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7/12

暗幕

俺は自分の部屋のベッドに腰かけ、一人考え込んでいた。


街は相変わらず賑やかだ。


うまく開き直れたお陰で、ずいぶん楽になった。


とりあえず状況を整理してみよう。


ふたたび俺は部屋にあったチラシの裏に、状況を書きだした。


・イジリもギャグもネタもウケる

・しかし女王には通じない

・そして逃げることは不可能


ということだ。


お笑い学校では、様々な笑いの手法を教わった。


使える手法はあったかな…

そう考え込む。


ふいに先生と雑談した時のことを思い出した。


「いいか…人によって笑いのツボっていうのは…違うんだ。

たとえば身内ネタは、身内にはウケるだろ。

でも全然知らない人にいったらウケるか?

ウケないだろう…

だからな…その人の立場や環境などを知るってことが重要なんだよ・

たとえば都会じゃ草刈りのネタは響かない。

でも田舎じゃ草刈りのネタは割と刺さる。

こういうのがあるんだよ」


先生はそう言っていた。


「女王の情報収集か…」


俺はそう…つぶやいた。


俺は立ち上がり、窓の外をぼんやりと眺めた。


いつもと変わらない景色。市場のざわめき、遠くから聞こえる商人の呼び声、子どもたちのはしゃぐ声。だけど、心のどこかで、俺は違和感を抱いていた。


(あの女王は……何を考えてるんだ?)


目を閉じると、あの冷たい無表情がフラッシュバックする。兵士も貴族も腹を抱えて笑う中、女王だけが決して表情を崩さなかった。


(なぜなんだ……?)


これまで俺は、「自分が面白ければ笑わせられる」と信じてきた。けど――もしかしてそれ自体が、勘違いだったのかもしれない。


「女王の情報……」


そうつぶやきながら、俺は街に繰り出した。



広場は今日も人であふれていた。商人、職人、使用人……どの顔も忙しそうだが、何かを探している俺の目は、妙に鋭かったと思う。


「なあ、ちょっといいか?」


俺は、前にも情報をくれた焼き栗屋の親父に声をかけた。


「栗は一袋でいいか」


「いや……今日はちょっと違うんだ。女王様について、何か知ってることはないか?」


親父は一瞬顔を曇らせた。


「買わねーなら帰んな」


俺はお金を渡し、焼き栗を一袋買った。


「女王様の話は……あまり口にしないほうがいいぜ、坊主。」


「そこをなんとか頼む。」


少しの沈黙の後、親父は渋々口を開いた。


「……まあ、有名な話だがな。女王様はまだ若いのに、即位したときから“氷の女王”って呼ばれてた。感情を見せることがほとんどなくてな……両親を毒殺されたって噂だ。」


両親を毒殺……。


あーこの話か…胸がズキリと痛んだ。


「他には?」


「女王は幼い頃から、城の外にはほとんど出たことがないそうだ。城の中だけが、あの方の世界だってさ。」


(城の中だけが、世界……。)


その言葉が、頭の中でこだました。


親父は肩をすくめて言った。


「坊主、いいか。女王様は特別なんだ。庶民の俺たちの考えが通じる相手じゃねぇ。深入りしねぇほうがいい。」


「……ありがとう、助かった。」



そのあとも、俺は何人かに話を聞いて回った。


・子どもの頃から冷静で、人前で泣いたことがない。

・即位後もほとんど誰にも心を開かない。

・趣味も、友人も、恋愛の話も一切なし。


わかったことは――“何もわからない”ということだった。


(この城塞都市の中で、一番孤独なのは……もしかして、あの人なんじゃないか?)


何かが、胸の奥でかすかに引っかかっていた。


俺はベッドに戻ると、またチラシの裏にメモを書き足した。


・両親を戦争で失った?

・幼い頃から感情を出さない

・城の外の世界を知らない

・心を開かない


「……心の中が、まるで氷みたいだな。」


けど、氷っていうのは、溶かせるものだ。


(俺は……もっと、深く知る必要がある。)


そう思いながらも、具体的な打開策は浮かばなかった。


「でも……もう一度、行くしかない。」


翌日、俺はまた謁見に向かった。


今度は、ネタの力じゃなく、“想い”で笑わせるんだ――そう決意しながら。



結果は――


「退屈。」


またしても、あの無機質な声。


「処刑せよ。」


(……クソッ……まだ“外側”しか見えてなかった……!)


ギロチンの音が響く瞬間、俺は心の中で叫んだ。


(絶対に……絶対にお前を笑わせてやる!)


そして、再び暗闇に沈んでいった――。

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