第9話 終わりある絆
「はぁ」
ため息が出る。
「どうすればいいんだ、俺は」
あれからというもの、女王二人によるエグゾディエルの堕天執行を目の当たりにした王狩りは一目散に去って行った。
追い討ちに再び大魔法を放ちかけるルリルをアイザがなんとか制御しエグゾディエルに操られていた市民たちは救われて事なきを得た。
「俺が、神なのかよ」
いまだにアイツの記憶から得た情報に理解が苦しむ。魔皇都の俺の部屋のベッドに横たわって、その事について悩んでいた。
俺はゼウスとヘラとの間に生まれた神族・レンヴェルの末裔であり、薄れず残った神の血筋がある。
ウリエルとシャルルが王狩りと戦ったあの時期、エグゾディエルらが既に生まれ来る俺を生前から狙っていたことに、アイザの親がとんでもない悪事を働いていることも知ってしまった俺は、カティが去り際に放った言葉の意味を理解した。
でも恐らくアイザには俺への敵意なんか無いんだよな。少なくとも俺への殺意なんかは見えなかった。むしろ見えるのは幼少期からの絆みたいなもの。
まだその全ては思い出せずとも、少しずつ理解は深まっている。
そんなことを考えながら、ふとベッドのそばに目線が移る。
いつも起きると隣でおはようを言ってくれていた存在。
彼女が毎度座っていた椅子を見ると彼女との思い出が思い起こされる。
「カティ...懐かしいな」
でもカティはもう居ない。
「はぁ...」
止まないため息。
どうしても受け入れられずに居る。理解しようとしても、脳がそれらを咀嚼するに至らない。
そんな俺を見かねてか、ルリルが俺のベッドの端に腰掛ける。アイザは少し離れた位置で本を読んでいた。
「ん? どうした、ルリル」
「どうした? はこっちのセリフ! さっきからため息ついてばったかだけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ、心配しないで」
「大丈夫じゃないでしょ。大丈夫な人はそんな暗い顔しないしため息もつかない」
「...それもそうだな」
「どこまで、知っちゃった?」
「全部、って言うべきなのかな。あいつの持っている記憶は全て持ってるかもしれない」
「そっか...ってことは自分のことも少しは分かった?」
「まぁ...信じ難いけどこれが事実なんだろうしそのうち受け入れるよ」
「ごめんね、アルル。まさか君にそんな力があるなんて思わなくて、連れていっちゃって」
「俺が自分から勝手に知りに行ったことだ、気にするまでもないよ」
「...そっか」
ルリルはそう言うと俺に体を乗り出して言う。
「...どうしたんだよ」
「んーん、なんでもない」
「なんでもなくないだろ、何か言いたげだったぞ」
「...そうだけど...」
「言ってみな?」
「やだ」
「なんでだよ」
「やだもん」
「やだじゃない、教えて」
俺が問い詰めていくとルリルは諦めたように濁した言葉を俺に伝えた。
「大好きだよ、アルル」
「は?」
自分からしつこく聞きに行ったのは確かにそうだが、突然の告白に頭が真っ白になった。
「それ本気で言ってんの? ルリル」
「もちろんだよ、こんな大切な言葉を嘘で言わない」
「...まぁ確かにそうか?」
「うんそうだよ。ほんとに好きなんだよ」
「お、おう?」
「...そもそもボクはアルルの許嫁だったんだ」
「いいなず...け?」
「そう、形は違えど契約結婚ってやつかな」
「俺とお前が...?」
「そう」
気になった俺はルリルの胸の内を見てしまう。
そこにあったのはただ一つの恋情。
俺への愛が剥き出しになっていた。
自分から見に行ったものの、いざ本当だと知ると恥ずかしい。
「え、お前...俺の事好きだったんだな...そんな前から」
「今心読むな! もっと早くから分かってなよ! このバカ!」
ルリルはその言葉にそう言って肩をポコポコと叩いてくる。
「痛い痛い痛い、ごめんってば。ほんと、落ち着いて、ごめんって!」
ルリルは殴り終えるとムスッとした顔で俺を見る。
「それで...君はどうなんだよ、アルル...」
「どうって言われてもなぁ...」
俺がルリルに対してどう思うかなんて訊かれてもな。
こんな可愛いやつに急接近されたこの状況で、しかも相手から告白に近しいものをされてしまった。
俺はここでなんて言うべきなんだ?
好きだよ、と素直に返せばいいんだろうか?それだと単純すぎて冗談だと思われるに違いない。
彼女いない歴=年齢、十七年間冴えない人生しか歩んでなかったが故に恋愛経験ゼロな俺には難しすぎる問題だった。
そんなことにあたふたしてる俺を見てルリルがクスッと笑って言う。
「カティに言われた言葉をそっくりそのまま言うけど、こういう時に干渉拒絶を使わないとですよ」
「...お前もしかして今の全部見てたな?」
「ばっちり」
俺はふと本に夢中になっているアイザを見て、彼女にも尋ねる。
「アイザも...?」
するとアイザは本を閉じてにっこり笑顔で答える。
「見てないなぁ〜彼女いない歴=年齢、十七年間冴えない人生しか歩んでなかったが故に恋愛経験ゼロなアルルなんて見てないな〜」
「ばっちり見えてんじゃねぇか!」
俺の反応に二人は大満足なようで大きく笑う。
「まぁ、俺はルリルの事が好きだよ...それも今好きになったんじゃなく、かなり前から」
「ボクはアルルが四歳の時からずっと好きだったけどね」
「そんな前から!?」
「ルリちゃんったら一目惚れだったんだから! それからずーっとアルルのことばっか見ててほんとに可愛かったんだよー! ね? ルリちゃ...」
アイザがルリルの幼い頃の話を着々とバラしていって、ふとルリルを向いた時、彼女からの冷徹な視線に気づいた。
「な、なぁにかなぁその物騒な手は〜? もぉしかしてその矛先私だったりするのかなぁ?」
ルリルは右手の拳を強く握り締めアイザに向けていた。その手は次の瞬間俺のベッドへと振りかざされると、ルリルが枕を掴みあげ、俺へとぶん投げる。
「んごふっ!!」
そして顔面に直撃した枕。
「いってぇな! 何すんだよ!」
「そこに枕があった。それだけだ」
「やっぱりヴァイオレンスプリンセス・ルリルに改名しようぜお前」
「やだね」
「なんでだよ、お似合いだって絶対」
「暴力的な姫になった覚えはないからね」
「今現在そうなってるんですけどねー!?」
「...」
ルリルは一瞬黙ると、すぅと短く息を吐く。そして俺を見て言った。
「ねぇアルル」
「なんだ?」
「ボクのこと、本当に好き?」
「そうだけど?」
「そっか...ボクのどこをそんなに好きになってくれたの?」
「どこ...か」
少し言い淀んでしまった。ルリルはそんな俺を見て不安がったのか。
「まさかとは思うけど...さっきボクが一気に迫って来たから流れで好きって言った...とかじゃ...」
「そんなわけないだろ。元々ルリルのことは好きだったし、ちゃんと自分で考えて答えを出した。流れで好きっつったとかそんなのじゃないし、心配しないでくれ」
「アルル...」
俺の言葉に安堵したようでルリルはふと姿勢を正す。
「アルル」
「なんだかしこまって?」
「ボクと付き合ってくれないかな?」
そう愛の告白を告げるルリルに答える答えは俺にはひとつしか見当たらなかった。
これまで何年も離れ離れになっていて、されどずっと好きでいた存在。
「もちろんだよ」
「ほんとに? ほんとのほんと? やっぱなしはなしだからね??」
「ほんとだよ。先に告白されちまったけど、いずれ俺から、とは思ってたんだ。形は違えど本望だよ。俺はルリルが大好きだ」
「ボクもアルルが大好きだよ」
「...いざ言われると恥ずかしくなってくるな」
「そうだね」
俺とルリルは一緒に笑う。
彼女のいたことない俺にはこれからのことが想像も出来ないが、やりたいことはできるうちにやらないとな。
「あと二十一日、だね」
「ん?何がだ?」
「あと二十一日で結婚できちゃうね、ボクら」
「あぁ...確かにそうだな」
俺はこの十二月の二十四日、ルリルは二十五日に誕生日を迎え、晴れて十八歳となる。そう、成人だ。
どうやらこの世界でも成人年齢は同じようで、つまり、結婚も出来てしまう。
「約束して」
「約束? なにを?」
「ボクをもう1人にしないって、約束して! ボクも絶対アルルから離れないし守るから!」
ルリルのその言葉は約束というより、俺が離れて行くことへの不安を掻き消すためのものだろうと解釈しつつ、
「当たり前だ。俺だってルリルのことは他の誰にだって譲りやしないよ」
「....アルル...ちゃんと男になったんだね...」
「人間成長するものですから」
生まれてこの方彼女は愚か、女の子に触れたことすらない俺。
そんな俺の無知さゆえ、この先ルリルに迷惑をかけることも少なくはないだろう。それでも俺は、一緒に居たいと思ってしまうのは自分勝手だけど、それでもそう思わせて欲しい。
いつからルリルを好きになったか、実を言えばハッキリとした記憶は無いが、こんなにも好きが溢れるくらいに好きなのが現状だ。
「二人とも、私がいること忘れてない?」
「あっ、居たんだアイザ」
「ひでぇなルリル!?」
「ひっどーい! そんなこと言うの、ルリルちゃん!」
「冗談だよ、ごめんねアイザ」
「んー、別にー! 私からしたらやっとかって感じだけどね!」
「それもそう、だね」
ルリルはそう俺を見つめて言う。
「まぁ...あそこまでずっと一緒に居て、今になってやっとかって感じ俺もあるな」
「どっかの誰かさんが意気地無しな童貞さんなおかげでルリちゃんから切り出しちゃったねー。ルリちゃんかわいそー」
「うるさい!」
「わー! 暴力反対だよー! ヴァイオレンスプリンス・アルルの誕生だー」
「このっ....すぅ...」
俺はアイザを追っかけ回そうとしたが辞めた。
「人のこと言えないんだから、アルルも」
小さく笑うルリル。
まぁ何はともあれ、今夜はいつになく忘れられない夜になるんだろうな。
***
「...おはよう?」
「アルルおはよ」
「ルリちゃん奪ったアルルおはよ」
「ちょっとアイザ、人聞き悪いこと言わないで」
「いったーい! 暴力はんたーい!」
朝目を覚ますとベッドの上で、俺の隣にルリルとアイザが居たのだが、アイザの言い放つ嫌味に対して暴力姫が俺を跨いで手を伸ばしアイザをペシっと叩いた。
「女王に法律なんて通用しないから大丈夫」
「だめじゃん!!」
「だってここボクの世界だし」
「ルリちゃんじゃなくてウリエルじゃん創始者は」
「....んーまぁ、同じだよ」
「違うよ!?」
「お前ら、俺を跨いで喧嘩しないでくれ」
俺はそう言って起き上がる。
「いやそもそもとしてここ俺のベッドだろーが! なんでお前ら布団の中にまで入ってきてんだ」
「添い寝」
「だね」
「...そうですか」
「にしてもお腹すいたね」
「ボクもお腹すいた。アルルは?」
「俺も腹減ったな。アルトんとこ行こうぜ」
「行こうか」
「そうだね」
そうして俺らはアルトの元へ向かった。
いつも通りアルトに出迎えてもらい、ご馳走してもらった。
その後俺らは再び部屋に戻って長らく話をしていた。
「そういえば次の聖大祭はどうする?」
「確かにどうしよっか」
「なんだシャテリアって」
「シャテリアってのは年に一回ある聖界のお祭り。シャルルが代理で聖界王になってた時に作ったイベントだね」
「あーなんか前言ってたやつか。もうすぐなのか?」
「いや、イベント自体はまだまだ先だね。来年の夏くらい。でも毎年今くらいから準備には取り掛かってるんだよね」
「思ってる以上にデカい規模なんだな」
「そうだね。今年行ってみればわかると思うよ」
「ルリちゃんたちは二人で行ってきなよ! 私は二人でもう行ったことあるし、今年もそのつもりだから」
「二人?」
「え、お前彼氏居るの」
そう尋ねられたアイザは慌てながら。
「いや、それはえーと...わ、私に彼氏なんてできるわけないじゃないですかヤダー」
「嘘下手か」
「嘘だけは昔から下手だよねアイザ」
「うぅ....そうだよ! 彼氏と行ったよ! 私の方が早く彼氏できてたから私の方が勝ちだね!へっ!」
「わー負けたー」
「アイザ流石すぎー流石魔界女王さまー」
「ねぇそろそろ泣くよ!?」
「ごめんって」
アイザにも彼氏がいるとなると、俺とルリルが付き合った今からは更に会う機会も少なくなってしまうのだろうか。
「それで! シャテリアどうするの」
「毎年どんなことやってんの?」
「聖学園の子達がライブやったり、踊ったり、商人がマルシェみたいな感じで出し物したり...」
「文化祭かよ」
「そうそれ。それを世界規模でやろって言ってたらしいよ君のお父さん」
「でも面白そうじゃん」
「面白いよ、すごく」
「楽しいしね」
「行きてぇな」
「行こーね」
「とりあえず開催地だけでも決めておきたいんだけど、どうする?」
「んー...エンデントプールでいいと思うんだけど」
「最初に開催した場所と同じとこ?」
「そう」
「でももう昔みたいに広いとこないよ?再開発でどんどん建設しちゃってるし」
「確かにそうだったね...もうアヌシェルでいいんじゃない? あそこ確か広場あるし」
「ごめん、まじで話に入れない」
「アルルはしょーがない。だってこの世界の地名とかなんも知らないもん」
「んーじゃぁこの話はまた次の機会に」
「それじゃあアルル、ルリルちゃんの愛の巣にでも行ってくれば?」
「愛の巣?」
「ちょっとアイザ?」
「あれ、これって言っちゃダメだった?」
アイザがふとこぼした愛の巣のいう言葉にルリルが怒っていた。
それを見て俺はいつもの展開だなとは思っていたが、ルリルはなかなか本気でアイザを殴ろうとしていて。
「それはやめとけ、アイザ死んじゃう」
「大丈夫、こんなんじゃ死なない」
「死なない程度だったら良いわけじゃないよ!?」
「でも! ボクの威厳に関わる!!」
「ヴァイオレンスプリンセスの名のもとに?」
「ごめん標的変わった」
そう言ってルリルはアイザでなく俺へその握った拳を向ける。
「ルリちゃんやっちゃって」
「ねぇ俺の場合ルリル止める人いないのなぜ」
「ルリちゃんをそんな名前で呼ぶから」
「...それはそう」
「まぁ...とりあえず一発殴らせて」
「ばっちこい! ルリルのパンチくらい屁でもない!」
「魔装していいってこと?」
「まて、それは話が変わってくる」
ルリルはそう言って握る拳になにやら青い光をまとった。それは雷を宿してるようにバチバチと音を立てる。そんなの食らったら痛いどころの騒ぎじゃない。
「まぁ、ルリルはそんなとこも可愛いよな」
「....いきなりそんなこと言うのタラシって言うんだよ」
「たらしてねぇわ!」
「無自覚なのが一番タチ悪いんだけどね、アルル」
「そうだよほんとに」
「まぁそういうとこもアルルっぽいって言うか変わってないって言うか」
「まあとにかく」
ルリルはそう言って、
「愛の巣は今度つれていってあげるから」
「気になるんだけど。なんなのそれ」
「行ってからのお楽しみ」
「...そうか、なら楽しみにしとくよ」
それから俺は三人で色んな話をしていた。
そこで、昨日のノアとレアの話も出た。
レアは元々別世界の人間で、聖魔、天界にも属さないらしく、海の世界──海世と呼ばれる場所から来たと言う。
そこに関して詳しいものは何も分からずレアから海の世界以外にも色んな世界があるとルリルが母ウリエルが教わった。
レアはシャルルとウリエルが瀕死にされ、逆に瀕死にした堕天使アグメルを転生出来ないようにトドメを刺した人物がいることも教えた。
それがどんなトドメかのかは分からないらしい。
その子供であるノアがさっき俺らの邪魔をしてきたのは恐らくエグゾディエルが市民に放った思考を操る魔法に不意にかかってしまった為だ。レアの娘とだけあって、その別世界からの力は子供であっても侮れない。
俺と女王の名を聞いてハッと我に返ったと言うが、エグゾディエルの魔法をそれだけで解除できるというわけだ、圧倒的な力の片鱗が見える。
また、エグゾディエルについても多く話した。
彼は俺の親戚の叔父にあたり、ニーベルグという人の子と結婚し、息子アヴァロンが生まれた。
かつてはとても優しく真面目な人だったが、魔界ができる前からある魔術、今では古魔術と呼ばれている物に影響され、その性格はねじ曲がってしまった。
目的遂行のためになら手段は選ばない。
そんな感じだ。
それからというもの、彼は人生を転落していき、大天使であった面影は微塵もなくなった。挙句の果てに俺らの前に現れ、淡い最期を迎えた。ニーベルグが死んだのも相まって、その感情を抑えれず俺らへ矛先を向けたようだ。
「アルル」
「ん? どうした?」
ルリルが沈黙を破って俺を呼ぶ。
「ボク、未だに許してないからね」
「...何を?」
「カティにキスしたこと」
「....それはその」
「言い訳は聞かないよ。事実キスはしてるんだし。このボクを差し置いて、ね?」
「...そうだな。ほんとにごめん」
「許さない」
「許してくれるとも思ってない。どう償えばいいか分からないけど、これからルリルに後悔させないよう楽しませてあげたい」
確かに俺のファーストキスは、カティのものになってしまった。
それに対し、ずっと俺を好きで、俺も好きだったルリルが嫉妬を抱かないわけがなかった。嫉妬どころか、カティへほかの感情すら浮かんでいるだろう。
俺はあの時、かなり悩んで答えを出したつもりだった。でもそれが正しいとは言えない。
「アルル」
アイザが俺を呼ぶ。
「アルルはカティに会うより前から、少なくとも転生して私に会った時辺りから好きな人がいたんでしょ? その時は実像を模さないただのシルエットしか見えてこなかったけど、そんな誰かが居たのは分かってる」
「...ずっと...好きだった人」
「そう、それが誰だか、今ならわかるんじゃない?」
そう言って、アイザが俺の両手を握ってくる。ひんやりとした何かがすっと頭にまで流れた気がした。その手はすぐに離れると、
「あっ」
俺は思い出す。
俺がアイザに会うより前からも好きだった人。確かに俺は毎晩誰かへの感情に悶々としていた。妹がいると志保から聞かされた俺はそれを会ったことのない妹という存在に押し付けていた。そうとしか考えられず。けど実際は違った。
「わかったかな?」
「あぁ...」
今更だった。あまりにも今更だった。
なんだ、こんな答えか。
あの時、転生する手前、姿も見えない中声だけが聞こえた。その声に安心したのはそういうことだった。
幼い頃からずっと一緒にいて、ずっと一緒に遊んで、そして急に離別した。
「え?」
ルリルは俺の心内を見たのか驚く。それもそうだろう。
だって俺は、全てを思い出したのだから。
『──もういいかい──』
それは、ルリルが俺に伝えようとしていた言葉。
幼い頃の俺はルリルとアイザと三人でよく遊んでいたな。かくれんぼなんてもう何年してないんだろうか。それでいて、今こうして思い出すのはルリルの存在だった。
「アルル、もしかして」
ルリルは俺を覗き見る。
「思い出した、よね?」
俺の思考の一部始終を読み取っていたルリルは理解した。
「そうだな、やっと、心の中にあったつっかえも、十年もの間消えなかったもやもやも、今全部消え去ったよ」
俺はそう言ってルリルの澄み切ったその青い双眸の輝きを直視する。
そしてあの時の答えを。
今まで伝えられなかったままの応えを。
「もういいよ、ルリル。ただいま」
この間、ずっと終わらないままだったかくれんぼを終わらせるように、そう答えた。
それを聞いたルリルは目を見開いて、すっと俯く。見えずとも笑みを浮かべると、俺の目を見て、今まで見た事のない過去最高級の笑顔で言う。
「おかえりアルル!」
そう言って彼女の目が潤んで涙がこぼれていく。
「おいおい泣くなって!」
「だって! 嬉しいんだもん!」
笑いながら涙を零すルリル。
「戻ってきたんだ、アルル! あの、アルルが! アルルが...!」
「そうだよそのアルルだからもう泣くなー?」
思いを留められず俺への愛が一気に注がれる。
十年以上離れ離れでいた上、ずっと好きでいたのならこうなるのにもうなずけるだろう。
「許嫁、か」
「そうだよ、ボクはアルルだけのお嫁さんだよ」
「俺もお前だけの旦那だよ」
互いに好きも言えぬまま、エグゾディエルのせいで急に離れて、もう会えないと思って当時の俺は泣きじゃくっていた。
だが、下界へ堕ちた途端に徐々に記憶は薄れていき、わずか一ヶ月程で俺の記憶は無くなり、アルルとしての俺を失い、俺を拾ってくれた神野志保が名付けたレンとして生き続けた。
何知れぬ俺は小中高と早々に成長していき、そしてルリルとアイザに殺され強制転生。
聖魔天三界のうち、魔界へ。
その後、門前に倒れている俺をライムが不審者と思い捕らえられた地下牢での目覚めから始まり、アイザ、カティ、エルメス...色んな人と出会い、そしてルリルとの再会が果たされた。
「そういえばアルル」
「ん?」
「どうしていきなり記憶が戻ったの?」
「確かに言われてみればそうだな」
俺らの疑問に対してアイザが言う。
「もー二人ともー! 長い間記憶喪失だった人の記憶が戻るなんて、そんなのひとつしかないじゃーん!」
「え?」
アイザは唇に人差し指を押し当てる。
「キスしたからに決まってるじゃん!」
「アルルとの」
「キス...か」
俺らは少し疑うが、それ以外妥当な答えが見つからず。
「そうなのかもな」
そう納得するほかなかった。この世界なら非科学的なことも有り得てしまうのだし。
「んで、愛の巣って何?」
「っ...?」
ルリルの肩がぴくっと浮く。
「今から連れて行ってあげるよ。あとその恥ずかしい呼び方やめて」
「じゃぁなんなんだ」
「アリスリマギュールそのものなんだけどね」
「...愛の巣なのか?あそこは」
「アイザが勝手にそう呼んでるだけ、気にしないで」
「なんだよ」
俺はそう笑って。
「二人で行っといでよ〜! 楽しんできなよ〜?アルル! 私もこれから用事があるからここらでバイバイだ〜」
「わかった、またね」
「またなアイザ、ありがと」
俺らはそう言って別れる。
***
ルリちゃんとアルルが去った。
私は自室のベッドに飛び込んで布団を抱きしめる。
「アヴァロン...」
私は彼氏の名を呼んで、妄想をする。
「何考えてんだろ、何も無いのに」
もう付き合って半年も経つ。
けど三ヶ月以上会っていない。
「こんなに好きなのにな....なんでかなぁ...」
会いたいと言っても今はできない、またいつかな、って先延ばしにされ続けている。
浮気を疑ってしまうが、アヴァに限ってそんなことはないと思いたい。
「会いたいなぁ...うぅん...」
アヴァのことで頭がいっぱいになっていく。
....。
あれ、私、どうしてアヴァと付き合ってるんだっけ。
....。
あれ、私、アヴァのことを好きになったんだっけ。




