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灯火のリセル  作者: カジリーノ
新たな旅立ちと仲間
18/42

第十七話:火柱、服を着せ替えられる

王都南区・服飾通り。

石畳の両脇には、染物屋、裁縫店、装飾小物の露店、そして冒険者向けの防具兼衣服を扱う店舗が軒を連ねていた。

色とりどりの布地が風に揺れ、道ゆく者の目を引く。

柔らかいリネン、丈夫な革、魔道繊維入りの高級品まで。あらゆる「着る」という概念が詰め込まれた通り。


リセルは、その中心で困り顔になっていた。


「……なんで、こんなことに」


フィリスに手を引かれ、布と布の間を引きずられるように歩いている。

その後ろからは、心配そうにノエルがついてきていた。


「見てよこの店! ほらほら、この赤! 火の子ちゃんにぴったりでしょ!」


「いやっ、これ背中空きすぎじゃない!?」


「燃える女には背中で語ってもらわないと!」


「何を語るのさ!!」


引っ張られながら店に入ると、すでにフィリスが三着ほど抱えていた。

肩を露出したチュニック、丈がギリギリなスカート、そして――なぜかラメ入りの布まで混ざっていた。


「ほらほら、とりあえず着てみて! 火魔導士は見た目の“炎感”も大事!」


「この“炎感”が火柱って言われるんじゃないの!?」


「その通りです、だからむしろ逆手に取ろう!」


勢いで試着室へ押し込まれかけたそのとき、背後から落ち着いた声が届いた。


「フィリスさん。少し、落ち着きましょうか」


ノエルである。


「リセルさんは、派手になりたいわけではないと思います。自分らしく、動きやすくて、少しだけ綺麗になれたら、それでいいんじゃないですか?」


「……うう、正論……!」


バツの悪そうな顔でフィリスが口を引き結ぶ。

リセルはノエルに助けられたとばかりに小さく頷いた。


「……そう、かも。あの、火を使うからって、服まで燃えそうじゃなくてもいいと思ってて」


「でしょう? だったら、もっと自然で可愛いのがきっとあります」



それからしばらく――

三人は通りを回り、各店の品を見比べながら、ようやくひとつの服にたどり着いた。

それは、黒と赤の魔女の服で目を引くデザイン。広がるローブは赤い裏地と印象的で、腰のベルトにある金の飾りが火を思わせる。落ち着いた魔導士風のコーディネート。


チュニックは動きやすく、裾と袖には控えめな炎模様の刺繍があしらわれていた。

背中も腰も露出しておらず、けれど軽やかで、どこか凛とした印象を与える。


「……これ、なら……動きやすいし、見た目も、ちょっと……いいかも」


「うんうん、火の子ちゃん、似合ってるよ! これで今日から“脱・芋!”だね!」


「やっぱりその言い方やめて!!」


けれど――リセルの頬は、どこか照れくさそうに赤かった。

新しい服を着て、鏡に映る自分を見たとき。

ほんの少しだけ、王都の空気に溶け込めたような気がしたのだ。



購入を終え、帰路につく頃には、三人の手に小さな袋がいくつかぶら下がっていた。

飴玉入りの袋、布の手袋、魔力封じのヘアピン――おまけのような品々が、今日の思い出を彩っていた。


「こういう日も、悪くないですね」


ノエルが微笑む。


「うん……なんか、冒険以外でも、“自分のこと”してる気がした」


リセルも静かに頷く。

火柱と呼ばれ、笑われていた自分。

でも今日、少しだけ“その名に恥じない火”になろうと、歩み始めた気がする。


「じゃ、明日からはちゃんと戦闘服として着ていこ! あたしも明日は何か依頼受けるから、また組む?」


「……その前に“変な服買わされないか”心配かも」


「も~~う! それ信頼なの!? 不信なの!?」


笑いながら、三人の影が王都の街路にゆっくりと伸びていった。

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