脱出
また俺は自分の部屋のベッドに腰かけ、一人考え込んでいた。
街は相変わらず賑やかだ。
俺はというと
ヒドイ虚無感だ。
鏡を覗くと
まるで死神に憑りつかれたような
ヒドイ顔をしている。
とりあえず…一度寝てみることにした。
疲れていたのか…
スーッと眠りにつく。
突然目の前に表れたのは
女王の冷たい顔
そして…
その足元に転がる
俺の頭…
強烈な吐き気をもよおし、
俺は何度も吐いた。
俺はいったい何でこんな事をしているのだろうか…
そう考えだした。
俺は小学一年生の頃に笑いの洗礼をうけた。
両親とも勤めに出ており、いつも遅かったので…
人気お笑い芸人のギャグを録画し
家でひっそり何度も練習をした
学校の休み時間にギャグを披露し
みんなの人気者だった。
状況が変わったのは中学の頃だった。
ギャグを披露しても…
誰も笑わなくなった。
お笑いの感度が低い奴らだ。
俺はそう言い聞かせた。
そうだ…
お笑い芸人になろう。
そして俺の偉大さをわからせてやろう。
そういった黒い野望をもった。
高校へ進学し、アルバイトをして
お笑い養成所の学費を稼いだ。
大学に進学すると思っていた両親を
横目に俺は上京し、お笑い養成所に通った。
東京の家賃は高くって、
アルバイトの数は増えた。
でも必ず売れっ子芸人になる。
その夢は忘れなかった。
お笑い養成所を出ても
それだけで仕事がもらえる訳ではない。
お笑い芸人の総数は統計データがある訳ではないので
はっきりとしないが
およそ1万人以上
そのうちテレビで活躍するのが100~200組
劇場や営業などで安定した生活をおくれるのが1,000組
程度と言われている。
大半の芸人は、俺と同じようにバイトを併用して活動している。
(なんで……ここまでやってんだろうな、俺。)
自問しても、答えは出なかった。
ただ――
笑わせたい。
あの、子どもの頃に感じた「みんなが笑う」あの瞬間の、胸が熱くなるような高揚感。あの魔法みたいな時間を、もう一度この手でつかみたい。ただそれだけのはずだった。
……でも。
今は、何かが違う。
「死」が常につきまとい、笑いはただの「手段」に変わり果てている。
俺は、再び天井を睨みつけた。
(こんなはずじゃなかった……)
そう思いながら…
外にでることにした。
気が付くと、もう日は暮れていた。
俺は酒場に入り、飲みなれない酒を飲んでいた。
そしてそこにいた一人の男に思わず愚痴をはいた。
「俺…もうこの城塞都市から出たいんだ…」
すると男はこういった。
「城塞都市から出たら、獣人かエルフに殺されるだろう」
俺は
「そいつはわかってる。でもなんか抜け道ないかな」
しばらく考えたあと男は
「それなら地下に潜るといい。地下の世界の連中は寛容だからな」
といい、酒場の金を払い、去っていった。
地下か…
俺はぼんやり考えながら…家に戻った。
翌朝…俺は地下に潜る方法を探った。
意外なことに、同じサーカス団員がよく地下の事を知っていた。
どうも彼は地下に知り合いがいるらしい。
彼は俺の事情を知っていて、地下の知り合いを紹介してくれた。
そして俺は地下にもぐることになる。
地下の世界は、常に現実世界とは逆の動きをする。
すなわち夜は仕事で日中は睡眠だ。
地下の仕事の多くは窃盗やゴミ漁りや殺し、もしくは賭場の仕事だ。
ほとんどが非合法の仕事だ。
貧民街に入る事すら許されなかった者たちが、地下には流れてくる。
多くは戦争孤児から窃盗など前科がつき、そして今がある。
俺の依り代も戦争孤児だったが、孤児院があったお陰でここまでやれた。
しかし結局地下行きだ。
すこし孤児院のシスターに申し訳ない気がした。
そうこうしているうちに約束の期日が過ぎ。
そして更に1週間が過ぎ。
女王が崩御されたという噂が流れた。
OK―――ゲームクリアだ。
俺はガッツポーズをした。
しかしその瞬間、背筋を這うような寒気が走った。
……いや、まだ終わってない気がする。なぜか、そんな嫌な予感がした。