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灯火のリセル  作者: カジリーノ
本で知った世界
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第六話:王都、その夢の先へ

王都――グランフェルド。

それは、憧れ続けた夢の終着点であり、旅の本当の始まりだった。


五日目の朝。

前夜、倉庫裏で寒さに耐えながら夜を明かしたリセル・フレアライトは、誰よりも早く街道に立っていた。

目の下には隈、足元は重い。

だが、赤い瞳には一点の迷いもなかった。


辛い思いをしても、すべてをすられても、ここまで歩いてきたのだ。

夢を叶えるために――王都で“家”を持つ、その未来のために。

空は澄み、遠くの空に白くそびえる壁が朝日に染まりはじめていた。


「……もうすぐ、だね、フレマ」


肩にかけた鞄は軽い。食料も魔力も限界すれすれ。けれど、歩く足には力があった。



丘を越えた先――ついに、王都の姿が現れた。

石造りの巨大な外壁が、遠くからでもその荘厳な存在感を放っている。

高く伸びた塔は、雲を貫くほどの高さで、そこから伸びる旗が風にたなびいていた。

街全体が、城を取り囲むように広がっており、見渡す限りの建物の屋根が陽にきらめいている。


「……すごい……」


思わず足が止まった。

焔の里では到底想像もできなかった光景。


“あれが、王都”


憧れが、目の前にある。

その事実だけで、胸がいっぱいになる。


「ねぇ、フレマ……あそこに、私の“未来の家”を建てるんだよ」


返事はない。けれど、手にした杖の紅水晶が、陽の光を反射して柔らかく輝いた。

それだけで、十分だった。



王都・グランフェルドの南門。


大きな石造りの門が開かれ、多くの旅人や商隊が出入りしていた。門の前には兵士が複数立ち、身分証や通行許可証の確認が行われている。

列に並びながら、リセルは少し緊張した表情でフレマをぎゅっと握った。


(大丈夫、大丈夫……今までも、どうにかなってきた)


やがて自分の番が回ってくる。


「おう、ひとり旅か? えっと……身分証は?」


「えと……ないです。焔の里から来ました、リセル・フレアライト。冒険者志望で……」


若い門番の兵士は軽く眉を上げたが、すぐに表情を緩めた。


「なるほど。じゃあ仮通行証を出すよ。宿泊は南区でな。北区や中心街は商人・貴族用だから、まずは南通りで慣れるといい」


「はいっ、ありがとうございます!」


「あと宿だけど、門の通りをまっすぐ行って、三本目の路地を左に曲がると、〈風車の羽根亭〉って宿がある。安いけど、飯もちゃんと出るし評判も悪くない。初めての旅人向けにはちょうどいいだろ」


リセルは深々と頭を下げて、通行証を胸に抱えて門をくぐった。



王都の中――それはまた、別の世界だった。


石畳の道が縦横に走り、両脇には木組みの家が立ち並ぶ。窓辺に花を飾る家もあれば、露店を広げるパン屋、果物屋、道具屋がひしめき合う。

子どもたちが走り回り、旅人風の男女が地図を手に相談し、通りの角では竪琴を抱えた吟遊詩人が歌を奏でていた。


そのすべてが、リセルにとって“初めての光景”だった。

思わず目を輝かせ、ひとつひとつに見入ってしまう。

手作りのマフィンが売られている。色鮮やかな布地が風にたなびいている。

猫が屋根の上からのんびり通りを眺めている。

まるで、夢の中を歩いているような気分だった。


「……すごい。ほんとに、全部が違う」


でも、違うのは景色だけじゃない。

そこに生きる人々の姿――誰もが“何かを持っている”ように見えた。


仕事を持ち、役割を持ち、日々の暮らしの中に自分の場所を持っている。


リセルは、まだ何も持っていない。

でも――


「私も、ここに“居場所”を作るんだ。絶対に」


決意は、昨日の夜の悔し涙よりもずっと熱かった。

王都で家を建てる。ここで、火魔導士として名を上げる。

そのための第一歩を、今この瞬間、踏み出したのだと、胸を張って思えた。



南通りの三本目――

道幅の狭い石畳を抜けた先、小さな広場の一角に、その宿はあった。


《風車の羽根亭》。

木の板に手描きの風車のマークが揺れ、窓にはレースのカーテン。外には宿泊者らしき荷物が積まれ、屋根には小さな風見鶏が回っていた。

リセルは宿の前に立ち、ふぅっと息を吐いた。


「……ようやく、ここまで来た」


小さく、誰に向けるでもない言葉をこぼして、リセルは扉へと手を伸ばした。

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