を指で撫で、涙を拭う。が、すぐにまた涙が頬を濡らしていった。

彼女の顔は、驚きに満ちていて。


「え? ....レン?」


俺は、泣いた恥ずかしさゆえか後ろを向いてしまったその銀髪蒼瞳の少女を後ろから抱きしめたのだった。

それはとっさに。

本能的に。

ルリルを抱きしめた。

泣き崩れかけたその小さな背中を支えるために。

または違うかもしれないが、今はその理由なんていらない。


「ったく...泣くなよルリル」


俺はルリルの胸元で組んだ腕を放した。

ルリルはいまだに驚きを隠せないまま俺に振り向きじっと見つめてくる。

俺は再び、赤らめた頬に零れた涙を指で拭った。


「聖女王様ともあろうお方がこんなに泣いててどうすんだよ」


ポンポンと銀のさらさらした髪の頭を撫でる。

ふわりと、甘い香りが俺の鼻に香った。


「そもそも俺はルリルとアイザに殺されたってことに関しても、この世界に強制連行――いや、強制転生させられたことに関しても、なんとも思っちゃいないからなー? 何せ、今こうして生きてるんだし、あの時微塵も痛みを感じなかったからか、俺は死んだ自覚すらなかったしな」


俺の言葉に二人はきょとんとしていた。


「そ、そうなの?」

「あぁ。これは俺の推測だが、お前あの時俺に痛みを消す魔法とか使ってくれてたんじゃねーか?」


その言葉にルリルの肩が少し浮く。


「そうなんだな?やっぱり」


俺の確認にルリルが頷く。


「息ができなくなって、意識が薄れていく中でも俺は冷静に最後まで思え事してたんだ。普通あの状況になったら自分の首根っこ掴んだりして苦しんでたはずだが、俺はそれを感じなかった。その代わり、その訳の分からない状況を理解するのに必死になっていて、気付いたら死んでた」

「そう、だったんだ...」


ルリルは未だに顔を上げないまま俯いている。

そんな彼女に俺はとびっきりの笑顔で言った。


「そんな申し訳なさそうな暗い顔しないでくれよー、俺と居るのが嫌みたいじゃんかー」

「そ、そんなことは──!」

「じゃぁ、笑いなよ」

「...だって、ボクは──!」

「だってなんていらないからさ」

「え....?」

「ごめん....」

「俺はお前らからの謝罪とか一切望んでねーっての」


二界の女王様から謝罪されたところで俺がどうということはない。


「...だったらレンは私とルリルちゃんに何を望むの?」


アイザが切ない表情で訊く。

アイザの隣でルリルも俺の答えを待ちわびるように俺を見る。


「俺がお前らに今望んでんのはただひとつ!」


俺は人差し指を天井に向かって突き立てると、その指を二人に向けて。


「──お前らの笑顔、だよ」

「私たちの....」

「笑顔...?」

「あぁそうだ笑顔だ! さっきから二人して下向いてばっかじゃん? そんな顔見せられたら申し訳ない気持ちにしかなんないって! だから、笑えよ、二人とも。笑ってくれよ、な?」

「わ、笑えば....いいの?」

「そう、笑えばいい」


すると彼女たちは、笑う。

けどそれはぎこちない笑顔で。


「やっぱ女の子には笑顔が一番似合うな」


俺のその言葉に二人はびくっと肩を動かし、頬から顔が赤くなり始める。


「なんだ、照れてんのかよ」

「「照れてなんかない!!」」


彼女らは二人で声を合わせてそう言う。

声が重なったのが面白かったのか二人は顔を見合わせて大きく笑った。


「ま、俺がここに来た経緯とかも理解したことだし、とっととエルメスのとこ行こうぜー」

「どんだけエルメスのこと好きなんだよレン」

「いや、好きとかそういうんじゃないからな!?」

白聖騎士団(ホワイトアーサー)がどんな人たちなのか、気になるんだもんね」


ルリルが俺の真意を突く。


「よ、よくわかったな?」

「レンのことくらい分かるよ」

「そ、そうなのか?」

「何年の付き合いだと思ってるんだか...」

「小1時間」


その俺の回答にため息をついてキッと睨んでくるルリルが


「レンなんかもう知らない」


と吐き捨てて、光の粒に分解され始める。

俺はそれを止めようとルリルの手を強くつかみ引いた。


「おぉぉい待て待て待て...!」

「!?」


ルリルの光がかった体が元に戻る。


「待てよ、ごめんな! でも、俺の記憶には今の記憶しかなくって....」

「......待て待て待てはこっちのセリフだよ」

「へ?」


ルリルの表情を確認すると、驚愕していた。


「お前、何にそんな驚いてんだ?」

「....今の、どうやったの?」

「今の?」


理解力が平常運転してしまっている俺にアイザが説明してくれる。


「あっははぁ...あのねぇ、レン。レグレートってのは転移中には絶対外部から触れられないはずなんだぁー。だから、連れ戻されることも無くて、緊急時にその場から逃げれるように全界民に習得が義務付けられているんだけど...」

「コイツ...普通に連れ戻しやがった....」

「こ、コイツ!?」


ルリルの唐突な口調の変化に俺が驚いていると、


「ルリルちゃん、荒れてる荒れてる」


というアイザの声ではっと我に返ったルリルは俺に歩み寄ってきて、下から睨むと思いっきり

パァァン――と。


「いっっっっっ...たぁぁぁぁぁああ!?」


思いっきり平手で頬をぶたれたのだった


「うはは...」


当人はさぞかしご満悦のようで、にこにことしている。


「なぁ、痛いからな普通に!? ってかなんで俺がぶたれねぇといけ...」

「ボク何も言ってないよね?」

「いやいや、おもっきし俺のことコイツって言って....」

「ボク、何も、言ってないよね?」


ルリルはにこっとした笑顔の中に氷のように冷ややかな威圧をかけてくる。

流石にこれ以上怒らせると俺の身の危機が感じれたので。


「はい、言ってません」

「はい、いい子いい子ー」


ルリルは俺の満足の行く回答のためか、俺の頭を撫でる。


「ちょ、なにやってんすか」

「よしよし」

「いや、それは分かるんだが...」

「からの....」


彼女は手を横に広げて、それを俺の頬に全力で叩きつけた。


「忘れろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」

「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!?」


同じ場所に二発目を食らい、痛みのあまり床に尻をつき頬を抑える。

ジンジンと、一定間隔で痛みが伝わってくる。


「ルリルちゃんやりすぎ...」

「はずかしかった。動機は十分だよ」

「それだけで二発もぶたないでもらえませんかね!?」

「まぁまぁ、そんなときもあるさ」

「軽いなぁ! んーもうこんなんしてる場合じゃないっての! さっさと白聖騎士団んとこ行こうぜ」


俺は頬を抑えつつ立ち上がった。


「そうしようか。そろそろお昼だし、多分みんな聖皇都営食邸(アルトリア)に居ると思うし」

「私たちもレスタランでごちそうしてもらおっかな!」

「レストラン、な」

「そうなの!?」

「シャルルが教えたのか?それも」

「そうだよー! この接客システムといい、料理のおいしさといい、回転も速くて大人気なんだよー」

「第一次産業革命の母、やるねぇ」

「シャルル、男なのに母なんだ」

「あ、えと...そうだね」


ルリルはふとアイザに視線を送る。


「ルリルちゃんも他人のこと言えないねぇー」

「うるさい」

「ごめんごめんー」


アイザは目を反らす。

まぁ、何かあったのだろう。そっとしておこう。

そして俺らは白聖騎士団が経営していて自らも利用しているというアルトリアとやらに向かった。


***


「!?」

「ど、どうした姉ちゃん!? いきなり止まって...」

「...なんか来た...」

「なんかってなんだよ...」


この気配、天力持たずしてこの魔力量、この圧、この雰囲気――!

間違いなくあいつだ。


「ははっ、やっと来てくれたか、お前」

「姉ちゃん...素出てるぜ?」

「...にゃん?」

「いやそれは怖い」


待ちに待っていた。

ルリエルが上界に連れて来てくれたのは知ってたが、まさか自らここに来てくれるとは。

相変わらず、神破りな神だな...。


「レスタラン行くぽよー!」

「レストランな!? あとなんだ、ぽよー、って!」


私、シャナと妹のリリィはそうしてレストランに向かった。


***


チリンチリンー...。


「おっ、すげぇ」


入り口のガラス張りの扉を開くと、日本のファミレスとかによくある入店を知らせる鈴の音がした。


「こんなとこまでこだわってんのか...」


辺りを見渡すと、木でできたテーブルと座席が数列並んでいて、店の中央にある柱を中心に螺旋階段があり、二階と3三階があることが見えた。

テーブルには白いローブをまとった白聖騎士団の人々が多く座っていて、卓上には数多くの料理がならんでいた。

そんな俺らの存在に気づいたのか、


「おぉぉいお前らぁ! 女王様が来られたぞー!」


と、最奥のテーブルで仲間たちと酒を飲み交わしていた金色のひげを長く伸ばした金髪の上裸の筋肉爺が立ち上がり、みなに来客を知らせる。

それを見て周囲の白聖騎士団の男女が次々と立ち上がり俺らを囲んで歓迎し始める。

その中で一番近くにウサギのように跳ねながら寄ってきた獣人と思われる少女。

彼女は俺の半分以下の背丈で、茶髪の短い髪に、茶毛の耳と尾を持ち、白いローブがマントのようになびく。


「にゃーっほー! ルリル様もアイザ様もいらっしゃーい!」

「こんにちはミャラぁ! 元気そうだね!」


ルリルがミャラと呼ばれたその獣人の少女の頭を撫でる。


「わぁーミャラちゃん久しぶり!」

「アイザ様お久しぶりですにゃぁ!」


アイザとミャラが手を組んで喜び合う。

その子はちらっと俺の方を見て体もこちらに向けると、


「あっれれー? 君はもしかしてアルルちゃんかなぁ!? ひっさしぶりぃ!」


と俺の名をちゃんと間違える。

間違えてる訳では無いのだろうが、俺はその名を知らないからやめて欲しいと思う。


「はい?」

「にゃにゃ?」


俺の反応に首を傾げるそのミャラはルリルを見やると、ルリルが首を小さく横に動かしたのを見て頷く


「アルルちゃん...だよ、ね?」

「レンだけど何か?」

「...んにゃぁ....?」


アルルと呼び続けてくる彼女は何がしたんだ...。


「人違いじゃねぇの? 俺はアルルでもないし、そもそもお前みたいな獣人族に会ったの初めてで興奮してるんだけど...」

「にゃにゃにゃ!? アルルちゃんはアルルちゃんだし...私にゃんかに興奮してるのかにゃ!? まだ胸は小さいにゃるよ...?」

「なるほど...レンはロリ獣人っ娘性癖持ちなのか」

「だー! ちがーう!」


興奮には性的興奮以外にもいろいろあってだな....。


「ミャラ、アルルはレンだよ」

「アルルがレンってどういうことにゃるか?!」

「もうアルルはアルルだった時の記憶は持ってないよ。だから今はレン。本人も...まだ自覚してないみたいだし、記憶結晶を探すしかない」

「にゃるほど....やぱやぱやぱりこれはあいつのせいにゃるね!」

「そうだね! やぱやぱやぱりこれもあいつのせいだよ!」


ルリルとミャラが理解不能な会話を始めたので俺は割り入って訊く。


「もしかしてさ」

「ん?」

「アルルってのは俺が天界に居た頃の名前か?」

「おぉ、その通りだよ、レン」

「あれれ、もしかして思い出し...」

「...てはないけどな」

「なぁんだ」

「けど、理解してくれたみたいでよかった。よくわかったね」

「まぁ、あれだけ呼ばれればな」


と三人で会話していると、アイザが


「いつご飯食べれるのー...」


と、お腹を押さえて言う。


「そんなに腹減ってんのか」

「だってもう一時だよ!?」

「ボクも食べたいかも。食べよ?」


俺らの会話を聞いていたのか、さっきの筋肉爺が厨房側に向かって叫ぶ。


「だってよぉアンさん!! とびっきりうめぇ料理頼むぜ!! お代はワシが持ってやらぁ!」


それを聞いて厨房のカウンターからひょこっとシェフ服を着た若い男性が顔を出して首を頷いて答えた。

爺はがっはっはと豪快に笑うと、


「レン様よ! 女王さんたちを頼むぜぇいこれからもよぉ!」


と俺の背中を彼の大きな掌で叩き、去り際に、


「あぁ、言い忘れてたが、ワシぁ白聖騎士団員のアガスト・ヴェデルってんだ! よろしく頼むぜぇレン様よぉ!」


俺に振り向き右手を俺の前に突き出す。


「あぁ、よろしくな! アガスト!」


俺はその大きな手を握った。あっちはがっしりと強めに握り返してきた。


「じゃぁな、リーダー!」

「おう! またな!」


そうして彼は大股で元の席に戻って行った。


「ん? リーダー?!」


今気づいたが、いつの間にかリーダーと呼ばれてしまっていた。


「大丈夫、あの人、自分が尊敬した人には勝手にそう呼んでるの。決してレンが白聖騎士団のリーダーに任命されたとかじゃないから心配しないで」

「良かった。ビビったぜほんと。...うっし、そんじゃ食おうぜ!」


俺らはコック棒を被ったシェフに案内された席へ座ると、さっき言っていた〝とっておきのうんめぇ物〟とやらを3人で腹いっぱいになるまで満喫した。

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