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模索1

俺は自分の部屋のベッドに腰かけ、一人考え込んでいた。


俺が生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのに、街は相変わらず賑やかだ。


とりあえずだ。

とりあえず状況を整理してみよう。


状況を整理しないと、前世の自分と今世の自分ライラックの記憶が混同して、訳がわからなくなる。


俺は部屋にあったチラシの裏に、状況を書きだした。


ライラックは孤児とはいえ、孤児院で読み書きを習っており、文字は書ける。そういえば、誰かが孤児院が閉鎖されると言っていたような…


それはさておき…

情報整理だ。


・7日後までに女王を笑わせるのがミッション。

・ミッションをクリアすれば下級貴族に

・クリアできなければ処刑

・クリアするまで死に戻りさせられる

・死に戻りは強烈に気分が悪い

・以前の依り代は3回で精神が崩壊した


俺は何回持つのだろうか…


ふとそんな気分になった。


そうだ。状況分析だ。


ライラックはなぜ失敗したのか?何をやったのか?それを思い出したみた。


1回目 いわゆるふつうのピエロの芸 転んだり…ボールに乗ったり、ジャグリングをしたり、そしてそこにたまに失敗を入れたりする。

正直…わりとレベルが高いと思う…

うーん。これがウケないんだ…

中世くらいの時代感なら…これはウケそうなものだが


2回目 つぎはパントマイムだった。

これもかなりレベルが高い…

これもウケそうなものだが…

女王というのは、笑いのレベルが高いのか…


そして最後

3回目 これは目も当てられなかった。

女王を前に、冷や汗をかき…

小便をもらし…

そして逃げ出した。


芸人人生の全てをかけて、望んだんだろう。

それがまったくウケない。

この絶望感は…

他人事ではない…


俺は売れない芸人ながら…

お笑い学校を卒業しており、お笑いの知識はある。

舞台経験もある。

小学校のころはお笑いキングと呼ばれていた。


中世の笑いではクリアできなくとも

俺には現代の笑いがある。

いわばこれはチート能力でもある。


では…

どう笑いを取ればいいか?

まず

・ピエロ的な芸

・パントマイム

はダメだということがわかった。


では王道のギャグはどうだ。

俺は小学生の頃から…

ありとあらゆる…お笑い芸人のギャグをカバーしてきた。


総勢108人


それが俺のレパートリーだ。


お笑い芸人としては、人のカバーで笑いを取るのは

屈辱以外のなにものでもない。


少なくとも俺はそう思っている。


しかし…命を天秤にかけると。

そんなことは言ってられない。


俺は練習がてら…

広場でギャグをはじめることにした。

1個2個3個

やり出すうちに…

一人二人三人と客が増えだした。


こんなに客がきたのは生まれてはじめてだ。


俺は先輩芸人達が残してくれたギャグの数々に感謝した。


俺はこの世界でやり直せる。

先輩たちのギャグをカバーすることになるけど

許してくれ。


そう思っていた。


108の芸が終わったころには…通行人だけでなく…

広場で店をやっていた店主までもが

大きな拍手で俺を称えてくれた。


店主が言った。

「あんた、最高だよ。でも……お城の方々は、ちょっとわけが違うからな。気を付けな。」


「ありがとうよ…忠告胸に刻んでおくよ」

と俺はいった。


先輩芸人はよく

「芸人は、命をかけて初めて笑いが生まれる」と言っていた。

俺は、まさに今それをやったんだ。


……俺なら、余裕で笑わせられる。

あーお笑いの神様はいたんだ。

俺はこの国でお笑いキングになれる。


そう確信した。


翌朝

俺は王城に向かった。

勢いを失わないためだ


幸い謁見はすぐに叶った。


謁見室では

女王が数十名の近衛騎士と貴族などに囲まれ

凛としたたたずまいで玉座に座っている。


氷の女王という異名の通り、

肌が透き通るほど美しい女性だった。

芸能界にいたなら、間違いなくトップ女優になったに違いない。


「はじめよ」

の掛け声と共に

俺はギャグをはじめた。


広場のようにイキナリウケる事はなかったが…

10…20…とギャグを繰り出すたびに

近衛騎士の肩が震えるのがわかった。


貴族もキリっとした顔はとどめようとしているが…

決壊寸前の膀胱のように…

その顔は崩壊寸前だった。


50のギャグを超えた時…

世界は変わった。

近衛騎士副団長がひざを崩し…

笑いこけたのだ。


こうなったらもう収拾はつかない。

会場にいるほとんどが笑いだした。

俺はやったとばかりに108のギャグすべて出し切った。


よしクリアした。

これで伝説だ…


そう思った瞬間


「もうよい。帰れ」

と声がかかった。

女王の声が響く。

その声音は、真冬の風よりも冷たく、ひと筋の霧さえ凍らせそうだった。


……女王の顔は、はじめとなにも変わっていなかった。


……誰もが笑い転げる中、女王だけが微動だにしない。

その目は、まるで……命そのものを試す冷たさだった。


そして誰も、もう笑っていなかった。


「処刑せよ」


そして、笑い声の残響が消えぬうちに、俺は処刑場へと無言で引きずられていった。


「あれ…どこで間違った?」


ギロチンが落とされる。

鈍い金属音が、静寂を裂いた。

……真っ赤な飛沫が、石畳を濡らした。


ライラックのその命が、静かに、落ちた。


気付くと、また俺はベッドの上にいた。


……またかよ。

俺、どうすりゃいいんだよ。

あと何回、これを繰り返すんだ……。

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