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第8話その光が消えたあとで

暴走する魔法炉

地底深くの軍事研究施設。

主人公・春香は、コロニー軍事部門の幹部・レイヴンが最後の切り札として起動した超高出力の「魔法炉」と対峙していた。これが暴走すれば、月面コロニー全体が崩壊しかねない――。


桐生(通信)

「春香! 出力ゲージが急激に上がってる! こんなの止められるのか……?」


春香

「やるしかない。ここで止めなきゃ……みんなが巻き込まれる……!」


月面コロニーのメインサーバーに繋がった暴走炉。

春香のサイバネ化された身体は“魔法”の制御負荷に耐えきれず、痛みと重圧に苛まれる。だが彼女は最後の力を振り絞り、炉に向かって手を伸ばす。


レイヴン(嘲笑)

「無駄だ。こんなもの、人間ごときに止められはしない。私が新たな支配者となるのだ――!」


主人公の決死の制御

春香は脳内に流れ込む膨大な演算コードを必死に組み替え、炉の出力を抑え込もうとする。圧倒的なエネルギーの奔流が、彼女の心身を限界まで追い詰める。


春香(心の声)

「お願い……あと少し……! みんなの生活を奪わせはしない……!」


ふと頭の中に、かつて触れ合ったコロニーの人々の笑顔がよみがえる。

市民フォーラムで声をかけてくれた母子、研究所で協力してくれた仲間、危険を顧みずに支えてくれた桐生――すべてを思い出し、春香は最後の演算を成立させる。


そして一瞬、炉がその出力を下げ始めた。暴走の危機は確かに遠のき、崩壊のカウントダウンが停止する。レイヴンの目が驚愕に見開く。


レイヴン

「ば、ばかな……人間風情が、これほどの制御を……!」


陰謀の崩壊と春香の犠牲

レイヴンの計画は頓挫する。

研究施設のシステムは停止し、居並んでいた軍事ドローンやサイバネ兵士も制御を失い、活動を停止する。施設の上部では、桐生と研究員ロイドが待機しており、すぐに証拠データをコロニー全域に拡散。軍事部門の不正と人体実験の実態が明るみに出る。


しかし――。


桐生

「春香、応答してくれ! ……返事がない……!」


制御を完了した春香は、力尽きて地面に崩れ落ちていた。過剰な演算負荷でサイバネパーツが焼き切れ、身体は致命的なダメージを負っている。


春香(口元に微笑みを浮かべながら)

「……やっと、止まったんだね……よかった……」


彼女の瞳は焦点を結ばず、意識が遠のいていく。駆けつけた桐生とロイドが涙混じりに名前を呼び続けるが、その声はもう届かない。


ビターな幕引き

施設外、数時間後

桐生とロイドらが押し寄せるコロニー軍の残党を排除し、何とか地上へ戻る。施設の内部データは完全に晒され、コロニー市民たちの怒りと絶望が渦巻く中、軍事部門の高官たちは続々と逮捕される。レイヴンも力を失い、部下に見捨てられ拘束される。


だが、その過程で――春香の容態は回復不可能という厳しい診断結果が下される。被検体としての特異体質ゆえにギリギリ生き永らえていたが、今の彼女にはもう体を修復する手段がない。


桐生

「こんなはずじゃ……! 頼む、もう少しだけ頑張ってくれ、春香……!」


医療室での処置もむなしく、彼女は命の炎を絶やそうとしていた。

陽が昇りはじめた窓の外、月面の地平線がわずかに白んでいく。


春香(最後の力で言葉を紡ぐ)

「先生……、ロイド……みんな……。私……少しでも役に立てたなら……嬉しいな……」


薄れゆく意識の中で、春香はかすかな笑みを浮かべる。それは「誰かのために生きた証」を噛みしめる安堵の表情だった。


桐生

「役に立ったなんて、そんな……君がいなければ、コロニーは……みんなは……どうなっていたか……!」


握りしめた春香のサイバネアームが、ポトリと小さな火花を落として動かなくなる。モニターが警告音を立て、フラットラインを示す。


ロイド(沈痛な面持ちで)

「……春香さん……。ありがとう……」


エピローグ:未来へ残る想い

コロニーの大勢は、軍事部門の失墜によって新体制づくりに向かって動き出す。隠されていた真実が公になったことで、人々は“魔法”の軍事利用の恐ろしさを学び、二度と悲劇を繰り返さないよう再建を誓う。


しかし、春香のいない世界はどこか空虚だ。

桐生は彼女の残したサイバネパーツの一部を手に、そっと胸に抱える。今でも微弱な電磁信号が名残のように微かに灯っているが、その主はもういない。



「あの日、春香は世界を救った。

そして、その代償として――自らの命の光を失った。

彼女の最後の笑顔は、コロニーにとって永遠の希望であり、取り戻せない喪失でもある。

けれど、僕は信じている。

いつか“魔法”が、正しき未来へと人々を導くと……彼女が示してくれたあの優しさが、月面に咲き続けると……。」


コロニーの再生に向けて、住民たちが立ち上がる。

だが、その景色の中に春香の姿はない。

――それが、彼女の選んだ、ほろ苦い結末だった。


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