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灯火のリセル  作者: カジリーノ
新たな旅立ちと仲間
13/42

第十二話:冒険者っぽい一日

朝日が東の城壁を黄金に染めるころ、王都《風車の羽根亭》の玄関を、勢いよく飛び出す少女がひとり。


「よーしっ! 今日こそ、“冒険者っぽい”仕事、いってきます!」


リセル。王都に来て三日目、正式なギルド登録からは二日目。


昨日の倉庫掃除で稼いだ宿代はしっかり財布にしまい、身支度は万全。フレマをしっかり握りしめて、胸を張って通りを駆けていく。


ギルドで受け取った今日の依頼は――


【薬草採集依頼】

依頼主:王都薬房組合

内容:指定地域にて薬草(ルビア草)15束の採集

場所:王都南の平原(グリュード斜面)

報酬:銅貨10枚

期限:本日中


内容を見た瞬間、リセルは目を輝かせて飛びついた。


(草を採るだけだし、魔物も出ないって言ってたし! なにより、ようやく“外に出て冒険してる感”あるじゃん!)


荷袋、簡易ナイフ、採集用の手袋、巻物地図。準備万端。

門を出る前に、南門の警備詰所へと立ち寄った。


「おはようございます!」


元気な声に、椅子に座っていた門番のひとり――快活そうな若者兵士が顔を上げる。


「あれ、この前の子じゃん。今日は……お、冒険者っぽいぞ?」


「えへへ、ありがとうございます。薬草採りの依頼、行ってきます!」


「ははっ、やるじゃねぇか。気をつけてな。平原でも日が暮れると寒いから、帰りは早めにな」


「はーい!」


手を振って門をくぐる。朝の風が、ほんの少しだけ旅人の匂いを運んできた。



王都の南に広がるグリュード平原は、丘が幾重にも重なり、風がよく通る明るい草原だった。

空は高く、雲は薄く流れ、野花がところどころに色を添えている。

木陰にはウサギや野鳥の姿も見え、魔物の気配はない。


「いいとこじゃん……! ここ、好きかも」


手元の依頼書を確認し、腰を下ろして地面に目を凝らす。

探すのはルビア草。丸い葉に淡い紫の縁取り、花のない品種で、主に解熱薬の素材になるという。


「ふんふん……このへんかな?」


しゃがんで探す。見つけて摘む。葉を確認して束ねる。


……一束。


「よーし、あと十四!」


――と、意気込んだのも束の間。


二束目、間違えて毒性のある似た葉を掴んでしまい、軽くかぶれる。

三束目、草むらに潜んでいた虫にびっくりして尻もち。

四束目、腰を痛めながら前かがみで時間がかかる。


気づけば日が傾き始め、風が少し冷たくなっていた。


「うぅ……これ……地味にキツい……!」


喉は乾き、手袋の中の指も痺れ気味。おまけにローブの裾は泥だらけ。

昼食用に持ってきたクラッカーは道中で砕け、ほとんど粉になっていた。


それでも――


「あと……あと一束……!」


膝をつきながらも、最後の草を丁寧に包む。


「終わった……!」


空を見上げたとき、太陽はもう西へ傾いていた。



帰り道。王都の南門が見えてきた頃には、リセルはほとんど「帰還兵」のような有様だった。

髪は汗で乱れ、頬には泥の跡、ローブはずっしり重く、腕も足も鉛のよう。


それでも、歩き続ける。

夕暮れの光の中、門番詰所の前をふらふらと通りかかると、朝と同じ兵士がリセルを見つけて、声をかけてきた。


「おー、無事帰ったな! ……って、うわっ!? な、なんだその格好……!」


思わず吹き出すように笑う。

リセルは眉を吊り上げて叫んだ。


「わ、笑わないでくださいっ! これでも、ちゃんと任務は完了してるんですからね……!」


けれど、言い返しながらも、どこか笑っていた。

自分でも、情けない見た目だとは思う。けれど、その姿こそが、自分がちゃんと“働いた”証でもあった。


「うんうん、冒険者ってのは、そういうもんだ。今日もひと仕事、お疲れさん!」


「……ありがと。明日は……もうちょっと冒険っぽい仕事がいいなぁ」


ふらふらと背中を向けながら、リセルは再び、王都の街へと帰っていった。

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