表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第6話月面のデジタル・ソーサリー - 安定運用への軌跡 -

2 ~ 3 秒の間、Thought about magic and research

月面コロニーのデジタル・ソーサリー研究所。

先日の「魔法炉」暴走事件で春香が大きな功績を立てたことを受け、彼女を正式な“研究協力メンバー”として迎え入れる小さなセレモニーが催される。スタッフが歓声と拍手で迎える中、春香はどこか落ち着かない面持ちだ。


所長


「春香さん、改めて歓迎します。あなたの力があれば、月面コロニー全体が一歩未来へ進む。きっと私たちが夢見てきた“魔法”の安定運用が近づくでしょう。」


春香


「ありがとうございます。私でよければ、何でも力になります。…ただ、私自身もまだ“魔法”を使いこなせるわけじゃなくて……。」


研究員A


「心配しないで。私たちも日々勉強中だから、一緒に頑張りましょう!」


こうして和やかに始まる新たなスタート。しかし、あくまで“研究協力メンバー”としてであり、正規職員でも軍事部門の人間でもない立場の春香。

一方で「彼女がいなければ成り立たない」という事実が、早くも周囲に微妙な空気をもたらしつつあった。


セレモニー後、研究所内のカンファレンスルームで所長・桐生・研究員たちが集まり、具体的な研究項目を整理する。


魔法炉の安定制御


いまだ原因不明の誤作動が起こるケースがあるため、春香の適性を活かして制御プロトコルを再構築。

同時に、従来の制御アルゴリズム(誰でも扱える仕組み)の完成を目指す。

身体負荷を軽減するモジュール開発


春香が負うサイバネ化のリスクを減らすため、新たな生体インタフェースや安全機能の研究を行う。

桐生が中心となり、定期的な健康モニタリングと改良を担当。

月面社会への応用研究


“魔法”によるエネルギー効率化や重力制御の応用など、コロニー市民の生活を豊かにする取り組み。

大規模実験や住民参加型のテストを計画。

所長は熱意をこめて語る。


所長

「この3本柱がうまく回れば、月面コロニーはもとより、地球圏への技術普及も夢じゃない。春香さんが研究所に来てくれて、本当に助かるよ。」


研究所には、仮想空間(VR・AR)を使った“魔法”制御トレーニングルームが存在する。

春香はここで、研究員Bの指導のもと、量子演算とナノマシン制御の基礎を繰り返し学んでいた。


研究員B


「はい、次は演算負荷を10%上げてみましょう。息を整えて、一気に解くイメージじゃなくて、一つひとつ積み上げる感じで。」


春香


「わかりました……(頭の中に流れ込むコードを、ゆっくり整理するイメージ……)。」


春香のサイバネアームが淡く光り、仮想空間で魔法炉エネルギーの縮小モデルを制御する。時折、視界にノイズが走るが、以前より安定してきた手応えを感じる。


春香(心の声)

「ちょっとずつ慣れてきた。最初は激しい頭痛や吐き気に悩まされたけど、今はもう平気。これも“努力”で上達できるものなのかな……?」



トレーニングを終えた後、医療室に戻ると桐生が待ち構えている。

春香のバイタルデータを確認しながら、彼は警告を発する。


桐生


「春香、今回の演算負荷テストで心拍数と血中ナノマシンの代謝レベルがまた上がっている。確かに限界値までは行ってないが、甘く見ないでほしい。

どれだけ適性があっても、君は“人間”なんだ。このまま負荷を上げ続ければ、大きな障害が出る可能性もある。」


春香


「……ごめんなさい。でも、私だってもっと慣れたいんです。この研究は私だけじゃなく、コロニーのみんなの生活を支えることになるから……。」


桐生は苦い表情で、モニターに映る数値を見つめる。


桐生(心の声)

「春香の努力は尊いけど、研究所やコロニー上層部が彼女に期待をかけすぎている面もある。負荷を管理できるのは、今は僕だけ。何とかしなくちゃ……。」



ある日、研究所はコロニー内で開かれる市民フォーラムに参加するよう招かれる。テーマは「魔法技術のこれから」。

春香も招かれ、壇上から住民たちに向けて挨拶することに。


MC(司会)

「本日はデジタル・ソーサリー研究所の皆様をお招きし、“魔法”の安定運用についてお話を伺います。特別ゲストとして、魔法炉暴走を食い止めた春香さんにも登壇いただきました!」


観客から大きな拍手が起こる。

しかし一部には、不安や疑問を抱く住民の姿もあった。


市民A


「魔法って、そんなに安全なんですか? 前に大きな事故があって怖かったんですけど……。」


市民B


「もし軍事利用されたらどうなるんです? 私たちのコロニーは平和でいたいんですよ!」


不安げな視線が向けられる中、春香は少し緊張しながらマイクを握る。


春香

「皆さんの不安も当然だと思います。私もコールドスリープから目覚めて、この世界に驚きましたし、危険な面があることも知っています。

だけど、この技術には可能性もあります。私自身、まだ未熟ですが、研究所の皆さんと協力して安全で便利な“魔法”を広げるために頑張ります。安心してください!」


会場からはやや戸惑い混じりの拍手が起こるが、春香の真摯な言葉が住民の心を少し和らげたようでもあった。



フォーラムを機に、研究所は住民にも協力してもらう形で、小規模な“魔法”の実用実験を開始する。例えば:


農業プラントの制御


ナノマシンを使い、植物の成長を最適化。

月面という過酷な環境でも、新鮮な野菜や果物を効率良く育てる。

交通・物流の省エネ化


“魔法炉”から送られるエネルギーを新型バッテリーに蓄え、コロニー内の移動車両を電磁誘導で動かす仕組み。

事故リスクを下げるためのリアルタイム制御も研究課題。

春香は得意の制御力を活かし、各プロジェクトの調整役を務める。

市民の理解も少しずつ広がっていき、コロニー全体が明るい期待感に包まれ始める。


春香(心の声)

「こういう実用化の場を見ると、改めて実感する。私たちの研究が、このコロニーのみんなを支えてるんだ。もっと頑張ろう……!」



しかし、ある日突然、コロニーの一部地区で大規模な“魔法”の制御エラーが発生。

農業プラントが暴走し、植物が異常成長を始めたり、交通システムが混乱して車両が停止したりと、騒ぎが広がる。


所長(通信)

「緊急事態だ! 地域ごとの制御サーバーが誤作動している。春香さん、至急データセンターに来てくれ!」


春香は桐生とともに駆けつけると、メインスクリーンには制御ログの膨大なエラー表示が映し出されている。

研究員たちが懸命に対処しようとするが、何度もリセットを試しても復旧できない状態。


研究員A

「ダメだ……原因不明のループエラーが起きている。まるで何者かが意図的に書き換えたようなログだ……!」


春香

「私が直接、魔法炉のコントロールに干渉してみます!」


桐生が止めようとするが、春香は制御台に手をかざし、強制的にエネルギーリンクを確立。前回の暴走事故を防いだ時と同じ要領でコードを“読み解く”が、通常とは違うノイズが混在していて苦戦する。


春香(心の声)

「誰かがシステムをハックしている……? こんな形で“魔法”を利用するなんて!」


やがて春香はノイズの正体を捕捉し、ナノマシンと量子演算を集中させて不審なプログラムの書き換えを封じ込める。わずかながら頭に激しい痛みが走るものの、なんとか制御を取り戻すことに成功。

コロニー内の騒動は鎮静化し、住民に大きな被害はなかった。



トラブルを収束させた直後、春香は医療室で桐生の診察を受けていた。

今回の強制制御はかなり身体に堪えたらしく、医療モニタには高いストレス値と微小なナノマシン異常が記録されている。


桐生

「君が無事で良かった……でも、もう少しで脳波が許容値を越えるところだった。何があったんだ?」


春香は制御ログを回想しながら、口を開く。


春香

「誰かが意図的にコードを改竄していたみたい。…ただの不具合じゃなく、悪意を感じた。これは研究所にとっても大問題だと思う。」


所長

「確かに、魔法炉システムや各制御サーバーは厳重に守られていたはず……。内部犯行か、外部からのハッキングなのか。いずれにしても、調査が必要だ。」


ここで春香はあらためて思う。


春香(心の声)

「“魔法”は人々を助ける素晴らしい技術。だけど、その一方で悪用や妨害を企む勢力もいる。私はこの力を“安定運用”のために使うと決めた以上、こういうリスクとも戦っていかなきゃならない……。」



今回の事件を機に、研究所とコロニー政府は大規模なセキュリティ強化と“魔法”の安定運用を進める加速プランを発表。

「Spring Fieldスプリング・フィールド計画」と名付けられたプロジェクトでは、春香を中心に新たな制御アルゴリズムを作成し、コロニー内のインフラを段階的にアップグレードしていく方針が決定する。


所長


「この計画は、まさに君が中心になる。辛いこともあるかもしれないが、世界を変えうる偉業だよ。」


春香


「はい……私、怖くないと言ったら嘘になるけど、こうやって目標がハッキリすると不思議とやる気が湧いてくるんです。」


桐生はそっと微笑むものの、その目は真剣だ。


桐生

「僕は医師として、そして研究者として、最後まで君を守るつもりだ。もし限界が来たらためらわず言うんだよ。君がいなくなったら、この計画も意味を成さないんだから……。」


エンディングシーン的な締め方をする場合、下記のような演出で物語を区切ることができます:


コロニー展望ホール

春香と桐生がコロニー上層の展望ホールへ足を運ぶ。そこから見下ろす月面の風景と、照明に彩られたコロニー都市。

春香はガラス越しに、その風景を見つめながらふと呟く。


春香

「もう、私は一人じゃない。先生や所長、研究員のみんな、コロニーの人たち……私を支えてくれる人が、こんなにたくさんいる。

いつかこの技術が、地球圏を超えてもっと遠い場所にまで届くようになれたら……。そんな未来を見てみたいんです。」


桐生

「君ならきっと実現できる。……さあ、明日は早い。僕たちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。」


ガラス越しの暗い宇宙空間に、地球の青い光がぼんやりと浮かぶ。月面のクレーターを照らす太陽の光が差し込み、春香のサイバネアームが微かに反射する——。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ