065. 黒咬病 (12)
伝染病の黒咬病。リアルの病気を題材にしてます。
これを使って話を作れないかなぁ~と書き始めて・・・現在12話目。
いつもより長めですね。
※空守り
アスランの機体が高度を上げ、雲へ入る直前──
耳元の通信が、不意に震えた。
『アスラン、聞こえるか。忍だ。』
「忍殿? どうした。」
いつもの落ち着いた声が返ってくる。
『沿岸の神殿と教会にはすべて連絡済みだ。通過する地域には“空守りが飛ぶ”と伝えてある。』
その言葉の意味を理解するには、ほんの一拍で十分だった。
『擬態色、解除していい。本来の姿で、海の上を“真っ直ぐ”走れ。』
アスランは思わず息を飲んだ。
「……本気で?」
『ああ。国王も、俺も、見せたいんだ。移動団の“空の速さ”を。誰にも追いつけぬ、誰にも真似できぬ、お前たちの守りを。』
忍の声は穏やかで、しかし胸を震わせるほど強かった。
『行け。アスラン…見せつけてこい。“空守り”の力を。』
アスランは深く息を吸い、一言だけ返した。
「了解──全力でいく。」
操縦席の横のスイッチを押し込む。
機体表面を覆っていた擬態の魔紋が、ぱちぱちと音を立てて剥がれ、本来の輝きが露わになる。
白銀。
月光を固めたような、鋭い光。
次の瞬間、アスランはスロットルを最大へ。
「──行くぞッ!」
轟音ではなく、空気が悲鳴を上げるような衝撃が走る。
機体が一直線に海面へ降下し、高度を数十メートルまで落とす。
※海上
海面が、ざわりと波立つ。
次の瞬間──真っ直ぐな“水の壁”が一筋、海の上を走り抜けた。
「うわ……っ!?」
沿岸の漁師たちは、慌てて網を抱えたまま立ち上がる。
空を裂く銀光。
海を二つに割るような直線の波。
だが、気付く。
これは自然の波ではない。
白銀の何かが走っている。
一直線に。迷わず、揺らがず。
教会の塔に立つ神父は祈りを止め、ただ空を見た。
「……あれが、空守り……」
波は折れずに遥か彼方へと続き、機体の姿は見えぬほどの速さで消えた。
※陸地
アスランは高度を上げ、大地すれすれを抜ける直線ルートへ入った。
その軌跡は、まるで山肌に一本の銀色の線を描くように残る。
草が揺れ、砂が舞い、木の葉が風に吹き飛ばされる。
しかし破壊は最低限。
ただ“通った”と分かる、細い道だけが地上に刻まれていく。
沿道の神殿にいた巫女は息を呑んだ。
「……あの光が、街を救った者……?」
彼女の袖を引く少年が、小さく呟く。
「すごい……空を走ってる……まっすぐ……全部。空守りって、あんなに速いの?」
巫女は微笑みながら、頷いた。
「そう。彼らは“人を救うため”なら、どんな空でも走り抜ける。」
その言葉が終わるより早く、白銀の機体は遠くの空に消えていた。
※王都を走る緊急報告
海に面した王都の砦。
夕陽が落ち、見回りの兵が静かに交代していた。
その時だった。
「おい……あれ、見えるか?」
若い兵士が海面を指さす。
最初はただの白い筋にしか見えなかったが──
「違う……波じゃない……一直線だ……!!」
白銀の光が、海面を切り裂きながらこちらへ向かっている。
通常の舟の比ではない。
速度が化け物じみていた。
「上級監視兵を呼べ!! 海面に“何か”が高速で接近中!!」
鐘が鳴らされ、砦が騒然となる。
※河口の監視塔
「河口方向より未確認物体接近ッ! 速い! 異常に速い!!」
塔の兵が王城へ向けて合図旗を振り始めた。
その背後で別の兵が叫ぶ。
「川に入ったぞ!? 海から……そのまま川に……!?」
「いや待て、落ちてない! 水に沈んでいない!! 飛んでいる!!」
「空を……川沿いに飛んで来るのか!?」
恐怖とも驚愕ともつかない声が塔に響く。
◆王城・警備指令室
合図旗を見た信号兵が顔面蒼白で駆け込んできた。
「し、指令官殿ッ! 海側の砦より緊急信号!
“未確認高速物体、河口より侵入!!”
“空路進行、速度測定不可”とのこと!!」
指令官が立ち上がる。
「城の魔導障壁を準備しろ! 近衛隊、迎撃配置──!」
そこへ、さらに塔からの続報が飛び込んだ。
「監視塔より追加報告!! “白銀の光体、王都川を上昇中!”
“沿岸の船が次々に風圧で転覆寸前!!”」
「なんだそれは……!?」
城の廊下にも緊張が走り、兵たちが視線を川へ向ける。
※王城の高塔・監視台
高塔の兵士が、風のように駆け込んだ。
「来ます!! 川沿いを……光が……光が走っています!!」
塔の外へ出ると、川面の上に“白い道”が伸びていた。
その奥から、音より速く、光より強く──白銀の機体が迫ってくる。
「そ、そんな……これが……“空の守り”か……?」
兵士たちが息を呑む。
※城下町の反応
川沿いの市民が叫び始める。
「なんだあれ!?」
「光の舟か!?」
「いや、空を飛んでるぞ!?」
「神の使いじゃないか!?」
「城へ向かってるぞ!!」
子どもたちは歓声を上げ、商人たちは店先から飛び出し、神殿の神官たちは思わず祈り始めた。
「……ご加護を…… あれは、救いの光なのか……?」
白銀の軌跡は、まるで王都全体を一筆書きで貫くように川をさかのぼっていく。
その姿は確かに、“空の守護者”としか思えなかった。
※王都上空への帰還航路
白銀の機体は、まるで光の筆で空を描くように、王都の中央を流れる大河をそのまま遡っていった。
川沿いにはまだ興奮と混乱が渦巻いている。
人々が叫び、祈り、走り、ただただ空を見上げた。
しかしアスランの操縦席の中は、静かだった。
「川幅……良し。 高度そのまま、上昇ポイントまで三十秒。」
彼は計器を見つめ、王城の方角に延びる直線航路を正確にトレースする。
忍の言葉が脳裏をよぎる。
『見せてやれ。空守りの“速さ”を。お前だけができる守りを。』
アスランは軽く息を吐き、操縦桿を握り直した。
※川面を駆ける白光
王城の城壁が視界の端に見え始める。
川沿いの建物が迫るにつれ、群衆の声がひときわ大きくなった。
「来たぞ!! 城の方へ行くぞ!!」
「なんて速さだ……!!」
「空を……飛んでるんだな……」
城壁の影からは弓兵や見張りが身を乗り出している。
誰もが手を止め、目を奪われていた。
白銀の機体は川面すれすれを保ちながら速度を徐々に落とし、王城の位置を計器で再確認した。
「着陸指定位置、訓練場。誘導灯、確認。」
王城の中庭、広く整えられた訓練場には、すでに兵たちが退避を完了していた。
出迎えの近衛隊が円陣を敷き、宰相と王直属の医師団が中央にスタンバイしている。
そして、指揮塔の頂上で、監視兵が叫んだ。
「白銀の光体、王城上空へ到達!! 旋回入ります!!」
※上昇と旋回
アスランは操縦桿を引き、機体を川面から一気に引き上げる。
銀の翼が月光を弾き返し、王城を見下ろす高さまで上昇した。
観測塔では兵士たちが息を呑む。
「……美しい……」
「本当に、人が操っているのか……?」
白銀機は頂点で速度を落とし、滑らかに姿勢を変える。
城の上空で大きく円を描くと、まるで城を守るかのように一度ゆっくり旋回した。
王城のバルコニーでは王が立ち上がり、宰相が深い感嘆の息を漏らした。
「……あれほどの速さを見せながら、この正確さ……。確かに、神の器かもしれぬ。」
※着陸態勢へ
アスランは着陸用魔導板を起動し、速度をさらに落とす。
「着陸態勢へ移行。訓練場、風向き良し。問題なし。」
城の北側へ滑るように旋回し、訓練場上空へゆっくりと機体を導く。
下では近衛隊が盾を下ろし、医師団が積載ポッドの受領準備に入った。
遠く、街の住民たちも川沿いからこの光景を眺めていた。
白銀の機体は、王城の真上からゆっくりと下降を始め──
やがて、訓練場の真上へと到達した。
※白銀の着陸
白銀の機体は、王城北側の訓練場の上空で静かにホバリングを始めた。
魔導エンジンの低い唸りが大気を震わせ、砂塵が円を描いて舞い上がる。
「着陸許可、確認……降下開始。」
アスランが操縦桿を倒すと、機体は音もなく滑るように下降した。
下では近衛兵が盾を構えていたが、その表情にはもう恐怖はない。
ただただ、人の力を超えた光景に圧倒されているだけだった。
「……本当に降りてくるんだな」
「落ちない……揺れ一つない……」
兵士たちは口々に呟いた。
訓練場の中央には医師団が待機し、王の側近たちまでもが固唾を飲んで見守っていた。
白銀機は地上すれすれで一度静止し、そのままそっと脚部を伸ばす。
──コォン。
魔力脚が地面に触れた瞬間、周囲にほんのかすかな振動だけが広がった。
「着陸……成功。」
訓練場に静寂が満ちた。
次の瞬間──
「うおおおおおお……!!」
「なんて美しい……」
「これが……空を守る者……!」
兵士たちの喉から、抑えきれない歓声が漏れた。
※降り立つ白銀の操縦者
キャノピーが開く。
内部から、汗を拭いながらも優しい目をしたアスランが姿を現した。
梯子を慌てて運んできた兵士が、震える手で機体にかける。
「す、すぐにお掛けします! こちらへ!」
「ありがとう。落ち着いていい。」
アスランは穏やかな声で返し、ゆっくりと梯子を降りた。
砂地へ足をつけた瞬間、周囲の兵士たちは自然と道を開けた。
まるで神殿の祭礼を迎えるかのように。
※積載ポッドの取り外し
アスランが機体側面のパネルを開くと、整備兵たちは息を飲んだ。
「この部分が……積載機構……?」
「魔導と機械の融合だ……こんなもの見たことがない……!」
アスランは迷いなく操作を行う。
「まずは胴体下の輸送ポッドを降ろす。ここに液体薬が入っています。」
ゴウン、と低い振動がし、胴体下のコンテナがゆっくりと地面へ降りてきた。
医師団が駆け寄る。
「この量……すぐに治療が開始できます!!」
「前回の液体分と同等の量です!」
アスランは頷く。
「次に──こちらが粉末薬。」
左右の翼下にある小型ラック四基。
それらが同時にロック解除され、整然と地面へ降りていく。
「な、なんと……これだけ……?」
「液体の四倍量……!? 王都全域に十分だ……!」
宰相は震える息で呟いた。
「……アスラン飛行士。よくぞ、これほどの量を……」
アスランは静かに肩をすくめた。
「基地の皆が協力してくれました。
“必ず届けろ”と……。
彼らの想いも、ここに詰まっています。」
※医師団・近衛隊・宰相の反応
医師団の長が一歩前へ出た。
「すぐに運び、保管室へ移します! 液体は緊急区画へ。 粉末は神殿の魔封庫へ!」
「よし、動け!!」
近衛兵たちがカーゴを曳いて走り出す。
宰相はアスランの正面に立ち、深く頭を下げた。
「本当に……よく戻ってくれた。王都だけではない。この国全ての命が、そなたの背に支えられている。」
アスランは首を横に振った。
「私は皆の力を運んだだけです。守ったのは、あなた方の意思です。」
その言葉に、周囲の兵士たちの胸が熱くなった。
※街の反応(訓練場の外)
訓練場の外では、川沿いに集まった市民たちが騒ぎながらも興奮していた。
「中に入ったのか!? あれが!」
「王様のところへ薬を届けたんだろう?」
「これで……助かる……!」
人々は涙を流し、子どもたちは空を何度も見上げた。
「また来るかな……あの光……?」
投稿順を確認していたら、話数が合わん?
探して見たら、黒咬病の12話目が抜けてた。
まだ配信前に気付いて良かった・・・です。




