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第四章:自動化防衛線 (3)

 城壁へ向かう道は混乱に包まれていた。

 警報が鳴り響き、兵士たちが駆け回っている。遠くからは戦闘の音が聞こえ、空には第三騎士隊のドラゴンライダーが旋回していた。


「状況報告を」


 ダンカンが近くの伝令兵に声をかけた。


「はっ! 中央部では防衛システムが魔物を押し返しています! しかし、東側では小型ドラゴノイドが猛攻中です! 第七騎士隊が応戦していますが、苦戦しています!」

「リンディ・アストリア副隊長の状況は?」

「最前線で指揮を執っています!」


 ダンカンの表情が一瞬曇った。


「急ごう、アサギ殿」


 東の城壁へと向かう途中、バルドルと鍛冶職人たちに遭遇した。

 彼らは追加の防具や武器を運んでいた。


「おい、アサギ! どこへ行く!」


 バルドルが声をかけてきた。

 彼の腕には汗と鍛冶の跡が光っていた。


「東側の城壁へ。防衛システムの調整と……リンディの救援だ」

「ならこれを持っていけ」


 彼は小さな金属球を差し出した。


「特殊合金で作った起爆装置だ。魔物に食らわせれば内部から爆発する」

「ありがとう、バルドル」


 彼は無言で頷くと、再び仕事に戻った。

 その背中には確かな職人の誇りが感じられた。


 東の城壁に着くと、そこは文字通りの戦場だった。


 騎士たちが小型ドラゴノイドと戦い、多くの負傷者が出ていた。

 防衛システムは部分的にしか機能しておらず、魔力の光は弱々しく明滅していた。


 そして、最前線に立つ金髪の騎士の姿があった。

 リンディだ。

 彼女は剣を高く掲げ、騎士たちに指示を出していた。

 鎧は傷だらけで、顔には血が滴っている。

 それでも、その姿勢は少しも揺るがず、眼差しは決然としていた。


「第三小隊、左翼を固めて!魔法攻撃班、準備!」


 彼女の声は戦場の喧騒の中でも通り、騎士たちはそれに従って整然と動いていた。


「リンディ!」


 俺の声に、彼女が振り返った。

 彼女の青い瞳が驚きと安堵を交互に映し出す。


「アサギ!? なぜここに……!」

「防衛システムの調整に来た。状況は?」

「見ての通りだ!」


 彼女が指さす先には、三体の小型ドラゴノイドが城壁を破壊しようと攻撃を繰り返していた。

 彼らの体には、大型のドラゴノイド同様、人工的な強化の痕跡が見える。


「あれは確実に帝国の仕業だ。通常の魔物ではありえない動きをしている」


 リンディの分析は的確だった。

 自然の魔物では、あのような組織的な行動は取れない。


「システムを最適化する。時間をくれ」


 彼女は頷き、再び部下たちへの指示に戻った。

 ダンカンも剣を抜き、前線に立った。

 その姿に、若い騎士たちの士気が上がるのが感じられた。


 俺は防衛システムの制御ユニットに向かい、《オートメイト》を起動させた。


「《局所最適化》、開始」


 魔力回路が青く光り、システムの内部構造が俺の頭の中に展開された。

 問題はすぐに見つかった。

 魔力の供給ラインの一部が損傷し、効率が大幅に低下していたのだ。


「《迂回路構築》、実行」


 損傷部分を避け、新たな魔力の流れを作り出す。

 システムの魔力効率が徐々に回復していくのを感じた。


「もう少しだ……」


 その時、背後から悲鳴が上がった。

 振り返ると、一体の小型ドラゴノイドが防衛線を突破し、こちらに向かって突進してきていた。


「アサギ、危ない!」


 リンディの叫び声が聞こえた。

 彼女が駆けつけようとするが、距離がありすぎる。


 ドラゴノイドの巨体が迫る中、咄嗟に《オートメイト》を使った。


「《緊急バリア》、展開!」


 青い光の壁が広がったが、ドラゴノイドの突進の前にすぐに砕けた。


「くっ……!」


 回避しようとしたが、間に合わない。

 その時、影が俺の前に立ちはだかった。


 ダンカンだ。


 彼は剣を構え、ドラゴノイドの攻撃を受け止めた。

 その衝撃で彼の体が後方に吹き飛ばされる。


「ダンカン!」


 駆け寄ると、彼は既に立ち上がろうとしていた。

 その動きには苦痛が見えたが、意志の強さは揺るがない。


「気にするな……任務を続けろ」


 彼はそう言って、再び剣を構えた。

 その姿勢には、長年の戦場経験から来る揺るぎない覚悟が感じられた。


 急いでシステムの調整に戻る。

 もう少しで完了するはずだ。


 そのとき、リンディの声が聞こえた。


「アサギ! 防衛システムはもういい! こちらを手伝って!」


 彼女は一体のドラゴノイドと単身で戦っていた。

 その剣は青い炎を纏い、魔法剣の力でドラゴノイドの鱗を削っていた。

 しかし、ドラゴノイドの再生能力は驚異的で、受けた傷がすぐに修復されていく。


「通常の攻撃では倒せない!」


 彼女の言葉に、バルドルの贈り物を思い出した。

 

「リンディ、あれの口を開けさせてくれ!」


 彼女は一瞬考え、すぐに理解したようだった。


「わかった!」


 彼女は剣を低く構え、ドラゴノイドの注意を引くように動いた。

 その動きには優雅さがあり、剣の扱いは見事だった。

 ドラゴノイドが彼女に向かって吠え、大きく口を開けた瞬間。


「今だ!」


 バルドルの特殊合金の球を、全力で投げ込んだ。


 球はドラゴノイドの口の中に消えていった。

 数秒後、内部から激しい爆発が起き、ドラゴノイドは苦悶の声を上げて倒れ込んだ。

 内部から広がる青い炎がドラゴノイドの体を包み込み、再生能力を打ち消していく。


「やった!」


 リンディの声には勝利の喜びがあった。


 この機に乗じて、防衛システムの最終調整を完了させた。

 システムが完全に機能を回復し、青い光が城壁全体を包み込んだ。


「システム復旧! 攻撃パターン最適化完了!」


 多重相防衛システムが全力で稼働を始めた。

 青い光の矢が次々と残りの小型ドラゴノイドに命中し、その体を貫いていく。


 騎士団も反撃の機会を得て、組織的に魔物を押し返し始めた。

 リンディとダンカンが先頭に立ち、精鋭たちが続く。


「このまま押し切るぞ!」


 リンディの号令に、騎士たちの士気が上がる。

 城壁の戦いが有利に傾きつつあるとき、中央部からの通信が入った。


「アサギさん! 中央部でも変化が!」


 イリスの声だった。

 通信クリスタルに彼女の顔が映し出される。


「なんだ?」

「大型ドラゴノイドが撤退を始めました! 他の魔物たちも混乱し始めています!」


 これは朗報だった。

 東側の小型ドラゴノイドへの勝利が、メインの魔物群にも影響を与えたようだ。


「三体の小型ドラゴノイドは統制役だったのか……」


 リンディの分析は鋭かった。

 彼らを倒したことで、魔物群のコントロールが効かなくなったのだろう。


「全防衛システム、攻撃モードに切り替え。撤退する魔物を最大限撃退する」


 指示を出すと、城壁全体から青い光の矢が放たれ、逃げ惑う魔物たちを次々と撃ち落としていった。

 騎士団も一斉に攻勢に出て、残った魔物を追い払っていく。


「勝ったわ……!」


 リンディの顔に安堵の色が広がった。

 彼女は疲れた様子だったが、その青い瞳には清々しい光が宿っていた。


「ええ、皆さんのおかげです」


 ダンカンも、負傷しながらも満足そうに頷いた。

 通信クリスタルからは、制御室の歓声が聞こえてきた。

 イリスやミミの喜ぶ顔、レオン王子の安堵の表情。


「アサギさん!本当にやりましたね!」


 イリスの声には純粋な喜びがあった。

 彼女の紫の瞳は涙で潤んでいるように見えた。


「アサギさーん! 無事でよかった!」


 ミミは泣きながら叫んでいた。

 彼女の小さな顔には安心と喜びが溢れていた。


「みんなのおかげだ」


 素直にそう言った。

 今回の勝利は、《オートメイト》だけではなく、みんなの力があってこそだった。


 フェリクスの魔力増幅器、バルドルの特殊合金、イリスの魔法理論、リンディの指揮能力、ダンカンの経験と勇気、そしてミミの……彼女の存在そのもの。


 思わず視界が霞んだ。

 これまで常に一人で物事を解決してきた俺にとって、他者と共に戦い、勝利するという経験は新鮮だった。


「アサギ」


 リンディが近づいてきた。

 彼女は疲れていたが、その顔には何か新しい表情があった。


「ありがとう。あなたがいなければ、王都は守れなかった」


 彼女の言葉は率直で、そこには騎士としての誇りと共に、一人の女性としての感情も垣間見えた。


「いや、俺も一人では何もできなかった」


 素直にそう答えると、彼女は少し驚いたような、そして嬉しそうな表情を見せた。


「そうね……私たち全員の勝利ね」


 彼女がそう言って微笑むと、遠くから歓声が聞こえてきた。

 魔物の退散を確認した市民たちが、城壁の下に集まり始めていたのだ。


 彼らの声が城壁に届く。

 その熱狂は、全ての住民が感じていた恐怖と不安が、喜びと安堵に変わったことを示していた。


「王子様がお呼びです」


 伝令が走ってきた。

 城壁での戦いは終わり、今こそ次の一手を決める時だ。


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