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灯火のリセル  作者: カジリーノ
新たな旅立ちと仲間
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第十四話:湿地の跳ね声、火の子の咆哮

王都の南東に広がる草地の丘を越え、さらに下った先に――その湿地はあった。

昼を回った頃、リセル・フレアライトとフィリスの二人は、目的地であるグリュード低湿地にたどり着いた。

地面は柔らかく、水を多く含んだ苔と草の匂いが立ち込めている。時折、ずるりと足を取られるほど泥濘んでいて、陽射しのない日なら本当に足場が悪いだろう。


「ふぅーん……湿ってるけど、風は通ってるね。空気は悪くない」


フィリスが周囲を見渡しながら言った。

一方のリセルは、靴の泥を気にして小刻みに足踏みしていた。


「うう……想像よりぐちゃぐちゃ……」


「大丈夫?火の子ちゃん。転ばないでよ?」


「転びませんよ!!」


ふたりの声は、湿地に響きながらも、やがて遠くから――バシャン!という水音にかき消されていった。



それは、間違いなく“跳ねる音”だった。

水たまりが揺れ、藪がざわめき、続いて聞こえてきたのは――ぬめった重い足音と、濁った「グゴォォ……」という低い鳴き声。


「……来るよ、火の子ちゃん」


「はい……!」


視線を凝らす。

藪をかき分けて現れたのは――子供ほどの体高を持つ、大きなカエルだった。


全身はぬめった緑に覆われ、腹は膨らんでいる。

目は左右に飛び出し、まばたきもせず、じっとこちらを見据えている。

その横から、もう一体――二体。

依頼通り、三体のカエルが跳ねるように迫ってきた。


「数、ちょうどだね。さーて、まずは一匹潰そっか」


「了解……! 正面、私が引き受けます!」


リセルはフレマを構えた。

足場は悪いが、敵は火に強くないはず。

いける――冒険者初めての、魔法戦。


両足を踏み締め、呼吸を整える。

魔力の流れを体に引き込み、腹の底に炎の種を宿すような感覚。


「……いける……!」


相手が跳ねた。

水しぶきをあげて、こちらへ一直線に跳躍してくるカエルの魔物。

リセルは詠唱を始めた。


「――灯せ、紅の螺旋」


杖の先端に火が集まり、渦を巻いていく。


「焼き尽くせ――!」


そして――


「《フレイム・ピラー》!!」


地面を抉るように上がった炎の柱が、跳ね上がるカエルの腹に直撃した。

爆ぜた火花と水しぶきが混じり、悲鳴のような鳴き声が響く。


――それは、確かに、“冒険者らしい一撃”だった。


「よっしゃ! 一撃で怯んだよ火の子ちゃん!」


「まだ来ます! 左、もう一体!」


咄嗟にフィリスが前へ出て、腰から粉をばらまく。


「《フラッシュパウダー》!」


閃光が走り、飛びかかってきたもう一体が足を滑らせて地面に激突する。

その隙に、リセルが火球を構える。


「いけっ!」


二撃目の魔法が炸裂し、敵の背を焼く。

残る一体が咆哮をあげて、真正面から突っ込んでくる。

だが、もう怯まない。

リセルは一歩も引かず、魔力を集中させた。


(これで……今日は限界。でも、決める!)


杖を突き出す。

火の奔流が直撃。跳ねかかった魔物の体を包み込み、焼き払う。

水音、叫び、爆ぜる音。


全てが消えたとき――そこには、倒れた三体の魔物と、肩で息をするリセルの姿があった。



泥だらけの靴。火照った額。魔力酔いの前兆のような頭の重さ。


けれど――


「……勝った……!」


小さくつぶやいたリセルに、フィリスが親指を立てた。


「やるじゃん、火の子ちゃん。派手にぶっ放して、カエル三体まとめてごちそうさまって感じ!」


「う……今、ほんとに魔力ギリギリです……」


「ははっ、その顔、完全に“使い切りました”って顔してる!」


笑いながら、フィリスは泥だらけのリセルの肩をぽんぽんと叩いた。


「それにしても、あんたの火――見栄え、すごいよ。あれ見たら、“火柱”って呼ばれてもおかしくないかもね」


「それ、広めないでくださいよ……!」


二人は泥の中で、しばらく笑い合っていた。

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