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第四章:自動化防衛線 (4)

 王宮の大広間は、勝利の熱気に包まれていた。


 レオン王子を中心に、戦いに参加した全ての人々が集まっていた。

 リンディと騎士団、フェリクスと魔導技術院の研究者たち、バルドルと鍛冶職人たち、エルザと商会の人々。そして、イリスとミミも。


「本日、我がヴェルディア王国は、前例のない危機を乗り越えました」


 レオン王子の声が広間に響き渡った。彼の表情は誇らしげで、その緑の瞳には確かな自信が宿っていた。


「それは、ここにいる全ての人々の協力と勇気の賜物です。特に、アサギ殿の《オートメイト》技術と、卓越した指揮がなければ、今日の勝利はありえませんでした」


 王子が俺の方を向いて頭を下げた。

 それは王国においては異例の敬意の表れだろう。


「アサギ殿を、正式に『王国防衛貢献勲章』最高位の受章者とすることを宣言します」


 広間から拍手が沸き起こった。

 リンディとイリスが特に嬉しそうな表情で拍手しているのが見えた。

 ミミに至っては飛び上がって喜んでいる。


「私なんかより、皆さんこそ称えられるべきです」


 素直にそう言った。

 そして、本当にそう思っていた。


「それぞれの専門技術と知識、そして何より勇気—それが今日の勝利をもたらしました」


 俺の言葉に、王子は満足げに微笑んだ。


「まさにその通りです。だからこそ、今日から王国は新たな体制で再出発しなければなりません」


 そう言って、王子は次々と指示を出した。


 リンディは第七騎士隊隊長に昇進し、城壁防衛の全権を委任された。

 彼女は少し照れくさそうにしながらも、誇らしげに受け入れた。


 フェリクスは王立魔導技術院の副院長に任命され、《オートメイト》と既存技術の融合研究を監督することになった。

 彼は高慢な表情を崩さなかったが、目には明らかな喜びが浮かんでいた。


 バルドルには「王立武具師」の称号が与えられ、鍛冶職人組合の代表となった。

 彼は「余計なことだ」と文句を言いながらも、どこか嬉しそうだった。


 エルザには貿易特権が追加され、王国と大陸を結ぶ正式な商業大使となった。

 彼女は優雅に受け入れ、その琥珀色の瞳に野心の光を宿らせていた。


 イリスは王立魔導技術院の主席研究員に昇格し、古代魔法研究部門の責任者となった。

 彼女は真っ赤になりながらも、研究への情熱を新たにしているようだった。


 そして俺には、「王国技術顧問」の正式な地位と、さらに広大な工房が提供された。

 これにより、《オートメイト》の研究開発は大幅に加速するだろう。


 式典の最後に、王子が一同に語りかけた。


「今日の勝利は、アルカディア帝国への明確なメッセージとなりました。我々は彼らの挑発に屈しないということを」


 彼の表情が引き締まる。


「しかし、これは始まりに過ぎません。帝国はさらなる攻勢に出るでしょう。我々は準備を怠ってはなりません」


 全員が厳粛な面持ちで頷いた。

 今日の勝利がどれほど大きくても、それは一つの戦いに過ぎない。

 帝国との本当の対立はこれからだ。


「では、今宵は勝利を祝いましょう。明日からは新たな挑戦が始まります」


 王子の言葉で式典は終わり、祝宴が始まった。


 ◇


 夜も更けた頃、俺は宮殿のバルコニーで一人、星空を見上げていた。


 今日の戦いは確かに勝利だった。

 しかし、心の中には奇妙な感覚が残っていた。


 《オートメイト》の本来の目的は「効率化」だ。

 無駄を省き、世界を最適化する。

 しかし今日の勝利は、様々な個性と技術の「混沌」とも言える融合から生まれた。

 それは効率だけでは測れない何かだった。


「考え事?」


 背後からリンディの声がした。

 彼女は式典用の正装に身を包み、月光を浴びてまるで絵画のように美しく見えた。

 傷はほとんど癒え、その青い瞳は星空を映して輝いていた。


「ああ、少し」

「今日のこと?」

「ああ……今日の勝利は、俺一人の力ではなかった。みんなの協力があってこそだった」


 素直にそう言うと、彼女は微笑んだ。


「当たり前よ。一人の力には限界があるもの」


 彼女の言葉は単純だが、俺にとっては大きな気づきだった。


「今までは、全て自分一人で解決してきた。それが最も効率的だと思っていたから」


 星空を見上げながら続けた。


「でも今日、みんなの力が合わさったとき、それは効率という言葉では表せない何かを生み出した」


 リンディが静かに隣に立った。

 彼女の存在が不思議と心を落ち着かせる。


「人の心って、効率だけじゃ測れないのよ。恐怖も、勇気も、友情も」


 彼女の言葉に、女神の問いかけを思い出した。


 『効率の先に何を求めるのか』


 その答えが少しずつ見えてきたような気がする。


「ねえ、アサギ」


 リンディが真剣な表情で言った。


「あなたは王都を救った。英雄よ。でも、私はあなたがただの効率化マシーンじゃないと知っている」


 彼女の言葉に、思わず目を見開いた。


「最初はあなたのことを理解できなかった。感情がなく、ただ効率だけを追求する人だと思っていた」


 リンディは柔らかな微笑みを浮かべながら続けた。


「でも違った。あなたはミミを救い、イリスの研究を尊重し、今日は自ら危険な前線に立った。それは単なる効率の追求じゃない」


 彼女の言葉が胸に響く。

 確かに俺は変わりつつあった。

 この世界に来て、リンディやイリス、ミミ、そして多くの人々と出会い、何かが少しずつ変化している。


「リンディ、ありがとう」


 夜風が二人の間を吹き抜けていった。


「アサギ殿、リンディ殿」


 ダンカンが近づいてきた。

 彼の表情は暗く、何か重大な情報を持っているようだった。


「何かあったんですか?」


 彼は周囲を確認してから、小声で言った。


「偵察隊からの報告です。アルカディア帝国が大規模な軍を国境に集結させている。そして……」


 彼は一瞬言葉を選ぶように間を置いた。


「『紅き流星』と呼ばれる帝国のエースが、『ブリュンヒルデ』という強力な魔導アーマーで前線に到着したとのことです」


 リンディが息を呑んだ。


「リゼット・ヴァーミリオン……帝国軍最強の戦士」


 ダンカンが厳しい表情で頷いた。


「彼女と『ブリュンヒルデ』の組み合わせは、一個師団にも匹敵する戦力と言われています」


 帝国最強の戦士と、未知の魔導兵器。

 これは今日の勝利とはまるで次元が違う脅威だろう。


「準備が必要ですね」

「だからこそ、今日の経験を糧に、より強力な防衛システムを開発しなければならないのです」


 ダンカンは俺とリンディを交互に見た。


「これからの戦いはさらに厳しくなる。しかし、今日の勝利が示したように、我々には勝算があります」


 彼の声には確かな信頼が込められていた。


「明日から新たな準備を始めましょう」


 リンディが力強く言った。

 彼女の目には強い決意が宿っていた。


「ああ」


 俺も頷いた。これからの戦いに向けて、《オートメイト》をさらに発展させる必要がある。

 そして何より、今日学んだ「協力」の力を最大限に活かさなければならない。


 星空の下、三人は王都の夜景を見下ろした。

 今宵は勝利の夜。だが明日からは、さらなる挑戦が待っている。


 帝国との対決、そして「効率の先」に見出す答え—その旅はまだ始まったばかりだった。


 ◇


「世界最適化進行度:32.4%」


 眠りに落ちる直前、頭の中に女神の声が響いた。


「素晴らしい進歩です、アサギさん。しかし、本当の試練はこれからですよ」


 その声は遠ざかり、代わりに一瞬だけ奇妙な光景が脳裏に浮かんだ。

 宇宙のような漆黒の空間に浮かぶ無数の光。

 そしてその中に、《オートメイト》に似た青い光を放つ何かが……。


 その光景の意味を考える間もなく、疲労した体は深い眠りに落ちていった。


 明日からの新たな挑戦に向けて、力を蓄えるために。


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